第7話 トカゲ男の運命

 トカゲ男は命乞いをした。


「頼みます。あなたに一生ついていきますだから。命だけは!」


「お前は今まで何人殺した?人殺しの言うことなど信用できん。」


「殺したことはありません。信じてください。」


 この言葉でヤマトはトカゲ男が刺せば致命傷になるであろう爪を使わず、拳だけで戦ってきたことを思い出した。


( 確かに、こいつは命を狙ってきた攻撃をしてない。もしかして噓をついていないのか? )


「そ、それにいいものあげますから。」


「なんだ?それは。」


「ま、まずは、兎にも角にも手に刺さっている剣を抜いてください。でないと渡せる物も渡せません。」


「仕方ない、けど逃げ出すなよ。」


「逃げ出すなんて滅相もない!」


 半信半疑だったが、ヤマトはトカゲ男の両手に刺さっている片手剣を2本抜いた。


「では、これを。」


 手が解放された、トカゲ男は腰に縛っておいた小袋を一つヤマトに渡した。ヤマトは袋を開けてみると、中には小さな宝石のようなものが入っていた。


「これを売れと?」


「いえいえ。これを吞み込んでください。この鉱石は生物の肉体を強化することが出来るものなんです。魔王領からこちらに来るときにたまたま見つけた珍しいものなんです。ぜひどうぞ。」


「有害かもしれないし街の人に聞かないと飲む気になれないし街までついてこい。」


「でも...わたくしが行くと街の人間が怖がるのでは?」


「なら、お前は今から俺の従魔だ!いいな。」


「はい。早速、契約をしましょう。」

 

 自分から言っておきながら従魔契約の方法を知らないヤマト。


「どうやってやるんだ?」


「分からないなら、ギルドとかに聞いてみてはいかがでしょうか。」


( 確かにそういうには詳しそうだし、最悪ギルドには冒険者もいるからこいつも暴れることができないだろう。 )


「よし!ギルドにいくぞ。」


「その前に名前を教えてもらってもいいですか?」


「野上ヤマト.....。」

____________________


 街に戻った。

 ただでさえ自転車で目立つというのに魔族まで連れていると、よりヤマトに目線が集まる。街でただ一人浮いている存在であることを自覚したヤマトはなるべく急いでギルドにいった。


「あっ!ヤマト君。...てっ、なにそのリザードマン?!」


「失礼。わたくしはヤマト様の従魔であるトカゲ男と申すもの。以後お見知りおきをレディー。」


「こら。お前は黙ってろ。」


 とヤマトは、トカゲ男をどかした。

 

「そ、それでギルドには何の用?ヤマト君。」


「あの、こちらの魔族と従魔契約がしたいのですが...」


「ごめんねヤマト君。ここのギルドは小さくて従魔契約を扱っていないの。もししたいなら隣街のギルドに行かないといけないけど。」


 するとイリンはヤマトへこの国の地図を渡した。


「結構遠いですね。隣街は。」


「そうよね。ここは辺境の地だし隣の街っていっても遠いんだよね。」


 するとトカゲ男がヤマトに耳打ちをした。


「ヤマト様、あの鉱石のこと聞かないのですか?」


「そうだ、忘れてた。」


 ヤマトはリュックから鉱石の入った袋を取り出し、イリンにみせた。


「これってドラゴンの涙!?」


「ドラゴンの涙?」


「これどうしたの?!」


「こいつからもらったんです。」


 と言うとヤマトはトカゲ男に目線をやった。


「これはね、食べた者を強くするそんな石よ。それに希少なことから高価で取引されているの。」


「食べたらどの位強くなれますかね?」


 とヤマトは訊ねた。


「そうね...ヤマト君の従魔のリザードマンよりは強くなれると思う。」


( トカゲ男よりも強くならないと、たぶんこの先危険だしドラゴンの涙を吞み込む以外の選択肢はないな! )


 するとヤマトは、ドラゴンの涙を思いっ切り吞み込んだ。それは体内で消えると体の内側が熱くなった気がした。さらにトカゲ男からくらった胸の痛みも和らぎ、体が以前より軽く感じた。


( これがドラゴンの涙の力... )


「ヤマト君具合はどう?」


「大丈夫です。それに何だか体の調子がいいみたいです。」


 そこで、トカゲ男はここぞとばかりに訊ねた。


「これでわたくしの事も信じてくれますかな?」


「まぁ、それはどうかな。」


「ちょっとー!信じてくださいよー。一生ついていきますから!」


 それを見てヤマトはイリンと目を合わせて笑った。


 

 翌日。


 ヤマトとトカゲ男は、隣街の『ノーウィン』へ赴くために早朝から出発の準備を始めた。ヤマトはこの事を知らせる為、ギルドやお世話になった場所へ挨拶しに回った。そのついでに万屋で買い出しもしていた。同時に、トカゲ男は自転車に乗れるように広場で練習をしている。


 ヤマトはギルドにいた。


「ヤマト君...本当に行くんだね。」


「はい。色々とありがとうございました。」


「そんな別れの挨拶みたいな事を言わないで、いつでもこの街に戻ってくればいいよ。」


 少し寂しそうにイリンはそう言った。


「気を付けて行ってきます!」


「本当に気を付けてよ。森は危険な魔物がいっぱいいるんだから。できれば転送紋で送ってあげたいけど、従魔契約してないと転移できないから...」


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。強くなったんだし。最悪トカゲ男もいるし。」


「そうよね。それじゃあこれ!」


 イリンは木でできた胸当を渡した。


「これは?」


「ほら、昨日。ヤマト君、胸に怪我をしてたでしょ?だから。」


「ありがとうございます。大切にします。」


 イリンは少し嬉しそうだった。


 一方トカゲ男は。


「ヤマト様まだかなー。もう自転車に乗れちゃったよ。」


 魔族の圧倒的身体能力で、僅か数時間のうちに自転車に乗ることが出来ていた。


 少しすると、ヤマトが来た。


「トカゲ男ー。待たせて悪い。」


「いえいえ。お気になさらず。」


 するとトカゲ男は自転車の後ろにヤマト乗せた。トカゲ男が隣街に向かうべくペダルに足をかけると、ヤマトはイリンからもらった胸当の紐をきつく締めた。




 

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