3-2 再生
脳内の電波を通して、少佐との面会が始まった。
少佐と私は真っ白い空間に立っている。そこには何もなかった。
視界の右端には面会の残り時間を表示され、時間は絶え間なく過ぎ去っていた。
「久しぶりだな、ユリサキ曹長」
「いまは少尉になりました」
少佐は少しだけ笑みを浮かべた。
「戦時中は出世が速いな」
「身に余る敬称ですよ」
「よく私のメッセージに気がついてくれた」
私は目を細めた。
「別に盗聴は気にするな。我々にプライベートは存在しない。ここで話したことを外部に持ち出すことは禁止されている。それにどう足掻いても脱獄は不可能だろ。私が言ったことを覚えているか。いずれ人を刺そうとすれば、ナイフというプログラムが消える未来が来ると」
「あいにく、メッセージに気が付いたのは私ではありません」
「よいパートナーを持ったな。だが結果として、君はこうしてここに来た。君はそれが本当だと見抜いた、そこに意味がある」
「面会に来るのがこれほど遅くなってしまって申し訳ございません」
「別にそんなことの催促のために、あの電波を飛ばしたわけではないよ」
「そもそもどうやってあれを?」
「そんな野暮なことを聞く柄じゃないだろ。君は誰よりも時間を大切にした」
少佐はそう言うと、視線を右端にずらした。おそらく少佐の視界にもこの面会の残り人が表示されているのだ。そういわれた私は小さく息を吸い、少佐の瞳をじっと見つめた。
「なら単刀直入に聞きます。なにか私に伝えたいことがあった。ということですね?」
「ああ、そうだ。どうやらマーキュリー計画の試行がついに始まったようだな、そこで君に伝えなきゃならないことがあるんだ」
私は生唾を飲み込んだ。
「俺の行為の真相について話す」
シグマ少佐はじっと私の両目を見つめ、静かに口を開いた。
「あれは捕虜をエリアに移送する前夜に起こった。君たちがフォースギアを解除した後だ」
シグマ少佐は滔々と語り出す。言葉には抑揚がなく、まるでロボットのように、あった事実をそのまま喋っていった。
私たち友軍部隊が鹵獲した敵の捕虜たちは、それぞれのエリアに移送され、職業訓練を受ける予定だった。それがこの戦争が戦争とは呼べない理由だった。降伏する人間には現代の最新鋭技術を提供し、さらなる文化の促進を目指すが、それを拒む人間には躊躇することなく、引き金を引く。国連がこの世界戦争の終焉を技術と福祉によって、終わらせようとしていたことが、よい表れである。文明と文化は違う。世界は一つになり、より大きな文明を築き上げたが、その代償として様々な文化を失った。宗教、思想、古典、そして家族までも、利便さと引き換えに失っていった。
技術格差を埋めるのもまた技術だ。私たちはその迷宮に閉じ込めらていた。
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