第21話 ドラゴンの息吹
ヤマトは突然、血を流してその場倒れてしまった。
「ヤマト!!」
アリアの声は届かない。
「こ...の...攻撃は....。」
ヤマトは、この目に見えない攻撃を知っている。一度見たことがある。それはノーウィンの街で、アリアの叔母が食らいその場に倒れた攻撃と同じだった。
( だめだ...体に力が入らない...。 )
ヤマトの意識は遠のいていく。視界も狭まり、体温が刻一刻と下がっていく。
「悪いけど、君ごときに邪魔されるわけにはいかないだよね。だからここで死んでもらう!」
ゴルダンは掌に魔力を集めた始めた。ヤマトの後ろではアリアが回復魔法を唱えているが、一向に回復する気配はない。
「ヤマト、死んじゃ嫌。お願い、立ち上がって。」
ヤマトの目には光がなくなり、半死の状態。もちろんアリアの声は聞こえない。
「お願い、お願い、お願い!」
「うるさいなぁ。どうせ君も同じ運命を辿るんだから、そこで大人しくしてなよ。」
アリアの願いが届いたのか、上空のノルケンタビスがヤマト達に気が付いた。
「あの魔物、ヤマトとその連れを同時に同時に殺す気か!そうはさせない。」
しかしノルケンタビスの魔法はどれも範囲が広く、彼自身が魔法を使えばゴルダンと同じ結末になってしまう。
「これしかないのだ。すまん、ヤマト!」
するとノルケンタビスは大きく息を吸込み、ヤマトに向けてそれを放った。
魔力を含んだ強風がヤマトに降り注ぐ。あまりの風にゴルダンは、手を止めてしまった。
砂ぼこりがおこり、ゴルダンは目の前が見えなくなった。
「あのドラゴン、小細工しやがって。」
舞い上がった砂がおさまると、ヤマトが居たところにはドラゴンの骨でできた鎧兜を身に纏った者がいた。
「貴様、まさかっ!」
骨に包まれた者は一瞬にしてゴルダンの後ろに立っていた。ゴルダンがそれに気付くと同時に、彼の両腕は地面に転げ落ちた。
「この一瞬で。こいつ、何者だ。」
ゴルダンは冷静を装っているが内心は恐怖で覆われていた。ドラゴンの骨を纏った者は攻撃の手を止めない。
「殺される!」
猛攻にやられて倒れ込んだゴルダンを助ける為、参謀が体を盾にするが、魔力を纏った強力な蹴りを食らい一撃で消し飛んだ。
だが、その隙をついてゴルダンは逃げ出し、その場には両腕しか残っていなかった。
「逃げられた。」
そう呟くと、骨の鎧が消えてヤマトの姿がそこにはあった。
「ヤマトなの?」
「そうだけど...。」
アリアが近づいて見てみると、傷一つないヤマトの姿がそこにはあった。
「よかった。」
魔王軍は司令官がいなくなったことで総崩れを起こし、戦いは『ノイロン』の街の勝利で終わった。
街の住民から感謝を受けると、ノルケンタビス教団は島に帰った。
「ヤマトが敵の大将をやっつけたんだってな。」
ジェンゴは誇らしげにそう言う。
「俺自身、実感ないけど。」
「そんな謙遜すんなって。自身持てよ。」
帰りの背中の上では、ヤマトを讃える声で溢れていた。
翌日。改めてアルゴがヤマトの家に行き、感謝を伝えた。
「この度はヤマトさんのお陰で勝てた様なものです。」
「そんな大袈裟な。教団が着いた時から戦況は変わっていましたよ。」
「いえ、しかし将軍のゴルダンを退けた事実は変わりません。ご協力感謝します。」
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一方、王都では。
「大変です!ノルケンタビス教団の一員が魔王軍将軍を返り討ちにしたとのご報告が!」
王の元にもヤマトの事が伝わっていた。
「なに!そいつは人間か?!」
「はい。そのように伝わっております。」
「ドラゴンの傘に守られている奴らだと思っていたが...侮れないな。」
王国にとってノルケンタビス教団は規律を守らないただの賊の様なものであったが、この報告によって脅威となり得る存在と王に認知されてしまうのであった。
「もしよろしければ....。」
と横にいた若い女性が声を挙げる。
「どうした?発言を許可するから言ってみよ。」
「はい、もしよろしければ私が奴らを退治いたしましょう。」
「しかし、この街の守りはどうする?」
「王都の守りも大切ですが、力を付けた教団がいま最も王国の脅威ではありませんか?もし奴らがこちらに刃を向ければ、魔王軍と教団の二つを相手しなくてはなりませんよ。」
「だが魔王軍に隙を突かれたらどうする。現にノイロンが攻め込まれているのだぞ。」
「では、20人で奴ら教団を倒して見せましょう。」
「本当か?それなら守りに支障も来たさないか...。よし、お前に任せよう!」
王はこの女性を信頼していた。彼女は度重なる戦績から今の指揮官の座にまで上り詰めた実力者だったからだ。
それに、教団の全体数は誰も把握しておらず、活動記録からせいぜい100人程度の集団と思われていた事から実力のある20人程でも勝算があった。
女性は名をキリアと言い彼女と、王都でも屈指の強さを誇る20人を集め、彼らを教団討伐の命令で旧王都に向かわせた。
「この国に逆らう者は誰であろうと容赦はしない。」
キリアは旧王都で目を光らせていた。
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