第8話 冒険の始まり。

 魔物が住まう樹海を一つの自転車が駆けていった。それは、異世界にあるまじき光景だった。


「トカゲ男!交代してくれ。」


「えー。さっきヤマト様に交代したばかりじゃないですか。」


「もう、無理だ。」


 ヤマトは自転車を止めた。自転車を降りて、肩で息をしているヤマトにトカゲ男が助言をした。


「喉も乾きましたし、今日はここら辺で野営をしましょう。」


「そうだな。」


「では、近くに川がないか見てきます。」


「了解ー。」


 最初のうちはあまり仲が良くなかったヤマトとトカゲ男だったが、街を出て三日も一緒に野宿していれば自ずと距離は縮むというもの。


「それじゃあ、俺は焚き火用の枝でも探すか....。」


 自転車の近くで枝を拾っていると、遠くから大きな牙をした大型の猪の魔物がヤマトに向かって走ってきた。


「丁度いい。ドラゴンの涙でどれくらい強くなったか試してやる。」


 ヤマトは背中から剣を抜いた。すると、猪の魔物は咆哮をあげながらさらに速度を上げ、ヤマトに突っ込んできた。

 猪の魔物の顔がヤマトの目の前に来ると、彼は成人男性よりも一回り大きな魔物の身長に対して両手で剣を構えたまま前宙をした。


 ヤマトが猪の魔物の後ろに立つと、魔物はその場に倒れた。彼が前の方に周ると魔物の眉間から背中にかけて斬撃の跡があった。


「やった。成功したぞ。」


 なんと彼は、空中を回りながら魔物を剣で切り付けていたのだ。


 大きな音を聞きつけ、トカゲ男が戻ってきた。


「どうしました?ってえぇ!!これヤマト様が倒したのですか?!」


「まあ、そうだけど。...もしかしてこの魔物強いの?」


「そうですねぇ..特別強いというわけではないのですが、このイノーガという魔物は一人のソロ討伐というのがとても大変なんです。ですが一人で倒してしまうなんて...やっぱり、わたくしの目には狂いがなかった流石です。ヤマト様。」


「恥ずかしいからあまり褒めないでくれよ。それより、この魔物って食べられる?」


「そうですよね。昨日は木の実と雑草みたいな草しか食べてないし、そろそろ肉が食べたいですよね。」


「それで、どうなんだ?食べれるのか?」


「............はい!食べれます。」


「ためが長いわ!だったら最初からそう言え!」


「すいませ..ん....。」


 すると、ヤマトが笑いをこぼした。それにつられトカゲ男も笑った。くだらないことで盛り上がっていると日が暮れ始めた。


 ヤマトがリュックから大きな麻布を取り出して地面に敷いた。トカゲ男はヤマトの拾ってきた枝に口から小さな火の玉を出して火を付けて、魔物の解体を始めた。


 夜になると。


「まだ解体終わらないかー?腹減ってきたよ。」


「あと少しで終わります。もしよければこちらをどうぞ。」


 するとトカゲ男がヤマトが街で買った小さな木のバケツを渡した。


「おい、これって魚?」


「はい。近くに川があったのでそこで取ってきました。どうぞお食べください。」


 どうやらヤマトが焼き魚を食べている間に、解体が終わったようだ。


「さあさあ、焼き肉を食べましょう!ヤマト様。」


「待ってました!」


 それぞれ串に肉を刺すと火であぶった。肉が火にあたると、脂が肉の表面から溢れ出てきた。しばらくすると、肉はこんがり焼けていい匂いが辺り一面を囲んだ。

 

 二人は熱々の肉を口にいれた。すると、口の中に甘味のある脂が広がった。肉自体は柔らかく数回噛むだけで口の中から消えてしまった。


「うま~いっ!」


「いっぱいあるのでどんどん食べましょう!」


「だね。」


 二人は最高の夜を過ごした。



翌日。トカゲ男は、鳥のさえずりで目を覚ました。なにやら彼には作りたいものがあるらしい。

 しばらくしてヤマトも目を覚ました。起きたばかりのヤマトにトカゲ男はあるものを渡した。


「なにこれ....。」


「これは、昨日ヤマト様が倒した魔物の革で作った水筒です。」


「ありがとう。」


「では朝ごはんの準備をしますね。」


 トカゲ男が朝ごはんを作っている間、ヤマトは眠い目をこすりながら、川に水筒の水を入れに行った。


 焼き魚と野草の朝ごはんを食べた二人は自転車に乗って目的地の『ノーウィン』に向かい漕ぎ始めた。


 

  

 昼頃だろうか、遂に森を抜け、畑と大きな『ノーウィン』の街の外壁が見えた。


「やっと着いたぞ。」


「「やっと」ってヤマト様はあんま自転車漕いでなかったでしょ!」


「あれ?そうだっけ?」


「しらばっくれないで下さいよー!」


 自転車は畑道に入った。ただでさえ自転車を知らないうえ、魔族が人を乗せてそれを運転しているのだから農家の人達から、不思議そうな目を向けられた。

 新しい街に行く度にこうなるのか。と嫌な気持ちにヤマトがなっていると、街の入り口の門に着いた。


 そこには門番がいた。


「おい。そこの坊主。止まれ。」


 言われた通りに止めると。


「坊主。その後ろに乗せている魔族はなんだい?」


「これは失礼。わたくしは.....」


「お前に聞いてはいない。静かにしてろ。」


「は、はい....。」


「お、俺は、冒険者の野上ヤマトです。それでこいつは俺の従魔です。それでこいつと従魔契約がしたくてここに来ました。」


「なるほど。と言うと坊主はこの魔族とまだ契約してないということだな?」


「はい。そうです。」


 すると門番は小さな紙をヤマトに渡した。


「これをギルドに見せろ。これは契約が完了するまでそいつを安全な牢に入れる事が出来る券みたいなものだ。この街じゃあ、契約していない魔物とかを連れまわことが禁止されているんでな。」


「ありがとうございます。」


「なに。仕事をしているだけさ。」


 門番は道の端にそれて、門を開けた。


 ついに第二の街、『ノーウィン』に入ることが二人。二人は、この街でどんな出会いがあるのだろうか。






 

 

 






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