第4話 始まりの合図

「まさか。俺のチャリで魔物達をひき殺したのか?」


( たぶんそれでレベルが上がって、剣を簡単に操ることができたんだろう。 )


「それに、この草原に入った時に感じたボコボコという感覚は、魔物をチャリでひいていた感覚だったんだ。」


 ヤマトは自転車で魔物を簡単に倒すことができたという事実に驚く一方で、彼の中に悪魔的発想が芽生えた。


( もしかして、草原をチャリで駆け回るだけで簡単にレベルが上がるんじゃねーの!? )


 早速、自転車でレベル上げを試してみようとしたが日が暮れ、街に明かりが灯っていたのが見えた。そのためレベル上げは明日にすることとし、持てるだけの魔物の死体を自転車のかごに詰めて、ヤマトは街に帰った。


 街に戻るとヤマトは「すいませーん」と冒険者ギルドの扉をお開けた。しかし、受付に明かりは灯っておらず人はいなかった。


( 流石に夜になったし、みんな家に帰ったのかな? )


 そうだ!今日、泊まらせてくれる宿を探さないといけないんだった、と考えながら扉出ようとしたら、、、


「ヤマトくーん!こっちだよー!」と女性の声が奥の酒場の方から聞こえた。


 そちらに向かってみると、そこには顔を真っ赤にしていかにも酔っている風貌の受付の女性と三人の男性で机を囲んで飲んでいた。


「受付のお姉さんじゃないですか!ここで何しているんです?」


「ヤマト君の帰りを待ってたんじゃない!あと、私の名前はイリン!次からはお姉さんじゃなくて名前で呼んで!」


( 受付のお姉さん完全に酔ってる... )


「ありがとうございます。でもイリンさん、なんで俺の帰りを待っててくれたんですか?」


「そりゃあ、あんちゃんが心配だったからに決まってんだろうがよぉ。」


 と武器屋の店主がいった。


「えぇ?!もしかしてイリンさんと一緒に飲んでいるのは、武器屋の店主さんに本屋のお爺さん!?あとそれと...」


「あぁ覚えてるかい?俺は、兄ちゃんが転送紋からでてきたのを見てこの街の地図書いてやったんだが。」


「もちろん!」


 と言いリュックの中から書いてもらった地図を男性に見せた。すると、男は少し嬉しそうにしていた。


「そんなことはどうでも良いんじゃ。お兄さんが家に売ってくれたあのきれいな本は一体なんじゃ何処で手に入れたんじゃ?」


 と本屋のお爺さんが話に入ってくると、武器屋の店主も負けじとヤマトに質問をしてきた。


「本なんてどうでもいいだろ爺さん。俺が聞きたいのは、あんちゃんの乗っているやつの事だ。イリンから聞いたが、地元の奴に作ってもらったんだってな。俺も鍛冶屋をやっているから分かるが、そいつの技術はただ者じゃねえ。いったいあんちゃんの地元ってどこだい?ついでにそれを作った奴の名前も教えてくれや。」


「それは...その...」


 野上ヤマト最大のピンチ。君が適当についた嘘で大変なことになっているぞ。このまま噓をつきたいだろうが、君はこの世界の街の名前なんて一つも知らない。

 

 だがこの時、絶体絶命の危機に陥ったヤマトに救いの手が、、、


「もう!みんな一気に質問しすぎ!ヤマト君が困ってるよ。」


( 助かった...ありがとうイリンさん! )


「でも...やっぱりヤマト君の出身はお姉さんも気になるなぁ...教えてくれないかな?」


 またしてもピンチ!!ヤマト、万事休すか?!


「本やお兄さんが乗っている物から考えると、大陸で王都に続いて技術が発展していると言われる、旧王都の南側に位置する都市『ノーザル』が出身じゃないかな?」


 と地図を書いてもらった男性が一言。この助け舟を逃さんと


「そうです。」と食い気味に発言。


「なら納得ができるってもんだな爺さん。」


「あぁ、そうじゃな。あそこならあり得るかもしれん。」


「ヤマト君すごーい!あんな都会が出身だったなんて。」


 なんとか、三人ともごまかせたようだった。


 その後、イリン達の酒の席に混ぜてもらいヤマトは夕食をとった。どうやらそこにいた四人とも、ヤマトの出身ということになっている『ノーザル』には行ったことがないらしい。それをいいことにヤマトはありもしない地元の自慢話をイリン達にして皆と盛り上がっていた。


 ちょうどヤマトに地図を書いた男性が宿を経営しているということなので、食事後はそこの宿にヤマトは泊めさせてもらった。 

 ついでにヤマトの今の格好では、目立つということで宿屋から服を貰った。


 翌日、宿屋を出てギルドにクエスト達成の報告に行くとそこに武器屋の店主がいた。


「昨日は酔った勢いで絡んじまって悪かったな。」


「いいえ。大丈夫ですよ。」


 すると、武器屋の店主が自転車のかごいっぱいに詰められた魔物をみた。


「おい...あんちゃん、この量の魔物どうしたんだい?まさか自分で倒したのか?」


「まあ、そんなところです。」


「嘘だろ...昨日は武器を持つのが精一杯だったのによぉ」


「たぶんレベルが上がったんですよ」


「レベル.....?」


( もしかしてこの世界はレベルがないのか!?確かにレベルの概念がない異世界転生ものもあるしなぁ。ここはなんとかごまかさないと。 )

 

「さっきの事は聞かなかったことにしてください。」


「まあ何だかわからねえがそうするよ。」


「ところで、魔物を倒すと強くなったりしないんですか?」


「確かそうだった気がするなぁ。」


「だったら、魔物を倒して強くなったのだと思います。」


「俺は冒険者じゃねえからよく知らねえけど、そういう事だったのか。もし、魔物の事が知りたいんなら教会に行くいい。なにか冒険のヒントがあるかもしれねえぜ。」


( そういえば魔物やこの世界のことを俺はなにも知らない。なら今日は教会にでも行こうかな。 )


「そうですね。教会に行こうと思います。」


「あぁ、そうするといいぜ。」


 武器屋の店主と話した後、クエスト達成をギルドに報告したらイリンにも同じように驚かれたのであった。


「こんなにたくさん魔物を倒してくるなんてすごいです!」


「これで俺も冒険者になれますか。」


「もちろんです!なんなら魔物駆除のお礼金を出したいくらいです。

ともあれ、これでヤマト君は立派な冒険者の仲間入りです!」


( やったー。ついに念願の冒険者になれたぞー! )


 遂に冒険者になる事が出来た野上ヤマト。彼はギルドの次に教会へと向かった。そこにはどんな新しい出会いがあるのだろうか。 進めヤマト、君の異世界生活は、今始まったのだ。



 





 


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