第15話 勇者様

 勇者の成人式パレード当日。


 王都は貴族から庶民まで勇者様一色に染まり、沢山の街から要人が王都に集結。大通りは人だかりであふれていた。


「これが勇者の人望....!」


 ヤマトの想像以上の盛り上がりに開いた口が塞がらない。


「ヤマト。もっと前で見ようよ。」


 アリアに引っ張られて人混みの中に入っていく。


 勇者の演説は、大通りの先にある城前広場で行われるいるのだが、とてもの人数で勇者の姿どころか声さえ見えない。それに城前広場は、権力者や貴族達を招き入れるため沢山の警護や広いスペースがとられているので一般人はまず、近くで見ることが出来ない。


 ちなみにトカゲ男は、勇者の演説の後のパレードの席取りをしていた。


「なんか周りからの視線が痛いなぁ。こんなことならローツさんとお城の中から勇者の演説でも見るんだった。」


 しばらくしてヤマト達がやって来た。


「すごい人で全然、勇者を見れなかったから帰ってきちゃった。」


「お帰りなさいヤマト様。どうぞ、屋台で買ってきたものでも。」


 トカゲ男はヤマトとアリアに屋台で買ってきた珍しいパンや、串に刺さった料理を取り出す。

 アリアはお腹が減っていたのか、なりふり構わず食べだした。


 それを見てトカゲ男が一言。


「ちょっと!ヤマト様の分も取っておいて下さいよ。」


「いいよ。トカゲ男。気にせずどんどん食べて。」


 アリアは頬張りながら感謝を述べた。


( アリアって食いしん坊キャラだったっけ? )


 すると、楽器の音が聞えた。どうやらパレードが始まったようだった。


 国の兵隊が、楽器を携えて列を作り規律正しく行進している。


「さすがは王都の軍隊だなぁ。」


 訓練された動きに、ヤマトとトカゲ男は声を漏らす。 


 兵隊がヤマト達の前を通ると、遠くの方から歓声が波のように伝わってきた。


「勇者様~!」


 観衆がどっと声を上げる。勇者が屋根のない豪華な馬車に乗って現れた。


「きゃー勇者様ー!」


 アリアも黄色い声を送る。確かにとても良い顔立ちで王国一と謳われると言われることが過言ではないと誰もが思える。


「良い顔してるが、声を上げなくてもいいよな。」


 と、トカゲ男の方を見た。


「うわー勇者様だーこっち向いて~!」


 なんと、トカゲ男も歓声を送っていた。


( おいおい、噓だろ。トカゲ男まで興奮させるとは、一体何者なんだ..? )


 勇者のパレードは大盛り上がり。その熱は夜になっても街から冷めないほどだった。

 ローツ邸ではアリアとトカゲ男が勇者のことを熱く語り合っていた。

 

 翌日。勇者のことで街が盛り上がっている中、ヤマト達はローツの誘いで王城に呼ばれた。


「よく参られた。」


 王はヤマト達の頭を上げさせた。


「私たちに何の御用でしょうか。」


 ヤマトが頭を上げると王は豪華絢爛な玉座に座っており、王の左右には十人ずつ賢者や将軍と思われる者達が並んでいた。

 ローツもその中にいる。

 

 彼ら20人はローツと同じく様々な街に普段は派遣されているが、勇者の晴れ舞台に呼ばれて集まっているらしい。つまりヤマト達が来る直前に、勇者がここで彼らに挨拶をしたという事だ。


「お前達を呼んだのは他でもない。我の最も信頼できる部下の一人であるローツを王都まで護衛し、ノーウィンの街が魔王軍に襲われたという事を知れせてくれたことを感謝する。そのために呼んだのだ。」


「ありがたきお言葉。」


 トカゲ男が言葉を返す。


「結構、結構。魔物でありながら、よく礼儀を知っておる。」


 王はさっきまでの固い顔を笑顔に変えると、王城の者を呼んだ。


 すると彼らは、輝く物を持ってヤマト達の元へきた。


「お主らには少しばかりだが、それを受け取って欲しい。」


 ヤマトには鏡の様に輝く剣を、トカゲ男には黄金の鎧を、アリアには高貴な空飛ぶ箒をそれぞれ渡された。


 それを見て、


「こんなに良い物、受け取れません。」


 アリアとヤマトが口をそろえて王にそう言った。


「これは感謝の気持ちだ。ぜひ受け取ってもらいたい。」


 王様の感謝の気持ちを受け取れないとは言えないのでヤマト達は有難く受け取った。


「それでは本題に入ろう。お主たち、我らに何かして欲しいことはあるか?我のできることであればなんでもしよう。」


 ヤマトは少し考えてから。


「それでは、このリザードマンと従魔契約がしたいです。」


 と言った。最初は、何もしてもらうつもりもなかったが、まだ従魔契約をしてないことを思い出したので王にそう告げた。


「ほう。そんなことで良いのか?」


「はい。ノーウィンの街でしてもらうつもりでしたが、ああいう事があったので...。」


「なるほど。それで、そちらのお嬢さんは?」


「いえ。これ以上なにも、もらえません!」


 アリアは断った。その代わりにヤマト達が契約の魔法をかけられる間、城の中庭に案内された。


 ヤマトとトカゲ男は契約をするために、王城のある部屋に連れてかれた。その部屋は魔法の研究や実験が行われていて、王国屈指の魔法使いが居るらしい。


「初めまして。従魔契約ですよね?」


「はい。」


 この人が王国一の魔法使いである。意外と年齢は若い。


「では、こちらの紙をお二人に持っていただきたいと思います。」


 ヤマトとトカゲ男は、魔法陣の書かれた紙を持つ。

 

「これから契約の魔法を唱えますので決してその紙を離さないで下さいね。」


 彼女が魔法を唱えると、二人のから光が現れ、それが球体状になった。そのうちに二人の光が紙の上で一つの光になったその時、紙が燃えて無くなった。


「これで二人は無事に契約が出来ました。今回の契約は特別で、片方が魔物を倒すともう片方も魔物を倒しことになり、女神からのご加護を同時に頂くことができるものとなっております。」


( これってゲームの経験値共有みたいなことか。王様!ありがとうございます! )


 ヤマト達が契約を終え、中庭に行くと巨大な女神像の前でアリアと司祭のような人が話しているのが見えた。


「ヤマトー。こっちー!」


 アリアがヤマトに手を振る。


 それを見て、なんだかんだアリアを可愛いと思うヤマトであった。




 




 




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