第23話 魔王と勇者
「魔王様、勇者によりオークの町が陥落、共に将軍ゴルダンのノイロン進軍失敗と伝わっております。」
「ご苦労。」
魔王城では魔王を中心に軍事会議が行われていた。
「もはや一刻の猶予もありません。魔王様、今こそあれを使う時。ご決断を。」
「そうです。我々がここまでされたのは初めて。私も参謀殿に賛成です。」
長い歴史上、初めて魔王軍は領土を奪われ焦っていた。
「お前たちの言いたいことは分かった。」
参謀達が指している「あれ」とは空の先、宇宙空間にある巨大な邪神の死体を人間領に落とし、一撃で人間を滅ぼそうというものだった。
しかしこの攻撃は魔王軍側にも危険が生じる。そもそも、魔物の元はただの精神体であった。邪神は死体から巨大な魔力を放出する事によって魔物の体を作りたのだ。
だから、万が一にも邪神の死体が人間に壊されることでもあったら、魔物達はこの世界から消えてしまうため今までこの攻撃を行うことがなかったのだ。
「その攻撃は余りにも危険すぎる。と前々から言っているだろうが。」
魔王は一度考えたが、自分が消えることを恐れてその攻撃は中止とした。
勇者率いる討伐隊は、補給線が断たれた為に一度王都に戻る事にした。
「勇者よ何故に戻られた?」
王は不思議そうに訊ねた。
「そんなの決まっているだろうが、あんたのよこした兵隊が弱すぎるんだよ。こんなんじゃ魔王に届きもしない。」
王は自慢の兵士を馬鹿にされて頭に来た。
「その兵士はこの国でも一級品、それが駄目なら勝ち目はありませんぞ。」
「王だから何を言ってもいいと思うなよ。」
勇者は王に剣を突き付けた。
「この国から戦える者を全員集めろ。」
これには王も断ることが出来なかった。
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それから数週間後。王は勇者に脅されて、地位のある者から下級兵士、また一般人からなる総勢30万人の大部隊が結成された。
それを知った魔王軍は魔王を先頭にそれを迎え撃つ。
その戦いは人間側の有利に進んでいた。しかしそれと同時に、とてつもない犠牲者を生み出しているのだった。
沢山の人の死に女神は涙した。一刻も速くこの戦いを終わらせるために彼女はノルケンタビスに力を求め教団の島に訪れた。
「ノルケンタビス。あなたの力が必要です。どうか邪神の死体を葬り去りこの世から魔物を消して下さい。それが出来るのはあなただけ。」
「......。」
「何を考えることがあるのです。我々の子供たちが今も死んでいっているのですよ。」
「それでも!儂には出来ない。邪神の死体を消せば魔物である儂も消えてしまう。」
そもそも、ノルケンタビスは人間に転生してすぐに死んでしまうことを恐れてドラゴンに転生した。つまり、彼は他の神より一段と死を恐れているのだ。
そのため邪神の死体を破壊して自分が消えるなど出来ようがない。
「それに...ヤマトだって魔物化しているんだぞ。」
「それって...。」
そこにはヤマトがいた。
「俺が魔物ってどういうことですか!?ノルケンタビスさん。」
「あぁ...。ついに聞かれてしまったか。」
「どういう事か説明して下さい。」
女神はより一層、真剣な顔になった。
「ヤマトはドラゴンの涙を飲んだのだ。」
「まさか。」
「ああ、そうだ。仕方なかったのだ。」
「仕方なかった?あなたがヤマトさんを魔物にしたくせに。」
「俺を魔物にした?どういう事ですか?」
ヤマトが説明を求めた。
「ドラゴンの涙だけならば人を魔物化することはない。だがそれを取り入れた人間にドラゴンの魔力が触れるとその人間は魔物になってしまうのだ。そして、ヤマトが魔王軍将軍と戦っていた時、君は一度死にかけた。そこに儂が魔力を吹きかけ、魔物として復活させたのだ。」
「そんな事が...。」
女神は絶句した。
「あの時の不思議な力はノルケンタビスさんが?」
「そうだ。」
ヤマトは気を落とし下を向く。少ししてから、何かを決意した様にノルケンタビスを見た。
「ありがとうございます。」
「...!?どうして、儂がお前を魔物にしたのだぞ!」
「わかってます。でもそうしてくれなければ、今の俺もアリアもいませんでした。だから、あなたに感謝するのです。」
「なんと出来たお方。ノルケンタビスもヤマトさんを見習いなさい。」
「......そうだな。儂も腹を括ろう。魔王を嫌、邪神をこの世から消す。そのために力を貸してくれないか?ヤマト。」
「はい。よろこんで。」
それに応じるかのように、トカゲ男とアリアが来た。
「アルゴさんが!目を覚ましました。」
二人の後ろからゆっくりとジェンガと歩いてくるアルゴが見えた。
「おお。アルゴ!」
久しぶりにアルゴの顔を見たノルケンタビスは思わず声を出してしまった。
「ノルケンタビス様。お久しぶりです。」
「そうだな。」
「これで役者は揃った訳だな。」
ジェンゴがそう言うとノルケンタビスは皆に邪神を倒すことを誓った。
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