第36話 ※丸腰の聖女

「失礼します、エドワード様」


「ああ、ミア。すまない、手間をかけさせたようで」


「エドワード様、失礼ながら申し上げますが健康管理がなっていないのではありませんか?帰ってきてすぐに倒れるような生活をしては、身が持ちません」


「すまない、反省しているよ」


 そんな会話が聞こえてくる。唇が重なりそうになったあの瞬間に、外からノックが聞こえ、私は隠れようとしたのだが、エドワード様が上手く交わすから、と言ってくださって、私はベットの上で眠ったふりをしていたのだ。


「……エドワード様、大変申し訳ありません。フィリア様はまだ妻としての教育がなっていないようでして。体調不良の夫のベットに潜り込むなど言語道断。今すぐ使用人に運ばせますわ」


 ミアさんのその言葉に私は体が震えてしまった。そうして心の中でひっそりとアイラさんに謝った。


(ごめんなさい、アイラさん。あっけなくミアさんにばれてしまいました)


 すると、エドワード様がミアさんのその言葉を否定した。


「いいや、その必要はない。彼女は私の身を案じて休む時間も削って私の元に来てくれた。妻として正しい行動だ。ベットに寝かせたのは私だ。彼女も疲れたようで、今は眠っているだけなんだ。このまま私の部屋で寝かせておいてくれ」


「ですがエドワード様」


「ミア、頼む」


「……承知いたしました」


 ミアさんは何か言いたげではあったが、私のことはもう何も言わなかった。そうしてエドワード様にお風呂とご飯の準備が出来ていることを告げると、そのまま部屋から出ていった。



「もういいぞ、フィリア」


 私はそう言われて、静かに目を開けた。


「……ミアさんを怒らせてしまいました」


「いいんだ、ミアは少し過保護だから。私は今から色々済ませてくるが、その間、す少し待っていてくれるか?」


「はい、お待ちしております」


「ああ、じゃあまた後で」


 そうして行こうとしたエドワード様を、私は引き留めた。


「エドワード様」


「ん?なんだ」


「あの、私は何か準備しておくことはありますか?その、私、今、丸腰で来てしまったようなものですから……」


 私がそう言うとエドワード様はベットに戻って来て、私の上あごをグイっ、と上に持ち上げた。そうして私が唖然としている間に、私の唇に口づけを落とした。


「んっ、!」


「この感覚に慣れておくこと、それだけかな」


 エドワード様はそう言うと、さっさと部屋を立ち去って行ってしまった。私はベットの上で1人、当てられた唇の感覚を思い出していた。

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