第11話 アリアの告白。

 イノーガの大群が通った後は、まるで耕された様に地面が掘り起こされ土が盛り上がっていた。


 冒険者達は我先にと、イノーガの群れに突っ込んでいった。ヤマト達もそれに続いていた。


「アリア、魔法ってどんなのが使えるんだ?」


「そ、それは...。基本的なものは大体使えるよ。」


「なら、後ろから援護を頼む。」


「ちょっと...まって....。」


 アリアは何か言いたそうだったが、自分達の手柄が無くなることを恐れたヤマトは先を急いだ。


「本当は...私...。」


 ヤマトはイノーガと一度戦ったことがあるので、油断をしていた。


 イノーガの前に立ちはだかると、ヤマトは前足を切りつけようと剣を振った。その時、イノーガはヤマトに反応するようにもの凄い勢いで首を大きく下げ、振りかざした剣先を受け止めるように、巨大な牙で上から押さえつけた。

 想定もしていない俊敏な動きにヤマトは怯み、完全に抑えつけられてしまった。


( 剣身が抑え込まれて、身動きがとれない。だからといって剣を離せば、そのまま押し潰さえてしまう...。 )


 ヤマトは目を閉じて、体の奥底から力を振り絞る。


「うおおおおおお」


 渾身の力をだしてもびくともしない。ヤマトは諦めかけていた。


「ヤマト...もう大丈夫だよ。」


 しかし、有り得ないはずのアリアの声が真横から聞えた。恐る恐る目を開けてみると、そこには全身が凍っているイノーガの姿が。


「どういう事...?」


 アリアは恥ずかしそうに答えた。


「私が氷魔法をつかって凍らせて....ヤマトは氷漬けになったイノーガと戦っていたのよ....。」


 今にも笑い出しそうなアリアの姿に色んな感情が湧いたが、それよりも魔法の圧倒的な強さにヤマトは感動していた。


「凄いよアリア!こんな事が出来るなんて!」


「でも...。」


 アリアと話しているところに他のイノーガが襲ってきた。


「くそ。アリアがまだ何か伝えようとしているのに!」


 今度は思いっ切り剣を振りかざすとイノーガの牙を叩き割ってみせた。しかし思いのほか、牙が硬かったためかヤマトは手が痺れてしまい次の攻撃を繰り出せなかった。

 さらにそこへ、もう一頭のイノーガが突っ込んできた。もうすぐで、すり潰されそうになったギリギリの瞬間に、二頭のイノーガの下から火柱が立った。


 またも間一髪のとこ、アリアの魔法に助けられた。


 この後も何頭かのイノーガと戦った。しかし、なぜかヤマトがピンチにならないとアリアは魔法を使わない。妙に思ったヤマトはイノーガを討伐し終わった後の帰り道でアリアに聞いてみた。


「アリア。文句を言いたいわけじゃないんだけど、もう少し早く魔法を使って欲しんだけど無理かな?」


「それは無理な話だよ。」


 と隣を歩いていた冒険者が話に割って入ってきた。


「あんたは今日、テントの近くで話しかけてきた!あんたには関係ないだろ。」


「関係ないって、私はアリアの叔母だよ。」


「アリアの叔母さん?!アリア、この人が言っていることって本当?」


 アリアは頷いた。


「初めて会った時も言ったが、アリアは戦いに向いていないんだよ。」


 とアリアの叔母は話を戻した。


「それってどういう事ですか?」


「今日一緒に戦っていて気付けなかったのかい。アリアはね、唱えてから少し時間をおいて魔法が発動するのさ。だから即効性を求められる魔法使いには致命的で、街では出来損ないって言われているのさ。」


「そんな...。」


( アリアはすぐに魔法をつかいたくてもつかえなかったのか...。 )


 帰り道は重い雰囲気が流れていた。


 ___________________


 一方その頃...。トカゲ男は、凶暴な魔物が両側にいる牢に放り込まれていた。


「ひええぇぇぇぇぇぇぇ!助けてくださいヤマト様ー!」


 壁を猛獣に叩かれ、トカゲ男は怯えていた。


「おい!うるさいぞ。リザードマン。あと一日の辛抱だろ!」


 近くにいた屈強な見張りの男に怒鳴られた。


「嫌だあああ。ここから出してくれええええ!」


 トカゲ男の悲鳴は静まり返った夜のノーウィンの街に響き渡った。


 

 宿ではヤマトとアリアが話している。


「ヤマト....。ごめんなさい今まで黙っていて。」


「いや、俺の方こそ。アリアは何度も言おうとしてたのに俺が聞く耳を持たなくて。」


「ちがうの。私、初めて会った時からこの事を黙っていて...それにヤマトに声を掛けたのもこの人なら騙せるかなって。」


「いいよ気にしなくて。でもなんで、そこまでして冒険者になりたいの?」


「それは...こんな事言ったら笑われるかも知れないけど...。私、小さい頃からの夢だったんだ冒険者になる事。子供の時、叔母が悪い魔物を倒してくるのが誇らしくて。

それで魔法使いになったんだけど...。ほら私、魔法下手でしょ。」


 アリアは今にも涙を流しそうだったが話を続けた。


「魔法学校を卒業したばっかりは誘ってもらえたんだけど、一年もすれば誰も私を冒険者パーティーに入れなくなっちゃって...。それでこの街に来た人を誘惑するような服を着て、騙して仲間に入れてもらってたんだ。」


 どうやらアリアは、魔法学校を卒業して二年が経つらしくその間ずっとギルドでいろんな人にこえをかけているらしい。


「俺だって初めのころは碌に戦うことはできなかったけど、なんだかんだ戦えるようになったんだ。だからきっと、アリアも戦えるようになるさ。それに冒険者に憧れる気持ちは俺もわかるから笑ったりしないよ。」


「ヤマト....。」


 すると外からの焦げ臭い匂いがした。外に出てみると街が燃えていた。街は、夜なのに昼の様に明るかった。


「魔王軍が攻めてきたぞー!冒険者はすぐに東門の方で迎え撃て!」


 この街の警備隊が街中の冒険者に声を掛けていた。


「嘘...。」



 


 


 




 


 

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