第25話 人と魔王。

 ジェンゴとヤマトは不服だったが、勇者なら魔王を倒せるかもしれないと思うのであった。


 それもそのはず、勇者は魔王の瞬間移動についていける程の素早さがあったからだ。


「おい、魔王。避けてばっかじゃなくて攻撃してきたらどうだ?」


「減らず口をたたきおって!」


 すると魔王を中心に衝撃波が生じ、ヤマト達を襲う。その攻撃は強大で魔王城ごと吹き飛ばしてしまう。


「どうした?勇者よ。」


 勇者は瓦礫に埋もれてしまった。


「可哀想に。望みの勇者様がいなくなってしまったな。」


「勇者なんかに期待してないさ。」


 魔王にそう返すと、ヤマトは必死に剣を振る。しかし、先の攻撃で全身に激痛が走り動きが鈍い。


「もうやめろ。ノルケンタビスがいない今、勝ち目はない。」


 ジェンゴが止めるように言うがヤマトは聞かない。


 すると、衝撃波の影響で壁が脆くなっていたところを壊し、王国軍がなだれ込んできた。


「勇者様は?」


 ジェンゴは瓦礫に指を指す。


「なんと!」


 王国軍は急いで掘り始めた。


「雑魚共が。手を焼かせやがって!」


 王国軍を見た魔王が、そう叫ぶと大量の魔物達を城壁のあった場所を沿うように生み出した。


「馬鹿共め。お前たちはここで死に、世界は我々のものになるのだ!!」


 魔王の邪悪な笑い声は人間達に恐怖を与えた。


「俺たちはここで死ぬしかないんだ。」


「もう諦めよう。」


 王国軍が完全に諦めたその時、魔物の包囲網に少し穴が空いた。



「それはどうかな?」


 自転車にまたがったトカゲ男がいた。


「お前!どうしてここに!?」


「アルゴさんが転移紋を作ったのです。それに私だけではありませんよ。」


 教団の兵士や島の人までもが自転車に乗って魔物を轢き潰して現れた。


 島にアリアが残ったのはアルゴが魔王城で書いた転送紋と島を接続する為。そしてノルケンタビスに乗り切れない人を魔王城に送る為であった。


「みんな!」


「さあ急いで後ろに!」


 トカゲ男はヤマトの所まで近づくと後ろに乗るように言った。


「魔王はここにいるけどなんで?」


「兎にも角にも乗って下さい。ここは皆さんに任せましょう。」


 ヤマトが乗ると、猛スピードでノルケンタビスが墜落した方向に向かった。



 ノルケンタビスの元にはアリアがいた。


「ヤマト。本当に魔王を倒すの?」


「どうしてそんなことを?」


「私。ノルケンタビスさんから聞いたの、ヤマトが魔物化したこと、魔王を倒せば魔物が消えてしまうこと。」


「俺の気持ちは変わらない。あんな酷いことやめさせなきゃいけない。だから俺は奴を倒す。」


「それってノーウィンの街のこと?」


「そうだよ。アリアだって叔母さんを亡くして悲しかったはずだ。」


「悲しいよ。でも、ヤマトだっていなくなって欲しくないんだよ!」


 アリアは涙を浮かべた。


「俺一人なんかの為に魔王を生かしておく訳にはいかない。分かってくれアリア。」


「...うん。」


 アリアは黙ってヤマトに抱き着いた。


「......!?」


「お別れの挨拶だよ。」


 少ししてアリアが離れると、ノルケンタビスの首がこっちを向いた。


「覚悟は出来ているようじゃな。」


「はいっ!」


 ヤマトはノルケンタビスの背に乗り空へと飛び立った。



 魔王城に着いたキリアの目にも空に飛ぶノルケンタビスの姿が見えた。


「何だ、あの神々しい見た目の奴は?」


「聖竜と思われます。」


「聖竜...か...。」



 ノルケンタビスは雲を突き抜け、空気が薄く上には星々が見えるところにまで飛んでいた。


「もう宇宙じゃないですか。どこまで行くのですか?」


「更に上じゃよ。」


 大気圏を突破し、数々の小さな衛生を潜り抜けた先に隕石よりも大きな邪神の死体があった。


「これが...。」


 ヤマトはあまりの大きさに言葉を失いかけた。


「そうだ。これが邪神の死体!!さあヤマト、この死体を消し炭にするぞ。いいな!」


 ノルケンタビスは雷魔法を放つ。


「くらえ!!」

 

 ヤマトも全身の魔力を集め、エネルギー弾として邪神にぶつけた。

 

 見る見るうちに邪神の体は崩れ、体から魔力がなくなるのをヤマト達は感じる。


「これで良い。」


 ノルケンタビスの体が徐々に消えていく。ヤマトも指先からなくなっていった。


「成功ですかね?」


「儂らが消えているんじゃ、魔王も消えているに違いない。」


 そして二人は宇宙の塵となった。



 地上でも魔物は消えていく。


「まさかあの小僧が!ここで死ぬ訳にはいかないのだ!!」


 だが、虚しくも魔王はそう言い残して、この世から消え去った。



 半年後。元魔王領にも人が住み始めていた。


「魔王、魔物が消え去ったのは全てノルケンタビス教団のお陰でございます。ありがとうございました。」


 アルゴとアリアを王城に招待して、王は二人に頭を下げた。


「私たちなんかはそれ程。ヤマトとノルケンタビス様の功績です。」


「それは国民を見ればわかりますよ。英雄ヤマトと聖竜ノルケンタビス。皆、彼らには感謝していますよ。しかし彼らを支えたのは紛れもなくあなた達です。私にはこれくらいの事しかできませんが、感謝と敬意を込めて教団をこの国で認める事にしました。」


「ありがたいお言葉。」


「一つ頼みがあるのですが。」


 アリアが突然、口を開けた。


「私に出来ることがあればなんでも。」


「ではこの街、王都に大きなヤマトとノルケンタビスさんのお墓を作っていただけませんか?」


「もちろん。そのつもりですよ。」



 その後王都には、ヤマトとノルケンタビスの功績を記した石碑と大きな墓が建てられた。王都の住民も、他の街の人もそれを見るために足を運んだ。


 ちなみに勇者は、半ば強制的に国民を戦地に送りその結果、大勢の死人を出したとして牢屋に入れられた。


「まさかヤマトさんがこんなにも有名になるなんて思ってもみなかったですよ。」


 女神が天界から大きなお墓を見てそう言うと


「俺も驚きましたよ。」


 ヤマトは隣でそう答えた。








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異世界にチャリできた。 香具師の木 @yashin0-ki

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