8.偉大なる父
ザッパーンと飛沫をあげて、広い湯船に飛び込んだジャスパー。
頭から湯がかかる、シンバとアスベストとコーラル。
「このデブ! 風呂は飛び込み禁止だろ!」
「だって、泳げるぐらい広いんだぜ?」
「風呂は泳ぐ場所じゃないだろ、どういう教育して来たんだ! おい、シンバ、コイツの教育をし直せ!」
怒鳴るコーラルに、ジャスパーはムスッとしながら、
「マーブル姫を攫っておいて、よくここにいられるもんだ、しかも風呂に入るなんて、図々しいにも程がある」
と、ブツブツ文句を呟いた後、ギロリとコーラルが睨むから、ぶくぶくぶくと湯の中に頭を沈ませる。
シンバ達は、ネフェリーンの露天風呂に入り、溜まった疲れや汚れを落とす。
熱い湯につかりながら、シンバは、一息すると、
「アスベスト、ベリル王国での報告がまだじゃが——」
そう言った。
「あぁ、はい」
と、アスベストが話そうとした時、
「ゆっくりしている時は仕事の話はするな!」
コーラルが怒鳴るので、シンバはなんだコイツと言う顔で、コーラルを見る。
「いいか、休んでいる時は一生懸命休め! 働く時は一生懸命働く! 今から明後日までは仕事の事は考えず、ゆっくり休む事だけを考えろ! 余程、何か大事があれば、アスベスト本人から口を開くだろう」
コーラルの意見に、確かにとアスベストは頷き、シンバは、ずっと、なんだコイツと言う顔でコーラルを見続ける。
「しかしコーラル殿、何故、明後日なのじゃ? 明日で良かろう?」
「なんだ、知らないのか? 明日はここネフェリーン王国でダンスパーティーがあるんだぞ、毎年恒例のお姫様の誕生日パーティーを兼ねた盛大なダンスパーティーだ。きっと明日は姫の無事も含め、盛大すぎるパーティーが開かれるだろうなぁ。まぁ、これから先、休む事なんてないだろうから、いいんじゃないか、明後日まではゆっくりしても——」
「誕生日・・・・・・?」
「なんだ、その顔? まさか本当に知らなかったのか? 婚約者の誕生日だろ」
そう言われ、シンバは少しムッとする。
「しかし、参ったのぅ、ダンスなど、した事がない」
「ダンスした事がないって、冗談言うなよ」
「冗談など、わしは一度も言わん」
そう言ったシンバを、何を冗談ばかりと、コーラルが見た瞬間、余りに真剣な顔をしていたので、嘘だろと、
「本気でコイツは冗談を言わないのか?」
と、何故か、ジャスパーに問うと、
「王子は冗談を真実にするからな」
ジャスパーは頷き、そう言った。
子供の頃から、シンバが、冗談のような無理な難題を出来ると真実にして来た事をジャスパーは知っている。
「・・・・・・王子としてユーモアもなければ、ダンスも踊れないのか? 王族として失格だろ、シンバ、今直ぐ騎士に転職した方がいいぞ。その方が有能だ」
そう言ったコーラルに、シンバはザバッと湯から出ると、
「アスベスト! ダンスを教えるのじゃ!」
そう吠える。アスベストは、えぇ!?と、驚いた顔になるが、
「無理だろ、アスベストは最強の騎士なんだろ? ダンスホールで、見張り兵と共に、護衛に徹する立場だろうが」
と、コーラルに言われ、シンバはムゥッと考え込む。
「しかし、アレだな、シンバがマーブル姫にふられるのも時間の問題だ」
コーラルはニヤニヤ笑いながら、そう言うと、
「女の子がユーモアもない男を好きになる訳ないだろう」
と、クックックッと笑いを漏らす。
シンバはマーブルが、ジャスパーを大好きだと言っていた事を思い出す。
しかも、好きではなく、大好き。
好きの上に大が付く。
シンバは硬直するように、突っ立ったまま。
「しかも、ダンスができないとなっては、マーブル姫も呆れるだろうな」
更に、そんな事を言われ、シンバはガーンと頭の中にショック音が響き渡る。
「とりあえず前を隠せ。そんなもの見せるな! 僕がダンスくらい教えてやるから」
「コーラル殿が?」
「僕は誰かさんと違い、完璧な王子だからね、ユーモアもあるし、ダンスも踊れる」
ニヤリと笑い、そう言うから、シンバは、
「・・・・・・ダンスぐらい、教えてもらわんでも、完璧に踊ってみせる! ジャスパー殿! 来るのじゃ!」
そう言うとバシャバシャと湯の中を歩いて、脱衣室へ向かう。
なんで俺が呼ばれる訳?と思いながらも、ジャスパーは焦りながら急いでシンバを追う。
「ははは、面白いな。充分、ユーモアたっぷりだ」
「余り王子をからかわないで下さい」
アスベストが、笑うコーラルに注意するが、コーラルは、笑いっぱなし。
「で、ベリル王国は無事だったのか?」
急に笑いを止めて、コーラルは、知っている癖に、わざわざ尋ねる。
「・・・・・・ベリル王国には、元玄武であったエンジェライト、ゾズマ騎士隊がいますから。そう簡単に落ちはしません」
「ゾズマ騎士隊か。まさか白虎達・・・・・・いや、エンジェライト、デネボラ騎士隊と言えばいいか? ソイツ等も、このネフェリーンに置いていくなんて言い出す気じゃないだろうな、シンバは」
「さぁ? どうでしょう」
「言っておくが、アレは僕の支配下にある騎士達でもあるんだからな」
「私に言われましても——、仕事の話は明後日では?」
と、アスベストは湯から出て、お先と、脱衣室へ向かう。
コーラルは一人、ゆっくりと湯につかりながら、
「うまい酒が欲しいなぁ」
そう呟き、手足を伸ばす。そして、暫くしてから、脱衣室へ行くと、シンバが、
「アスベストはまだ風呂か?」
と、ジャスパーと現れた。
「いや」
「そうか」
「何かあったのか?」
「いや、大した事ではないのじゃが、わしの髪が伸びたので、切ってもらおうと思うてな」
「はぁ!? そんな事を騎士にさせてたのか!?」
「爺が死んでしもうてからは、アスベストがわしの髪を切っておった」
「ふーん」
コーラルは爺って誰だよと思ったが、とりあえず、頷き、体を拭いて、服に着替えながら、
「よし、僕が切ってやろう」
などと言い出す。
「ここで待っていろ、今、メイドにハサミを借りてくるから」
物凄い楽しそうに、そう言うと、脱衣室を出て行った。
「・・・・・・アイツ、絶対に王子の頭を変にする気だ」
ジャスパーがそう呟くから、シンバの顔が強張る。
「・・・・・・アイツ、絶対にマーブル姫に嫌われる頭にする気だ」
更にそう呟くジャスパー。
「・・・・・・アイツ、絶対に変な頭をユーモアだって言い切る気だ」
そう呟いた後、チラッとシンバを見て、
「・・・・・・王子、いいの?」
何がいいのか、とりあえず、呟くように問うので、
「何も言うな」
と、シンバも呟くように答える。
コーラルがハサミを持って、戻って来た。
「コーラル殿、やはり髪はまた今度にしようかと——」
「まぁまぁ、ここに座れ、僕がカッコよくしてやるから」
コーラルはシンバを鏡の前の椅子に座らせる。
ジャスパーは見てられないと、哀れな目をシンバに向けて、ここを出て行く。
「ジャスパー殿!」
と、シンバが椅子から立ち上がるが、コーラルに肩を押さえられ、また座らされる。
そして、有無を言わさず、ジョキジョキと、迷いなくシンバの銀色の髪を切っていく。
もう止める事もできない。
鏡の前、唖然とするシンバ。
「心配するな、僕は王子だぞ。何でも器用にこなす」
「お、王子は髪を切る事も得意とするのか!?」
「そうだな」
そうではないが、意地悪なコーラルは即答で頷く。
シンバはそうだったのかと、後でジャスパーの髪を切ってみようと思う。
鏡の中のシンバを見て、また髪を切って行くコーラルの目は真剣だ。
「・・・・・・子供の頃、僕の髪は父が切ってくれていた」
コーラルはシンバの綺麗な銀色の髪を触りながら、ハサミを動かし、話し出す。
「普通は、王が髪を切ってくれるなんてないだろうけど、僕の父は、幼い頃、髪切り屋になりたかったらしい。僕は父の髪切り屋ゴッコに付き合ってあげてたんだ」
笑いながら、そう言って、鏡の中のシンバを見る。
「王族って言うのは、将来に夢を見れないものだな。なりたいものに、なれない。だろ?」
「・・・・・・」
「僕は父のようになりたかったよ、優しい父のようにね」
「・・・・・・そうか」
「シンバは?」
「わしは父を知らぬ」
「・・・・・・へぇ」
少し間を空けて、頷くコーラルは、知っていたかのよう。
「わしを育ててくれたのはパミスと言う爺じゃから」
「へぇ」
「第一王子は教育係りに育てさせるのがエンジェライトの掟じゃ」
「へぇ」
「父の事は人から聞くだけで、本人と接して、知るような事は何もない」
「へぇ」
「父とは、優しいものなのか?」
そう聞いたシンバに、コーラルは手を止め、鏡の中のシンバを見る。
シンバも鏡の中のコーラルを見て、二人、鏡を通じて、見合っている。
「・・・・・・人に寄るだろ、怖い父親もいれば、優しいのも、面白いのもいるだろ」
「・・・・・・そうか」
またコーラルはハサミを動かし始める。
シンバの銀髪が、バサバサと落ちて行く。
「寂しいな」
そう囁いたコーラルに、シンバは鏡の中のコーラルを見る。
コーラルの目線はシンバの髪の方にあり、そして、鏡に視線を移した瞬間、シンバと目が合うが、直ぐにシンバの髪の方に視線を向ける。
「よし、できた」
と、コーラルが笑顔で言うから、シンバは鏡の中の自分を見る。
「・・・・・・こんなもんかのぅ」
「こんなもんってなんだ、結構イケてんだろ、これならダンスが下手でもユーモアがなくても、マーブル姫にふられる確立が低くなるぞ」
「・・・・・・そうか」
頷くシンバに、そこ、普通に頷くなよと、コーラルはユーモアがあるのか、ないのか、わからないシンバに苦笑い。
「わしはもう一度、風呂に入る」
「あぁ、じゃあ、僕はこの髪を片付けるよう、メイドに伝え、そのまま用意されている部屋で先に休むよ」
頷いたシンバに、じゃあとコーラルは背を向け、脱衣室を出ようとしたが、
「寂しいのは、わしか? お主か?」
突然、シンバが、コーラルの背にそう聞いたので、コーラルは足を止め、振り向いた。
「寂しいのは父を知らぬわしか? それとも父を知っておるお主か?」
「・・・・・・どっちもだろ」
そう答えると、コーラルは出て行った。
そして、次の日——。
コーラルの言う通り、盛大なパーティーの準備が朝早くから行われていた。
今夜はダンスパーティー。
ネフェリーンエリアの者達が城に集まり、他国からの出席者も大勢来る。
「今日のパーティーは仮面をつけます」
突然のマーブルの提案に、王は首を傾げる。
「私が主役なんですから、私の好きなようにやってもいいでしょう? 来客者達には、こちらが用意した仮面をつけてもらうの」
「それは良いが・・・・・・顔が見えないと言うのは危険が増さないか?」
確かに王の言う通りだが、マーブルは、
「大丈夫よ、だって、シンバがいるもの」
と、強い用心棒を傍に置いてあるかのような台詞。
「やっぱり、騎士に転職した方がいいぞ」
コーラルが、シンバにそう耳打ちするので、シンバはムゥッとする。
シンバやアスベスト、ルチルもジャスパーも、勿論コーラルも、用意された衣装を身につける。
シンバとコーラルはプリンスコート。
アスベストとジャスパーはタキシード。
ルチルはファーのドレス。
コーラル以外は、皆、初めての衣装を目の前に戸惑う。
シンバはプリンスコートを手に取り、動かないので、
「王子、着替えに行かないのですか?」
アスベストが声をかけた。
「・・・・・・いや、なんか、情けないと思うてな」
「どうしてですか?」
「何から何まで、全部、マーブルの・・・・・・ネフェリーン王国の世話になり、衣装さえ、自分で用意できんのじゃ、情けなかろう、しかも誕生日じゃと言うのに、プレゼントも用意しとらん。わしがパーティーに出席する意味があるのかのう・・・・・・」
「ダンスも踊れないしな」
そう言ったコーラルを、シンバはムッとした顔で睨む。
「出席してくれれば、それだけでいいのよ、だって、アタシがマーブル姫だったら、やっぱり好きな人に祝ってもらいたいもの。誕生日よ、女の子にとって一大イベントだと思うわ。プレゼントより、おめでとうって言葉だけでいいんじゃない? ましてやお姫様なのよ、高価なものは、もういらないって程、持ってるでしょうから、何もいらないでしょ」
「そうか」
シンバは頷いて、プリンスコートを着る事にした。
夕刻になると、続々と人が集まり出し、ネフェリーン城の人の出入りが激しくなる。
あちらこちらに警備された騎士達。
アスベストも、ルチルも、パーティーの出席者の格好をしながら、騎士達同様に、警戒して、辺りを見ている。
ジャスパーは、並ぶ料理に、早速、手を出して、頬張っている。
「白虎達も警備にあたっている。これだけ厳重な守備に、何もないだろ」
コーラルはシンバにそう言うが、シンバは難しい表情のまま。
「おい、何かあるって言うのか?」
「・・・・・・」
「おい!?」
「ん? なんじゃ? 呼んだか?」
「何を深刻に考えてたんだ?」
「あ、いや、ダンスの本を読んだのじゃが、いまいち、ようわからんので、頭の中でシュミレーションしておったんじゃ」
「・・・・・・あっそ」
コーラルは、仕事は明後日からと言った手前、シンバを責められない。
そして日も暮れ、王が、集まった人々に挨拶をする。
付けていた仮面を外し、王は、高い場所から、皆を見下ろした。
「今日は我が娘マーブルの誕生祝に来てくれて、心から礼を言う。マーブルも19歳。我が娘ながら、美しく、心優しくもあり、立派に姫として成長してくれた。だが、まだまだ至らぬ事ばかりで、目を離せないのも事実。どうか、これからも温かくマーブルを見守って行ってくれるよう、お願いする」
その後、マーブルが、仮面を外し、一礼をして、
「こんなにも沢山の方が、私の誕生日に来てくれて、とても嬉しいです。素晴らしい日にしたいので、最後まで楽しんで行って下さいね」
笑顔で、そう言うと、再び仮面をつけ、マーブルは下がった。
あちこちで王族達が、挨拶を交わしているが、シンバは特に挨拶する必要はないので、退屈そうにフロアを行ったり来たり。
コーラルはこんな場所も慣れているのか、どこかの国のお姫様と盛り上がっている。
「・・・・・・成る程。仮面をつけとる御蔭で、どこの誰かわからぬからな」
プリンスコートを着ているシンバもコーラルも、仮面の御蔭で、顔が隠せていて、どこの国の王子か、名乗る必要もない為、皆と同じように盛り上がる事ができる。
ダンスフロアに音楽が流れ始め、盛大な拍手と共に、王とマーブルが踊り出す。
マーブルは、直ぐに王から、兄である王子にパートナーを変え、王は妃と、そして、周囲の者達も、次から次へとパートナーを決め、踊り始める。
——なんじゃ、パートナーがおらんのであれば、踊る必要ないんじゃな。
と、シンバはホッとするが、どこぞの王子達が、マーブルをダンスに誘っているのを目にして、自分も誘わねばと焦り出す。
マーブルはごめんなさいと申し訳なさそうに、王子達の誘いを断り、ステップを踏むように、軽やかに人込みを抜け出して、今、シンバの目の前に立つ。
そして、シンバに手をスッと差し出した。
——ダ、ダンスを申し込まれておるのじゃろうか。
——ど、どうしたら良いのじゃろう、まずは手を握るべきじゃろうな。
——でも握ったら最後、ダンスをする事になるぞ。
——わしはマーブルをリードできるのか?
——こんな場で、マーブルに恥をかかせてしまうぞ。
頭の中、ぐるんぐるんと思考が廻り、もう何も考えられないと真っ白になった瞬間、
「シンバよね?」
仮面から出ている瞳を覗き込むように、マーブルが小声で、そう聞くので、シンバは小さく頷いた。すると、
「ここから私を連れ去って?」
思いも寄らぬ台詞。
「早く、私の手を握って、バルコニーに連れて行って?」
ダンスを踊らなくて済むと思ったシンバは、喜んでとばかりに、マーブルの手を握り、颯爽と、かっこよく姫を連れ去っていく。
「マーブル姫を独り占めする王子はどこの国の王子だ?」
と、意地悪なコーラルが、わざわざ大声で、そんなふざけた事を言い出すから、フロアが騒がしくなる。
「コーラル殿め、わしで楽しんでおるな」
「うふふふふ、あの人、あんなに楽しい人だったんですね、もっと怖い人だと思ってたわ」
バルコニーに出て、仮面を外し、笑うマーブル。
笑顔のマーブルを見ていると、その笑顔を作っているのは、自分ではないのだと、シンバは何か面白い事を言わなければと考え込み、黙り込むから、マーブルが、
「あ、ごめんなさい、連れ去ってなんて言ってしまって」
と、謝り出した。
謝ってほしい訳ではない、笑ってほしいのに。
昨夜、ジャスパーに教えてもらった冗談が、何故か、ひとつも浮かんでこない。
——くそっ、わしはこんなに記憶力が悪かったじゃろうか!
そうではなくて、特に必要ないものを覚えるのが苦手なだけだろうが、シンバはマーブルの為に何もできない自分が嫌になる。
「ね、髪切った?」
「あぁ、まぁ、少しばかり——」
「仮面とって見せて?」
「パーティーが終わったらな」
「パーティーが終わるまで、お預け?」
「そうじゃ」
「・・・・・・ありがとう」
突然、マーブルがそう言うので、何が?と、シンバはマーブルを見る。
「連れ去ってくれてありがとう。私、毎年、このパーティーが嫌だったの。いろんな国から王子や姫が来るんだけどね、変な自慢ばっかりして、私の誕生日じゃなくて、自慢大会って感じなんだもの。このドレスはシルクだの、指輪はダイヤだの、ご自慢のティアラは黄金だの、くだらないでしょ? 特にオニキス国の姫は最悪。さっきもね、『あら、マーブル姫、お誕生日だと言うのにシンプルな格好ねぇ、わたしのドレスは小さな宝石を散りばめてますのよ』ですって。悪かったわねぇ、どうせ、私のドレスは只のスパンコールよ!」
ムゥッと怒った顔で、そう言ったマーブル。
「・・・・・・? いや、そのドレス、シンプル・・・・・・? なのか? でもまぁ、似合おうておるぞ?」
「宝石よりスパンコールで充分の女って言いたいの!?」
何故か、八つ当たりするように、シンバに怒り出すマーブル。
シンバはよくわからなくて、ポカーンとした表情でマーブルを見ているが、その表情は仮面に隠されているので、マーブルには、わからない。
「王子様達は私を好きで誘ってくれてる訳じゃなく、この大きなネフェリーン王国を手にしたいだけで、私に言い寄って来る人ばかり。嫌になるわ」
「・・・・・・わしとどう違うのじゃ。兵を欲しがったわしと同じじゃろう」
「シンバは、愛する努力をすると言ったでしょ?」
「・・・・・・」
「努力してくれてる?」
「・・・・・・しておらぬ」
「えぇ!?」
「・・・・・・言われて、気付いたら、いつ努力したかもわからん内に、もう大好きじゃ」
「・・・・・・ホント!?」
「あぁ」
どんな顔をして、そんな事を言っているのだろうと、仮面の下が気になるが、しっかりと頷いたシンバに、マーブルは嬉しくなる。だが、直ぐにハッとして、言い訳のように、
「別に宝石のドレスを着たい訳じゃないの、これで充分なの」
などと慌てて言い出した。
「そうか」
「嫌な女だと思った?」
「何がじゃ?」
「だって、最悪なんて人の事を言う私の方が最悪でしょ? それに最悪な人達と私も変わりないでしょ? 誕生日なんて言いながら、只、綺麗な服を着て、見せびらかしてるようなもんでしょ」
「・・・・・・必要な事じゃろう、誰が上に立っておるのか、そうやって、人々にわからせる。わしのように戦って血を流して、上に立とうとする者より、平和で良い事じゃ」
シンバは優しい。
それが嬉しくて、マーブルは笑顔になる。
シンバも笑顔になるマーブルに、もっと声を出して笑わせたいと思うが、どうしても面白い事が思い浮かばず、やはり仮面の下は難しい表情。
「ねぇ、シンバも小さい頃、私の誕生日パーティーに来たかもね」
「どうかのう、記憶にない」
「だって、婚約者だったんだもの、きっと来たわよ」
「そうかもしれぬな」
「その時、こうして話したりしたかしら? 一緒に遊んだかもしれないわね」
「記憶にないのにか?」
「あら、忘れてるだけかもしれないわ、そう思う方が素敵。だって小さい頃から運命の相手と出会っていたなんて、ロマンチックだわ」
「・・・・・・そうじゃのう、この広い城でかくれんぼしたかもしれぬな」
「私がオニ?」
「わしは他の子より、うんと小さかったからのぅ、見つけにくかったじゃろう」
「うふふ、でもここは私の住む城よ、どこに隠れたって直ぐに見つけるわ」
「・・・・・・仮面をかぶっておっても、わしとわかる位じゃしな」
そう言ったシンバに、マーブルは頬を赤らめ、
「シンバも——」
私を直ぐに見つけられる?そう聞こうとしたが、
「ダンスのお相手お願いできるかしら?」
と、バルコニーにやって来たのはオニキス国の姫。
「何しに来たの? あっちで王子様達とダンスして来たら?」
なにやら、マーブルの口調がトゲトゲしくなったので、シンバは、この女がオニキス国の姫だろうなと悟る。
ドレスもキラキラの宝石が散りばめられているものを着ているし、間違いないだろう。
「そうなのよ、別にわたしの誕生日じゃないのに、王子様達にダンスを申し込まれて、もう大変!」
「良かったわね、選り取り見取りでしょ、お好きな相手と踊ってなさいよ」
「そうなのよ、だから、この王子様を選んだって訳」
と、シンバにスッと手を差し出すオニキス国の姫。
「ちょっ、ちょっと、この王子は駄目よ」
「どうして?」
「この王子は——」
マーブルは言葉に詰まり、黙ってしまう。
シンバは、オニキス国の姫の手をスッと手の平に置き、
「ダンスのお相手を致そう」
そう言った。
「シンバ!? どうして!?」
ヒステリックな高い声を出すマーブル。だが、シンバは、オニキス国の姫とフロアへ向かう。そんな二人を見ながら、
「なによ! 仮面かぶってるから、わからないだろうけど、すっごいブスよ、その姫は!」
イーッと歯を出して、そう叫んだ時、
「シンバはね、ダンスを踊れないんだよ」
と、いつの間に、隣にいたのか、コーラルが仮面を外し、そう言って、笑っている。
「ダンスを踊れない?」
「あの国の姫、恥をかくぞぉ」
「嘘ぉ」
「ホントホント」
「・・・・・・もしかして、私の為?」
「いい解釈すれば、そうかもね。ダンスが踊れないのに、人前で踊るなんて、誰かの為じゃなきゃできないしな」
コーラルがそう言うと、フロアで笑いが起きる。
見ると、既にあたふた状態のシンバ。
隣のダンスパートナーとぶつかるし、自分のパートナーを転ばせるし。
マーブルはクスクス笑い、そして、大笑い。
そんなマーブルを見て、コーラルは、
「踊れない王子なんて、それだけで充分ユーモアたっぷりだよ」
と、呟き、
「婚約者を、いつまでも、みんなの笑い者にさせておく気?」
そう言ったコーラルを、マーブルは見る。コーラルは不敵な笑みを浮かべ、
「僕はダンス得意だけど?」
と、手の平をマーブルに向けた。マーブルはコーラルの手を見て、コーラルを見る。
「もう攫わないよ?」
「うふふ、攫ってもいいわよ、シンバに勝てるなら」
「それは余裕」
「自信過剰ねぇ」
「王子とはそういうものですよ」
「いいわ、踊ってあげる」
と、マーブルはコーラルの手の平に手を乗せた。
マーブルもコーラルも仮面をかぶり、フロアへ。
あたふたしているシンバの横を通り抜け、
「僕を見ろ」
コーラルが囁く。
「大丈夫よ、ステップはゆっくりで」
と、マーブルも囁く。
シンバは二人を見て、見よう見真似で踊るが、やはり、そう簡単にはいかない。
でも、隣で踊っているのが、見知らぬ者ではなく、コーラルとマーブルだと思うと、安心するせいか、落ち着きを取り戻し、パートナーをリードする迄はいかないが、それなりに踊れている。
いつもリードされているオニキスの姫は、シンバがリードしてくれない為、踊れなくなっていて、ステップは間違えるわ、ドレスの裾は踏んでしまうわ、もう嫌だと悲鳴を上げ、泣き叫ぼうとした瞬間、シンバが、その姫の腕を突然掴んで、抱き寄せた。
そんなダンスじゃないわよと、マーブルが叫ぼうとした時、コーラルもマーブルの腕を掴み、自分の背後へと引っ張る。
シンバの左腕の中、オニキスの姫は抱き寄せられ、何事かと見ると、シンバの右手は、ナイフを持たれた手が捕まれている。
そのナイフを持った男はシンバの手を振り払い、逃げ出した。
きゃーっと悲鳴を上げ、シンバに抱きつこうとしたオニキスの姫を、シンバはスルリと交わし、仮面を捨てると、男を追いかける。
コーラルも、仮面を捨て、シンバの後に続く。
ナイフを持った男は中庭の方へ逃げていく。
コーラルが騎士達に、他に怪しい者はいないか、急いで調べろと命じ、ダンスフロアは扉を閉じられ、そこにいた全員が調べられる事になる。
食事を楽しんでいたジャスパーは何が起こったのか、わからず、慌てて、シンバを探すが、そのフロアからは出られない。
アスベストとルチルは、先回りして、中庭で、男が来るのを待ち構えていた。
男は目の前にアスベストとルチル、後ろからシンバとコーラルに挟み撃ち状態で、その場でオロオロしていたが、観念して、ガクンと跪く。
「・・・・・・ジプサムの者か?」
男に近付いて、そう聞いたシンバに、男は顔を上げず、黙ったまま俯いている。
「青竜や黄竜ではないだろう、単独で動くような奴等ではないからな、誰の差し金だ?」
コーラルがそう言って、男を見下ろす。
男は仮面を被っているが、まだ若い。
そして、シンバは、その男のナイフを持つ手を見て、
「・・・・・・マイカ殿か?」
そう聞いた。
誰だそれは?と、コーラルはシンバを見るが、シンバは跪いた男と同じように跪き、男の肩に手を置き、そして、
「ここで何をしておるのじゃ?」
優しく問う。
「何してるって、お前の命を狙ったんだろう、もしくは、お前と一緒に踊っている姫を、お前の婚約者のマーブル姫と勘違いして殺そうとしたんだろ」
コーラルが解り切った説明をすると、男はウッウッウッと声を漏らし、泣き始めた。
「・・・・・・ごめんなさい」
小さな声で、泣き声と共に吐いた言葉。
その声は間違いなくマイカだ。
「ごめんで済んだら、城は焼かれないぞ!」
城を焼かれた事を根に持っているコーラルの台詞に、
「お主、もう良いから下がっておれ」
と、シンバが言うが、下がっていろなどと、そんな台詞に従うコーラルではない。
「マイカ殿、立てるか? ここは人の目に付く故、マーブルの宮殿が、この奥にある。そこまで歩けるか?」
「待て、シンバ! 僕は城を焼かれたんだぞ、この僕は城を焼かれ、コイツには何の処罰もなしか!? しかも人の目に付くから移動させるとは、コイツを逃がすつもりじゃないだろうな!?」
「わしはお主を処罰する為に城を焼いた訳ではない!」
「なにぃ!? ならば焼きたいから焼いてみただけの面白半分か!?」
「誰があんな城を面白半分で焼きたいと思うか!」
「あんな城とはなんだ、フェルドスパー城だぞ!」
「南東ジプサム城じゃろう、どちらにしろ、全焼した訳ではなかろう? あんな石造りの城、爆弾でも仕掛けぬ限り、簡単には潰せんじゃろう」
「潰す気かぁ!?」
「潰しとらんじゃろう!?」
「気持ちの問題だ!」
「気持ちだけなら潰しておるわ!」
「なんだとぉ!?」
「なんじゃぁ!?」
シンバとコーラルは睨み合い、牙を向き合うから、
「お、王子、今はそんな言い合いをしている場合ではないと思うのですが・・・・・・」
と、アスベストが二人の間に入るが、ルチルが、
「アンタ、城焼かれて、住む場所なくなったから、ここに来たの?」
と、笑いを堪え、そんな事を言うので、コーラルはブチギレそうになる。
「僕はシンバがどうしても友達になろうと願うから、仕方なく来てやったんだ! 住む場所がなくなったからじゃない!」
いつ、どうしても友達になりたいと願ったんだと、シンバは思うが、もうそれでいいと、
「なら、いちいちわしに楯突くな! 友達じゃろうが!」
そう吠え、コーラルを黙らせる。
そして、シンバはマイカの肩を抱き、立たせ、マーブルの部屋となる宮殿へ向かう。
「ルチル殿、マーブルに部屋を借りると伝えてきてくれぬか」
「わかったわ」
「アスベスト、ナイフを持った男は逃げてしまったと王に伝えて参れ」
「はい」
「コーラル殿、なんとか、皆が、パーティーの続きを楽しむ事はできぬか」
「・・・・・・なんとかしてやろう」
ムスッとした顔で、背を向けるコーラルに、
「コーラル殿」
シンバは声をかけた。
「すまぬな、王子であるお主なら、こんな時、皆を安心させる術も知っておるじゃろうと思うてな。折角のマーブルの誕生日じゃ、本当になんとかならんか」
「・・・・・・なんとかしてやるって言ってるだろう、少しは僕を信用しろ、友達だろう」
コーラルはそう言うと、スタスタと城内へ向かい、アスベストもルチルも行ってしまった。
シンバは、
「一人で歩けるか?」
マイカに尋ねると、マイカはコクンと小さく頷いたので、中庭の奥へと歩いて行く。
マイカもシンバの後に続き、歩いて行く。
シンバの背はがら空きで、今なら、ナイフで突き刺せそうだ。
そう思うと、マイカは、何故、ナイフを取り上げないんだろうと、シンバの背を見る。
ふと、薔薇のいい香りがふんわりと風に乗って、マイカの鼻を擽った。
「凄いじゃろう」
まるで自分の庭かのように、自慢そうに、そう言ったシンバ。
そこは薔薇の庭。
そして、今日はあちこちで柔らかい光が揺れていて、庭をキラキラに着飾らせている。
「お主の父が、今日はマーブルの誕生日じゃからとキャンドルを飾ったんじゃ」
「父が?」
「あぁ、凄いのぅ、こんな風に庭を綺麗にできるなんて、わしは考えもつかん」
「・・・・・・特別な日は、こうして夜の庭も楽しめるよう、工夫するんです」
「そうか」
「でも、こんなに沢山の灯りを飾った庭は初めて見ました」
「そうか」
「でもエンジェライトの特別な日の庭は、こんなものじゃない。雪の世界は少ない灯りでも素晴らしい景色が浮かび上がります。本の少しの雪なら、降っても火は消えませんから、キャンドルを庭のあちこちに置いて、火を灯すと、雪がキラキラと光り、まるで宝石が空から落ちているような・・・・・・その時は幻想的な庭が見られる絶好のチャンスです」
「そうか」
「ちらちらと降る雪と、地面にぼんやり揺れる灯り。積もった白い雪が、とても美しく、灯りが本の少ししか届かない場所も、キラキラ光って、それはもう、この世のものとは思えない場所となります」
「・・・・・・そんなに言われると、見てみたいものじゃ」
シンバは薔薇園を見ながら、これ以上の幻想的なものがあるのかと思う。
「ここも本当に美しいじゃろう、美しいものを見ると、癒されるのう」
「・・・・・・カッコイイと思いました」
綺麗な薔薇園を見ながら、マイカは仮面を外し、そう呟いた。
この庭を真っ直ぐに見る瞳には、景色の美しさを映しているのではなく、その美しさを造り出す父を思い描いている。
「父さんの・・・・・・親方の造った庭とか、その庭を美しく仕上げていく姿勢とか、物を造り出すゴツゴツの汚くなった手が・・・・・・カッコイイと思いました」
「そうか」
「オレは父さんみたいになりたいって思いました。物を造り出す手を持ちたいって。こんな人の命を奪い、壊していく手になりたかった訳じゃないのに——」
自分の手を見つめ、涙を溜めて、そう言ったマイカ。
俯く顔からポタポタと地面に落ちる涙。
シンバはマイカの傷だらけの手を見る。
マイカの父親と同じように、霜焼けや罅割れや皸など、傷だらけの手。
「いいのう、羨ましい」
「え?」
「カッコイイと思える父が傍にいる事、わしは羨ましいと思う」
「・・・・・・只の庭師ですよ」
「バカモノ。その只の庭師をカッコイイと言うたのは、お主じゃろう」
「オレは王にはなれないし、王が一番偉い訳だし、そんな立場の人が庭師なんて」
「バカモノ。王が庭師になれると思うか」
「・・・・・・そりゃ、王は庭師にはなりませんよ」
「バカモノ。ならないのではない、なれないのじゃ」
「え?」
「こんな庭を造る事など、どこの国の王も天地が引っ繰り返ってもできん」
「そんな事ありませんよ、教えてもらえれば、誰でも——」
「なら、お主、王になりたいと思うか?」
「え?」
「それこそ、王など、誰でもなれるぞ。わしがいい見本じゃろう、金もない、権力もない、あるのはエンジェライトという血族と言うだけ。それだけで、わしは戦っておる。じゃが、エンジェライトの王子であると言う証明はない。只、そう言って、戦っているだけかもしれぬ。人を平伏させる事さえできれば、誰でも王として登りつく。例えば、金でも良い、強さでも良い、悪でも、正義でも、なんでも。人を跪かせる、それが王じゃ。そんなものになりたいか? わしは、そんな人間よりも、こうして、美しいものを造り、人の癒しとなり、誰かの心の中に優しいモノを与える事ができる人間の方が凄いと思うのじゃ」
「・・・・・・誰かの心の中に——」
マイカは薔薇園を見つめ、シンバの台詞を噛み締める。
「お主の父は凄い。今日のパーティーの料理を食ったか? エンジェライトの料理長が厨房に入って作った料理じゃ。うまかったぞ、あれもまた、人に感動を与える仕事じゃな。メイドも執事も、皆、立派な仕事をしておる。お主は、そういう人達を見て来たんじゃな」
「・・・・・・はい」
「本当に凄いのう、頭が下がる。わしなど、足元にも及ばん」
「・・・・・・」
「お主が受け継ぎ、更に次の代へ残すものは、エンジェライトではなかろう?」
「え?」
「父の手と、庭と、人に与える感動じゃろう、それは、エンジェライトでなくても良かろう、お主が守るべきものは、この美しい庭じゃ——」
「・・・・・・」
マイカは薔薇園を見渡すシンバの横顔を見つめる。
エンジェライトの妃の肖像画にソックリだと思う。
綺麗な横顔は女性的で、顎のラインも若い故か、スッと首に伸びて、白い肌、青い瞳、銀色に光る髪——。
「のう、マイカ殿」
突然、シンバが振り向くから、マイカはドキッとする。
「エンジェライトの事はわしに任せてくれぬか?」
「え?」
「今回の事は、お主はわしの命令に従っただけじゃ。次に会う時はわしを殺せと命じたからのう、そんな命令を出したわしに責任がある」
「それは違います!」
「そういう事で良いではないか。お主はまだ誰の命も奪っておらん。罪は誰にも問われない。問われるとしたら、命令を出したわしじゃ」
「でも!」
「じゃから、お主は、ここで、父と共に庭を造って行けば良かろう。まだまだ教わる事は沢山あるじゃろう?」
「・・・・・・」
「エンジェライトの事は、わしに任せて、お主は自分の受け継いだ力を発揮させ、人々に喜びや優しさ、感動を与えていく人になれ。お主の父のように——」
「・・・・・・王子は王子だから、戦うんですか? それがエンジェライト王から受け継いだ遺志だから?」
「わしは・・・・・・父から受け継いだものなど、なにもない」
「・・・・・・」
「父を尊敬もしておらぬ。子供の頃、よく爺に、王子は王にそっくりじゃと言われ、それがとても嬉しかったのに——」
「・・・・・・」
「父は、わしを見る事もなく、触れる事もなく、背を向けてばかりじゃった。じゃが、その偉大な背を覚えておこうと思うようにして来た。城から見たエンジェライトは美しく、人々の笑いが聞こえ、子供ながらに、その見渡す限りの景色を背負っておる背だと、わしは父を偉大だと思っておった」
「・・・・・・あの? どうして過去形なんですか?」
「今は憎むべき背じゃから」
「憎む?」
「我が偉大なる父はジプサム王」
シンバがそう言った時、背後からアスベストが現れた。
「すいません、立ち聞きするつもりはなかったのですが、ナイフを持った男は逃げたと伝えてきましたと、報告に・・・・・・」
「そうか」
「王子、どういう事ですか?」
動揺した顔で、震えた声を出し、アスベストはシンバに尋ねる。
「なにがじゃ?」
「エンジェライト王が、ジプサム王だなんて、悪い冗談です」
困惑しながらも、冗談にしようと、アスベストは笑った顔を作る。
「わしは冗談を言わぬ」
当然のように、そう言ったシンバに、アスベストは怒りを押さえ、
「王子、気は確かですか!? 自分が何を言っておられるのか、わかってるのですか?」
怒鳴るように、そう聞いた。
「・・・・・・我が偉大なる父はジプサム王じゃ」
アスベストの怒鳴り声にも怯まず、真っ直ぐな青い瞳を向け、ハッキリと、シンバは言い切った。
何かの悪夢だろうと、アスベストは思う——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます