3-3 再生

 現地での捕虜の管理を任されていた少佐は、戦闘が終わってもまだ仕事が残っていた。国連から派遣された医師団の診察を受けた捕虜が、現地から移送されるまでを見届ける。それが管理者としての仕事だった。

 その時に事件が起こったのだ。

 診察を終え、移送車の到着を待っていると、一人の捕虜が不振な動きをしたそうだ。


「おいそこ、変な真似はよせ」


 だが捕虜はまるで気が狂ったようにうめき声上げたという。

 そのとき少佐は違和感を覚えた。捕虜の首筋に外部機器が取り付けられていたのだ。少佐はそれがすぐに何らかのマシンインターフェイスであると直感した。

 すぐに連絡のタグを開き、エリアに報告しようとしたが、すでに遅かった。少佐はたった一人で、捕虜数名に襲われたのだ。

 どうせフォースギアなら、死なない。ならそのままにして耐えればよいと、戦場に行かなかった者たちは言った。捕虜を殺す行為は戦争法に反する重罪である。

 だがそれは戯言だ。いくら技術が発展しようとも、人間の本能を消し去ることはできない。クーラーの効いた涼しい研究室では分からない、戦場の恐ろしさは確かにある。ゆえにこれほどまでの自殺者を出したのだ。

 気が付いた時には目の前に、肉片と血の海が出来ていた。その行為が問いただされたのは終戦宣言をされた後だった。まさに戦場で戦った兵士は部品に過ぎない。

 少佐はすべてを話し終えると、その場に座り込んだ。


「俺は嵌められたんだ」


「その外部取り付けのインターフェイスですか」


「医師団の診察を受ける前はあんなものはなかった。俺は捕虜全員の顔を覚えていたし、身体検査も行った。おそらくあれは脊椎から脳に干渉し、ドーパミンを以上増幅させるものだろう」


「ですが、国連がなぜそんなことを?」


「マーキュリー計画を実行するためだ。つまり人間の完全なる家畜化だ」


「どういうことですか」


「もう二度と戦争を起こさない方法……わかるな」


少佐はそう言うと目を剥いた。


「ナイフというプログラムの削除……」


 私がそう呟くと、静かにうなずく。


「マーキュリー計画の目的な保証金制度による反乱の鎮圧化。それは表の理由だ。一つは下位層のさらなる平等化、そして管理。そしてもう一つは人間の人格操作。人間の感情の起伏を実験する上で最も簡単なのは怒りの感情だ。一番見えやすくサンプルが取れる。いわば感情を制御することができれば、この世から争いは消え去る。そしてそれを実行するにはどうしてもやっておかなければならないことがある。それは旧権益者の一掃だ。前時代を知る者、そして新時代の脅威となる者は政府によって一掃される。そして全てを新しくした上で、新たな一歩が踏み出せる。この五年間、私は実に無力だった。死ねるものなら死のうと何度も思った。仏教の教えでは俺たちは死ぬために生きているんだとよ」


「それを私に伝えるために、これを?」


「これは釈明ではない、忠告だユリサキ。時代は変わるぞ」


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