第3話 はじめての戦い。

「それではクエスト内容を説明します。...その前に一つ聞いていいかな?ヤマト君が両手で支えている物はなに?みたことない物に乗っていて気になっちゃて。」


( 妙に街の人から視線を感じると思ったら自転車が見られていたのか。 )


「これはですね...」


( そういえば、こっちの人達に自転車のことをなんて説明すればいいんだ?

 素直に別の世界から来たって言って信じてもらえるだろうか。 )


 そして、野上ヤマトが出した答えは、、、


「こ、これは、地元の仲の良い、えっと、その、、鍛冶屋に作ってもらった特注品なんです。。」


 なんと、その場しのぎのそれっぽい噓だった!


( たのむ!受付のお姉さん。騙されてくれっ、、、 )


「そうだったんですね。ここら辺だと見かねないものだったので、つい聞いちゃいました。」


( ふぅ、なんとかごまかせたか。 )


「それでは、本題のクエスト内容について説明しますねっ。この街を東の方に出ると、すこし背丈の高い草に覆われた草原があります。」


 そう言うと、なにやら絵の描かれた紙を取り出した。


「そこに着いたら、ここに描かれている下級の魔物を一体、倒してもらえれば無事クエストクリアとなります。 説明は以上となりますが、クエスト内容などでなにか質問はありますか?」

 

 受付の女性が取り出した紙にはあたかもスライムのような魔物と、バッタのような魔物が描かれていた。


「この魔物達の大きさってどのくらいですか?」


「そうですね、こちらのスライムは個体差はありますが、大体両手で持ち上げられる位の大きさですね、バッタ型の魔物の『ホッパン』は拳2個分程の大きさです。」


( 良かった。それ程大きくないみたいだ。 )


「ありがとうございます。それでは、クエストに行ってきます!」


「ちょっと待ってください。」


 そう大きな声をだした受付の女性は、すこし焦っているようだった。


「どうしたんですか?」


(もしかして、このお姉さん俺に気があるのか!?異世界あるあるの一つ「主人公はやけにいろんな女性からモテる」が発動したってことなのかよぉ?!)


 もちろん彼はこの物語の主人公だが、現実は非情。そんな能力はないのである。


「ヤマト君はなにも武器を持ってない様に見えるけど、そのままクエストを受けるの?その身なりだと、お姉さん危険だと思うの。」


( そうだったー。そういえば俺、何の武器も持ってないんだったー。 恥ずかしすぎる!少し前にこのお姉さんが自分に恋心を向けてるとか考えてた時の俺を殺した

い! ) 


「そ、そうでした。どこかで武器を買えるとこはありませんか?」


「それなら、、、受付の奥にある扉が武器鍛冶屋の裏口をと繋がっているのでそちらからお買い上げください。」


「わかりました。では、からクエストに向かいます。」


「ヤマト君のご健勝をお祈りします。」


 会釈をするとヤマトは、武器鍛冶屋に向かった。


____________________


「いらっしゃい。なにを買いに来たんだい?」


「新人冒険者でも扱える武器はありますか?」


「そうかぁ、これなんてどうだい?」


 そう言って武器屋の店主は壁にかかっていた剣をヤマトに渡した。


「この剣は、若者にいま一番オススメしている片手剣だよ。軽くて、頑丈で、切れ味もなかなかいいん..だ。てか、あんちゃん大丈夫かい?」


 そこには、今にも転びそうなヤマトの姿があった。


「あんちゃん無理すんなよな。」そう言うと店主はヤマトから軽々と剣を取り上げた。


(くそぉ、こんなことがあるなら帰宅部じゃなくてなんかの運動部に入っていれば良かった...)


 この後も両手剣や女性でも使いやすいように作られた武器を持つがどれもこれも戦えるような状態ではなかった。

 

 この時、ヤマトは異世界で無双することは自分では出来ないと悟るのであった。

しかし冒険者に登録してしまった以上戦うことから逃げることができない。


「あんちゃん、戦うのに向いてないよ。」


 けれど、ヤマトは諦めたくなかった。現世では弱腰で辛い事から逃げてばかりだった。せっかく異世界に来たというのに前のまんまの自分から変わらないのは嫌だったのだ。


「店主さん...この店では一番軽い剣...ください。」


「でも......」


「いいから、買わせてください!」


「....わかった。そこまで言われたら俺も止めないよ。」


 ヤマトは軽い片手剣を両手剣のように持つと店主の前で華麗に剣を振ってみせた。


「俺、これで冒険者になります。」


 そう言うと店主は、ヤマトの顔を強く見て


「俺は応援するぜ。だが無茶だけは決してするなよ。」と熱い言葉をかけた。


「はい。」


 ヤマトは剣の分の代金を支払うと、ギルドに戻り、自転車で魔物が巣食うとされる草原に漕ぎ進めた。


 草原に着くと何だかボコボコとした地面の上を漕ぎながら草丈の低いとこに自転車を止めた。

 ヤマトは、腰から剣を抜くとさっきまでとは違う剣の感覚がした。


( なんか武器屋で持った時よりも軽く感じるぞ。何があったんだ? )


 もうすぐにでも夕方になりそうな位置に太陽があった。


( 急がないと夜になるな。さっさと魔物を倒して街に帰らないと。 )


 ちょうどそこにスライムが現れた。

 

 ヤマトはとっさに剣を振り下ろした。 しかし剣が軽いためスライムの体の中心まで刃がいったところで剣自体が跳ね返されてしまう。 

 そこで今度は思いっきり剣を体に近づけてから二回スライムに向けて突き刺した。そうすると、刺されたスライムは力が抜けたようにその体を平らにした。


( 死んだのか? )


 どうやらスライムは倒れるとこの様な状態になるようだ。

 

「やった。こんな俺でも魔物を倒すことができたぞ!」


 証拠のためにスライムの死骸をママチャリのかごに入れていると、ママチャリの後輪の方に妙なものを見つけた。


(このバッタ死んでるぞ。それにきっとこのバッタ、魔物だ。)


 ホッパンの死体を拾おうとするとそのさらに奥の草むらの中に、死んでいるスライムがちょっと見えた。そのスライムを拾おうと草むらに入るとそこには自転車で進んできた道をなぞるように一列に魔物の死体が並んでいた。


「まさか、、、」


この時、ヤマトの中に閃きの電撃が走った。




 




                

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