第13話 王都への旅路
さて、どうにか街から逃げ出したヤマト達。一晩して日が昇ると、街の方角から数人が馬車を連れて彼らの方に向かってやってきた。
「旅のお方ですか?私たちはノーウィンの街のものでして。」
馬車を引いている男性がヤマトに話かけた。彼は、いかにも高貴な服装していた。
「いえ俺達もノーウィンから逃げてきたんです。」
「あなた達もそうでしたか。それで、冒険者の皆様に一つお願いがあるのですが、どうか我々が王都に行くまでの道中の護衛をしてもらいたいのですが。」
ヤマトは、アリアとトカゲ男を見た。
「もちろんわたくしは護衛に賛成ですよ。」
アリアも黙って頷いた。
「仲間たちもいいようなので、ぜひ護衛させて下さい。」
その声を聞くと馬車の中から、白く長い髭をした男性が降りてきた。
「私たちの無理な願いを聞き入れるその慈悲深きお心に感謝します。」
彼もまた一般人に手には届かないような服装だった。
「皆さんの着ている物は、かなり良いものに見えるのですが。どういった人達なのですか?」
するとアリアが、急に立ち上がりヤマトに耳打ちした。
「この人は王都から派遣された役人さんで、ノーウィンを治めていたといっても過言じゃないわ。それにこの人に無礼をすることは、王自身に無礼を働くと同じと言われる程のお偉いさんなのよ。」
アリアの話しを聞くほどヤマトの顔は青ざめ、背中から汗が噴き出た。
「すみません自己紹介が遅れました。私はノーウィンの街で政治を任されました『ローツ』というものです。」
「すす、すいませんでした。国のお偉方とは知らずにご無礼を。」
「いえいえ。お偉方なんて大したものではありませんよ。それに旅をしている方が私を知らないなんておかしなことではないですよ。」
ローツはそう言っていたが、馬車の人からは睨まれているような気がしたヤマトだった。
出発する前にアリアの要望で、ノーウィンに寄ってから行くことになった。
「街が.....。」
そこには昨日までの賑やかな街はなく、一面真っ黒に焼け焦げた残骸だけが残っていた。
「くそっ。私がもっと早くにノーウィンに戻っていたら...。」
どうやらローツは昨日まで遠方に出掛けていて、ノーウィンが魔王軍に襲われたと聞きとんぼ返りで帰ってきたらしい。
「いいえ、これはローツさんが悪いのではありません。横暴を働く魔王軍が悪いのです。」
アリアの声は、いつもより低く聞えた。
ヤマトもまた、街の跡を見て昨日の惨劇を思い出す。
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馬車がノーウィンの街を出て半日。
移動はヤマトとトカゲ男が自転車で、アリアは馬車に乗らせてもらっていた。
「ヤマトさんここら辺で休憩しましょう。」
「わかりました。」
馬車の運転をする男にそう言われ、ヤマトはブレーキを握った。
馬車が止まると、中から色んな壺が出てきた。
「これは何なんです?」
トカゲ男が訊ねた。
「食べ物ですよ。」
壺の中を覗くと、塩漬けされた食材が沢山入っていた。
「食べてみても?」
「はい。」
トカゲ男達は食事をはじめた。しかし、アリアの姿がない。
「トカゲ男?アリアを見たか?」
「いえ。まあ昨日のことがあったんです。それは食欲だってなくなりますよ。」
心配したヤマトは、馬車に入った。
「アリア、大丈夫?今日の朝も何も食べてないけど...。」
ヤマトはリュックから個包装されたクッキーを取り出した。
「なに...これ?」
「俺の生まれ故郷のお菓子さ。せめてこれくらい食べたほうが...。」
「ありがとう。」
アリアは受け取り、クッキーを食べているうちに泣きだした。
「ごめん。口に合わなかった?」
しかし、首を横に振るアリア。
「このお菓子よく家にでてきた焼き菓子にそっくりで....。」
( まさか、アリアのトラウマを掘り返してしまった...? )
するとアリアは涙を拭いて馬車から降りる。
「ありがとう。なんか元気出た。こんなとこでグジグジしてられないよね。」
と言った彼女はまだ空元気にも見えたが、同時に強い決意も受け止められた。
「そうだね。」
ヤマトも続いて馬車から降りた。
しばらくして休憩を終え、また出発する事になった。今度はヤマト後ろにアリアが乗りたいらしくアリアを自転車に乗せて動き出した。
翌日。王都への道の途中、草むらから飛び出した魔物に馬車が襲われた。
「トカゲ男さん起きてください。魔物が!」
トカゲ男が急いで飛び起きる。ヤマト達も自転車を止めた。
「いいもん積んでそうじゃねえか。」
この魔物達も喋るようだ。
「ヤマト。時間稼ぎをお願い。」
「わかった!」
ヤマトは魔物と剣を交える。トカゲ男は馬車を守った。
ヤマトは、魔物五匹相手に押されていた。何とか一匹倒したが他の奴らは元気だった。
彼は、昨日のクエストや魔王軍の襲撃など休む暇がなく、体は疲弊していた。
剣の動きが鈍くなりついに斬撃が魔物によけけられた。その時、体の重心が前に傾き、隙ができたしまった。
それを逃さず魔物はヤマトの背中に攻撃を食らわす。
そう見えたが魔物は攻撃の手を止め、その場に倒れ込んだ。
「ヤマト!今っ!」
アリアの声に反応して、ヤマトは高く跳び上がる。地面には電撃が蛇のようにのたうち回る。そう、さっき魔物が倒れたのも、地面の上を電撃が走るのもアリアの電気魔法だ。
「助かりました。」
ローツとその周りの者達が感謝する。するとローツが続けて
「おかげで、もうすぐ王都に着きますよ。」
と言う。彼の目線の先には家の灯りや人が煙を上げているのが見えた。
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