第18話 ジェンゴの企て
「おかえり。勇者はどうだった?」
ジェンゴはヤマト達に聞く。
「最悪だったよ。」
「あー。ヤマトもあいつの真の部分がわかっちまったか。」
ローツやジェンゴ、彼らのように王城の中ので働いた事がある者は勇者のあの性格について知っているらしい。
「なんで彼の性格を知っていて、討伐隊なんか入ったんですか?」
「ま、俺たちは戦うことしか能がないってことだな。」
「じゃあ一生、ここにいるんですか?」
「いやあ。それもこの戦いでお別れさ。」
「それってどういう意味?」
ヤマトは嫌な予感がしたが、ジェンゴは笑って返す。
「死ぬって訳じゃねえよ。聖竜を信仰する集団に入れてもらうんだ。そいつらの仲間に入れてもらえば勇者なんかと一緒に戦わなくて魔王軍と太刀打ちできるってことよ。そうだ!ヤマトも一緒に来ないか?」
「聖竜を信仰する集団?」
「そいつらは人語を話すドラゴンを信仰している奴らなんだ。そのドラゴンは神の生まれ変わりと言われていて、人に危害を加えない上にとても強いんだ。」
( もしかして、女神様が言っていたドラゴンに宿った神様? )
「それに惹かれて一部の人はそのドラゴンに引っ付いているんだ。でもな、そのドラゴンを信仰するのはどうやら王国の意に反しているため王都のから離れたここら辺で活動しているようなんだ。」
「へぇ。でも俺たちも反逆者にならない?」
「なる。それを承知の上で奴らの仲間に入れてもらうんだ。」
ジェンゴが言っている通り、王国は魔物の崇拝を禁止している。それがどんなに人間の見方であっても、魔物が人類側になるときには決まって人間の下につくように。と古くから言われているのである。
それを聞いていたアリアがジェンゴに一つ聞いた。
「ローツさんはどうなるんですか?ジェンゴさんが裏切ったことが王様に伝わればローツさんも裏切り者になるのでは?」
「いいえ、大丈夫です。私たち総勢201人はローツさんの手元から離れる手続きをしています。だから責任はローツさんにはありません。」
ジェンゴ達は王都を出る前にローツから独立していた。元は自分の兵士をヤマトの下に付かせるために勇者に反発的な人を集めたローツだったが、もしヤマトが貰ってくれない。というのであれば、聖竜の下にでも行っていいということになっていた。
ヤマト達もジェンゴについていく事にした。
翌朝、まだ日が昇る少し前のこと。勇者達、討伐隊は魔王軍への攻撃を始めた。
さすがは勇者であった。見る見るうちに前線を押し上げ、魔王軍を圧倒している。そしてヤマト達は、戦いが激化している中を抜け出して聖竜の下に向かった。
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「ここら辺だな。」
勇者達の姿がほぼ見えなくなったところまで行くと、ジェンゴは止まって上を見上げた。
すると空を隠す様に巨大な陰が真上に見えた。
( 雲の上にあるのにどんだけでかいんだ。 )
その陰は下に風を吹かせながら降りてくる。端から端まで肉眼では収まらない巨大な姿に、もはや遠近法は作用しないようだった。
巨体は降下をやめるとその背中から何本ものロープを地上に向かって垂らした。
「ジェンゴさんこれは?」
アリアが訊ねた時には、ジェンゴ達は既にロープにしがみ付いていた。
「アリアちゃんも早くつかまって。」
そう言うジェンゴはロープに引っ張られて徐々に上に上がっている。
アリアはロープをつかむ。トカゲ男もロープ端で自転車を縛るとそれにヤマトと共にしがみ付いた。
ヤマト達はゆっくり上がっているとついに巨体の背中に着いた。そこには数十軒の小さな家が建っていた。
「ようこそ。聖竜ノルケンタビスの背中へ。あなたがジェンガさんですね?」
ロープを引っ張っていた人の一人がそう言って歓迎した。
「いえ。俺はヤマトです。」
するとジェンガが自分だとその男に伝えた。
「すいません。書面上のやり取りしかしてなかったので。」
「まあいいさ。それで、そういうあんたはアルゴなんだろ?」
「はい。僕がアルゴです。ここのまとめ役をやらせていただいております。」
ジェンガとアルゴが話していると、どこからともなく大きな声が聞えた。
「おい、アルゴ。そろそろ動くからそいつらを家の中に入れろ。」
「承知致しました。ノルケンタビス様。」
どうやら声の主は今乗っている聖竜のようだった。
ヤマト達はアルゴ指示で家の中に入ると、聖竜は勢い良く空を駆ける。
「何処へ向かっているのですか?」
ヤマトはアルゴに聞いた。
「ジェンゴさんから聞いてませんでしたか?僕たちの活動拠点に行くのですよ。」
「ああ、悪いアルゴ。ヤマトは俺の友達でここに誘ったのも、つい昨日なんだ。」
ジェンガはアルゴに対してそう説明をする。
「なるほど。ヤマトさんはあなたの兵士ではなく、ご友人でありましたか。」
アルゴは改めてヤマトに自己紹介した。
ヤマトがしばらくアルゴと話していると、ドラゴンは大きな音を立てて着水した。
「この音は?」
「どうやら拠点に着いたようです。」
ヤマト達がドラゴンの背中にある家の扉をあけると、そこには南国のような風景が広がっていた。
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