第19話 聖地の島

 ヤマト達はとある小さな島に着いた。


「ここがアルゴさん達の活動拠点?」


「はい。そして、僕たちノルケンタビス教団の聖地です。」


 

 ....数百年前、聖竜ノルケンタビスはこの地で産まれた。そのドラゴンは力を司る神の精神が宿る、とても珍しい魔物であった。聖竜は人里に赴いては、魔王軍からの侵略の手から人々を守っていた。

 昔の人々は聖竜を勇者よりも歓迎し、信仰した。それは王国中に広がっていった。これがノルケンタビス教団の始まりである。


 そしてここは聖竜が産まれた島であり、教団の聖地となった。


「ほう。海の向こうにはこんなところがあったとは。」


 トカゲ男も知らないようだ。


 それもそのはず、聖竜を信仰するのは王国の規律である『魔物の崇拝を禁じる』というものに反していた。そのため王国は、聖竜を信仰ものを集めた再教育や罰則を行い信仰の対象を女神像や勇者に戻し、聖竜そのものを歴史から抹消したからである。

 しかし聖竜信仰は、ノルケンタビス教団として小さな島を中心に形を変えてこじんまりと王国の手に届かない場所で活動していた。


「ノリで来ちゃったけど...これからどうしよう?」


 勇者から離れたいという一心でジェンガについてきたヤマトであったが、この先のことは考えなしであった。


「それなら是非、僕たちと共に魔王と戦って頂けませんでしょうか?」


 ここぞとばかりにアルゴはお願いをした。


「ヤマト、私たちとの思いは同じだし、力になってあげようよ。」


 アリアが本来の目的を諭す。


「そうだな。ではアルゴさん。俺たちじゃ、役に立つか分かりませんが一緒に戦わせてください。」


「お心強いです。」


 アルゴは笑顔で返事をした。


 


 夜になると、ヤマト達とジェンゴの兵士達の歓迎会が浜辺で行われた。


 そこでヤマトは、この島の島民に自転車のことで声を掛けられた。その中でも特に鍛冶屋の男が気を引いていた。


「この円形、ひょっとしてゴムの木の樹液じゃねえか?」


「良く分からないですね。」


 ヤマトは知らないふりをした。タイヤのことを知っていると、後々面倒なことになりそうだったからだ。


「違いねえこれはゴムだ。」


 鍛冶屋は自転車のタイヤを触るとそう言って、ゴムでできたボールを出した。


「これは?」


「ゴムでできたボールだ。俺たちはゴムが何にも使えない物だと思っていたが...こんなことに使われているのかぁ。」


 ヤマトは鍛冶屋がどうしても貸してほしいというので、壊さない事を約束に貸した。

 するとそれを見ていたトカゲ男が


「あんなに大切そうにしてたのにいいんですか?」


 とヤマトに聞いた。ヤマトは


「貸さないと逆に怪しいだろ」と返した。


 

 それから二日間、ヤマトは借りている家に引きこもって休んでいた。旅路の疲れが一気に襲ったためである。

 一方、アリアは島を満喫していた。


「うわー海だー!」


 昨日、歓迎会が行われていた浜で島民が漁をしている中アリアは、はしゃいで海水浴をしていた。


「お嬢さん海がそんなに珍しいかね?」


 釣りをしていた島民がアリアに声を掛ける。


「はい。私、生まれた時から一度も街の外に出たことがなくて。初めて見る海なんです。」


「そうかい。それはよかったねえ。」


 海ではトカゲ男が漁の手伝いをしていた。この島の人々は魔物という魔物を聖竜ノルケンタビスしか見たことがなく、リザードマンなどの魔族は物語の中の存在であった。

 そのため誰もトカゲ男に恐怖せず、それどころか島の子供たちからは人気の存在になっていた。


「トカゲ男君が来てから、漁が楽になったよ。」


 漁師はトカゲ男に感謝した。トカゲ男は嬉しさのあまり張り切って手伝いをする。


 


 ヤマトが引きこもって三日目、夢の中でヤマトは聖竜に呼ばれた気がしたので聖竜ノルケンタビスのとこに向かう事にした。


「うわ!眩しい。」


 扉を開けるとヤマトには久しぶりの日光が顔に当たった。

 ヤマトは島の住民に聖竜のいる場所を聞く。


「ノルケンタビス様は丁度島の真反対だよ。」


 ヤマト途中、朝ごはんを兼ねて買い食いをしながら島を半周した。


 しばらくするとヤマトの目には巨大な顔が見えた。そう聖竜ノルケンタビスのものだ。


「やっと来おったか。」


 ドラゴンの姿はまるで海の上に山がそびえ立っている様だった。


「一応、朝から来たつもりなんですけど...。」


「お主には昨日から声を掛けていたが、全然反応がなかったからのう。」


「そっ...そうですか。」


 ヤマト自分の身体よりも大きなドラゴンの顔に少し怯えていた。


「もうちょっと近くに。食べたりせんから。」


 距離を感じた聖竜ノルケンタビスはヤマトを近くに寄せた。


「こ、これでいいですか。」


 ヤマトが数歩近いた途端、何かに気付いたように急にドラゴンは声を挙げた。


「お主、ドラゴンの涙を.....いや何でもない。...それより聞くことがあったんじゃ、お主はこの世界の者ではないな。どうやってこの世界に来た?」


「それは....」ヤマトはこの世界に転移したことの経緯を話した。


「なるほど、なるほど。それは可哀想に。」


 今度はヤマトが質問する。


「あなたは神様の生まれ変わりなのですか?」



 


 


 





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