2-4 能力社会
リアンは中国の許昌市で生まれ、幼いころから、電子工学の才能を見出した。中国の工科高校を在学中に、海上都市に留学し、世界規模の最新鋭の技術を学ぶ中で、マシンインターフェイスの研究で功績を残した。それはマシーンと人間を繋ぐことで身体的な障害を克服する内部的なパワードスーツの開発であった。元々、リアンは福祉に興味があったが、その卓越したアイディアと技術が国連軍部に買われ、システムエンジニアと兵器開発に抜擢される。
だがリアンの研究は少し古典的な分野として王道から外れていった。世界規模で動いている人間の在り方は肉体と脳を切り離すことが前提にあり、時代はメタバースへと動いていた。そのため、リアンの提唱したシステムはその補佐的な役割しか持たず、徐々に研究の一線からは退いていった。いずれ私と出会ったリアンは軍を退役し、自分の研究を深めるべく、ラボを開いたのだ。
私も人体主義には陶酔していた。だが世間の風当たりを強く、肉体は脳、もとい魂を入れる入れ物でしかないという利己的遺伝子の理論を用いた生存機関とする見方が、多くを占めるようになってきた。
私はそれでも紙の書籍が好きだったし、造花よりも生きている花のほうがずっと好きだった。それを受け入れているリアンは私がベッドでラジオを聞いていると、いつも笑いながら言った。
「本当にそれ、好きだね」
「別にいいじゃん、なんか落ちくのよ」
「そもそもいまでも放送している番組なんてあるの?」
「一定のラジオファンはいるのよ」
「私には到底理解できないわ」
テレビやラジオといったバラエティなメディアはほとんど個人によって行われた。音楽も芸能も書籍も会社を通さずに個人による取引が主流となり、それぞれが独立した個人事業主である。これもインターネットの発展とAIが大きかったのだろう。こういった部分だけを見れば、すでに資本主義社会は崩壊していた。いまは金すらも権力とは切り離され、当人の技量だけが人生を左右した。
リアンは私の人体主義、いやあまりに古典主義なところに呆れ声を出すが、なんだかんだ言っても、隣でラジオに耳を傾けている。
なんとなくこの世界中のどこかから飛んでくる電波に私たちは魅了されていた。聞き始めて、数分すると眠くなってくる。ラジオを聞きながら、眠りに落ちるのが私たちの日課だった。
だが、リアンが呟いた。
「よくノイズが入るわね」
「仕方ないわよ。ラジオ電波なんて、誰も整備していないんだから。ほぼ空間の電波に乗せているに過ぎないのよ、あまり精度はないわよ」
「そうね……」
だがリアンは目を細め、さらにスピーカーに耳を近づけた。
「このノイズ、何か一つのパターンがない?」
「え? どういうこと?」
「前々から気になっていたんだけど、このノイズには一定の法則性があるような気がするのよ」
「単なる偶然じゃなくて? 周波数の関係で、同じようなノイズが入るとか……」
「いや、だってこのノイズのまるでギターの弦を押さえているような、そんな法則性があるわ」
リアンに言われるまで、そんなことは一切気が付かなかった。確かに言われてみれば、ここ最近になってノイズが多くなった気がする。
「なにか、人為的なメッセージかもしれないわ」
リアンはそう言うと、人差し指で顎を押さえながら考えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます