第17話 勇者とヤマト

 急いで勇者のところへ行こうと思ったが。勇者様は忙しいらしい。


「そこをなんとか。」


 しかし、王城の者に片っ端からお願いしても首を横に振るばかりだった。


 ちょうどそこに、書簡を持ったローツが通った。


「あ!ローツさん。今いいですか?」


 ヤマトはローツに勇者に会いたいと告げた。


「多分、勇者様とは王都を出て魔王軍との戦いが始まるまでの間しか、話せる機会はないでしょうね。」


 つまり勇者と話したければ、勇者率いる魔王軍討伐隊に入らなければならないということであった。


「俺なんか...討伐隊に入れないですよね。」


「いえ。そんなことはありません。あなたの様な人こそ討伐隊に相応しいのですよ。」


「でも俺、そんなに強くないし....。」


「そう思うのなら私の兵を少しヤマトさんにお貸ししますよ。」


「な、なんでそこまでしてくれるのですか?」


「あなたは恩人です。それに今の勇者は少し性格に難があり、あまり好ましくないのです。のでヤマトさんが勇者に取って代わり魔王討伐という国策の先導を行っていただきたい。」


( 話す人間違えてない?それに、寛容なローツさんが嫌がる性格なんてどんな奴を女神様は連れて来たんだ? )


 ヤマトには荷が重いので、ローツの兵を借りるのではなく。ローツの兵に入れてもらうという形で話はまとまった。


 



 出陣当日。少し霧がかかっている中、王都の外には沢山の兵隊が集まっていた。


「二人共ごめん。勝手に決めて。」


「大丈夫だよヤマト。私たちだって魔王軍には貸しがあるんだもん。」


 トカゲ男もアリアの言葉に頷く。


「ありがとう...。」


 すると、ローツが200人程度の兵を引き連れて現れた。


「お待たせしました。」


 すると兵士の中から一際大きな男性がヤマトに話しかけた。


「君がヤマトかい?俺はこの部隊を任せれているジェンゴだよろしく!」


 ヤマトは、ヤマトよりも一回りも二回りも大きな手で握手を求められた。


「どうぞよろしく。」


 ヤマトはその手を握るが、自分の手の小ささに弱気になる。


「何卒、このジェンゴをこき使ってやって下さい。」


 とローツが笑顔でヤマトにそう言う。


( いやいや、こき使われるのはどう考えても俺の方でしょ。 )


 なんだかんだでヤマトは討伐隊に入ることができた。



「それでは討伐隊の皆さん。魔法陣まで前に進んでください。」


 すると一気に全体が、地面に書かれた大きな魔法陣の上まで進んだ。


「今から何をするんです?」


 ヤマトはジェンゴに訊ねた。


「ああ、転移紋で一斉に移動するんだよ。」


「なるほど。」


 次の瞬間。地面の魔法陣が輝き、一瞬にして周りの景色が変った。ジェンゴが言った通りに転移したようだ。


「ここはどこ?」


「ここは、旧王都の北側。言うなれば魔王軍との戦いの最前線だよ。」


「一気に?!」


「そうだ。心して望めよ。」


 とは言うが、今日はここに陣を敷くだけで戦いは明日からであった。


( そうだ今のうちに勇者に会いに行こう。 )


ヤマトはアリアとトカゲ男と共に勇者陣営に足を踏み入れた。


「すいません。勇者様に会いたいのですが...。」


「だめだね。今勇者様は忙しいんだ。」


 ヤマトは追い返されそうになったが、ローツからもらった招待状を渡すと渋々中へ入れてもらえた。


 そこには、小屋とそれを守る様に兵士が小屋を一周囲っていた。どうやら勇者は小屋ごと転移したようだった。


 ヤマトを案内した兵士が小屋の扉を叩くと、しばらくして薄い服を着た女性が何人かでてきて、それからヤマト達は小屋の中に入ることができた。


「客人というのはその男か?」


 これまた薄着の勇者が兵士に聞く。


「はい。名をヤマトと申すものです。」


「よし。...そこの女だけ置いて他の奴は帰らせろ。」


「はい。」


 するとトカゲ男が声を挙げる。


「少しでいいので我々とも....。」

 

「魔物は黙っていろ!」

 

 勇者は頭に来たようで全員を帰らせようとした。


 しかし、ヤマトはここで帰るわけにはいかないので


「日本...。」


 と、こぼす。もし、この勇者が転生した者ならこれでわかるだろうと思い呟いた。


「お、お前。今なんて?」


「はい。日本と申したのです。」


「そこのお前!」


 と兵士に指を指し、アリアとトカゲ男を小屋から追い出させた。


 ヤマト以外全員を小屋から出すと、勇者は話しを始めた。


「もしかして君も日本から来たのかい?」


「そうですよ。」


 ヤマトは勇者との話の中で、彼は一度死んでいる事。それと彼がこちらの世界で成人を迎えている事や話が少し嚙み合わない事から、20年前の日本で生きていたことが分かった。


「それにしてもいい趣味してるよ。ヤマトは。」


「そうかな?」


「まさか仲間にアニメみたいな魔法少女の格好させるだなんて。」


「違うんだ。アリアは初めて会った時からあの格好なんだ。」


「へぇー。でアリアとはどういう関係?」


「とくに何もないよ。ただの仲間ってだけさ。」


「じゃあ俺が貰っていいかな?可愛いし。それに彼女も俺に抱かれたいと思っているだろうし。」


 その言葉がヤマトの逆鱗に触れた。


「おい、お前...。もしかしてさっきの女の人も...。」


「ああ、そうだよ。この世界で生まれ変わってから、すべて思い通りにいくんだ。みんな俺に惚れるし、抱ける。それに気に食わない奴は切り捨てたって何の問題もない。」


「貴様...!」


「なんか問題でもある?周りの人たちは何をしても俺を咎めないよ。まあ俺に反対する奴は誰であれ、殺すまでだけどね。」


 彼は行き過ぎた強さと見た目が、彼自身の性格をこの世界が20年かけて捻じ曲げしまったようだった。


「それでも勇者か!」


「でもそれは周りの人間が俺をそう呼んでいるだけだし。」


 ヤマトは完全に呆れた。


「通りでローツさんも君を嫌うはずだ。」


「お、おい。どこへ行くんだよ。せめてアリアちゃんだけは置いていってよ~。」


 ヤマトはアリアとトカゲ男を連れてジェンゴの元へ帰った。


「勇者様があんな人だったなんて...。」


 アリアは幻滅していた。トカゲ男とアリアは小屋の外から聞いていたようだった。


「ヤマト様。勇者が頼りにならない以上、これからどうやって魔王軍を倒しましょうか。」


 トカゲ男の言葉が彼らの絶望を表していた。







 


 


 



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