第12話 魔王軍の襲撃

「嘘...。私の生まれ育った街が...。」


 『ノーウィン』の街はどんどんと火の海に飲まれていく。


 崩れた城壁から街の中に、鎧を着た見たこともない魔物たちがなだれ込んだ。


「人っ子一人も逃すな。この街を血祭りにあげろ!」


 この軍の兵長と思われる派手な身なりをした魔物が声を上げると、魔物達は建物を破壊し、人々を襲った。


「何、突っ立っているだアリア!早く逃げよう!」


「だめ。この街をこんなにされたんだ黙って逃げ出すわけにはいかない。」


「でも...。」


「ヤマトは先に逃げてて。みんなを避難させてからそっちに行く。」


「アリアを一人にはさせない。俺もついていくよ。」


「ありがとうヤマト。」


 アリア達が街の人々を避難させると、時を同じくしてトカゲ男のいる牢にも魔王軍の攻撃の手は伸びていた。

 

 魔王軍は見張りを殺し、牢を壊し、閉じ込められていた魔物達を解放した。


「魔王軍なのか!?このままだとまずい。早くヤマト様に知らせないと。」


 トカゲ男は、魔物達が逃げ出す流れに乗ってヤマトを探しに行った。とは言えヤマトがどこの宿に泊まっているのかを知らない。とりあえずトカゲ男は、自転車を預けている馬小屋に向かった。


「自転車があれば、より素早く街を駆け回ってヤマト様を見つけられるはず。」


 トカゲ男が馬小屋の中から自転車を取り出し、外に出ると。そこには泣いている子供とそれを庇う女性が魔王軍兵士に睨まれていた。


「どうか子供だけは!」


 流石に女子供は手に掛けないと思ったトカゲ男は面倒ごとに巻き込まれないようその場から立ち去ろうと自転車に跨った。


 その時。グサッ。何か刺された音がした。恐る恐るトカゲ男は、後ろを振り返ってみると命乞いをしていた親子が槍で串刺しにされていた。


「......!」


「おい、そこのリザードマン。こっち見てるが、なんか用か?」


「貴様!なにをしているか分かっているのか!」


 トカゲ男には何が起きたのか。まだ頭の整理が追い付かなかった。


「なにをしているもなにも、そこの人間を殺ったまでだ。」


「それでも戦士か!抵抗もしない...それも女子供を手に掛けるなんて恥ずかしくもなんともないのか?!」


 とトカゲ男は生まれてから出しだこともない声で怒る。しかし、それが魔王軍兵士の逆鱗に触れた。


「てめー。雑魚のくせに偉そうだなぁ!」


 魔王軍兵士は怒鳴り、怒りのままに槍をトカゲ男に向かって放った。


「か弱い者を殺めるだけでなく、自分と同じ魔族にまで手を出すとは...!」


 トカゲ男目掛けて飛んできた槍を素早くかわし、距離を詰め、兵士の首元に鋭い爪を刺し込んだ。


 魔王軍兵士は血を吹き出しながらその場に倒れた。


「戦士としてここまで落ちぶれるとは...。」


 トカゲ男は何もかもに涙した。



___________________



「もうだめだ。」


 ヤマト達は避難させている途中で魔王軍に見つかってしまい、攻撃を受けていた。


「こいつら強い。それにいくらでも湧いて出る。」


「ごめんなさい。巻き込んじゃって..。」


「自分から望んだことさ。アリアは気にしないで。」


 二人掛かりでやっと倒しても、屍を越えて何体でも魔王軍は襲ってくる。そんな波状攻撃についにアリアは魔力を切らしてしまう。


「あ...。魔力が...。」


 その隙を突いてか、魔王軍兵士が大剣を振り上げアリアに切りかかろうとしていた。それが、アリアに目を向けたヤマトの目に映った。


( ここからだと間に合わない....。 )


「アリア!危ない!」


 しかしその魔物の手は止まり、それは後ろに倒れた。


「危なっかったねぇ。アリア。」


 そこにはアリアの叔母が立っていた。


「アリアの叔母さん!なんでここに!」


「あんたたちが戦っているって、空を飛んでいた仲間の魔法使いから聞いて急いできたんだよ。本当、危ないとこだったねぇ。」


「叔母さん...。」


 アリアはいまにも泣き出しそうだった。


「私が来たからにはもう大丈夫だよ、あんたたち。」


 さすがは長年冒険者をやってきただけのことはあり、一瞬にして魔物兵隊を蹴散らし道をつくった。


「ほう。なかなかやるな。」


 なんと切り開いた道の先に、四人の兵士に神輿のように担がれた魔族がいた。その魔族は他の者とは違う雰囲気を醸し出している。


「お前は。」


「おっと。老いぼれの婆さんがでもこの俺様がわかるのか?」


「知らない人間はいないさ。一晩にして港町を葬り去った戦の天才。魔王軍将軍のゴルダン!」


「まだ目は見えるようだな。」


「減らず口を叩けるもの今の内だよ。」


 しかしなぜか急に、アリアの叔母は体勢を崩してその場に膝をついた。


「この攻撃も目で追えないなんて...。がっかりだよ婆さん。少しは期待してたのにな。」


 アリアの叔母の足元には、太ももから流れでた血が広がっていた。


「叔母さん!どうしたの?!」


「アリア、こいつはあんたたちには手に負えない。今すぐここから逃げるんだ。」


「でも叔母さんは?!」


「もう無理だこの足じゃ動けない。」


「もういいかな。お話が長いよ。」


 ゴルダンは口を開けると、手のひらに炎の玉をつくりヤマト達を狙った。


 するとそこへ、駆けつけたかようにトカゲ男が猛スピードで自転車に乗ってやってきた。


「見つけました。さあ乗ってくださいヤマト様...と、そこ女の人!」


「さあ逃げるんだ!アリア!ヤマト!」


 アリアの叔母は、泣いているアリアを重力魔法で自転車に乗せた。


 トカゲ男はアリアの叔母の思いを受け止め、ヤマトを乗せて自転車を思いっ切り漕いだ!


 自転車は燃え盛る街を出た。

 

 しばらくして、かなり離れたところにトカゲ男は自転車を止める。


「ここまでくればもう安全です。お二人とも。」


「助かったよトカゲ男。」


 だが、アリアは泣いて動かなかった。


 街から離れた三人の目には街の炎が、ロウソクに灯された小さな炎の様に小さく見えた。しかし、彼らの心には復讐の炎が業火の如く燃えていた。


 今、彼らの魔王軍に対する反撃の狼煙が上がろうとしている。






 









 






 


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