第35話 覚悟を決める聖女

「はっ……!?」


「私と1時間程寝ましょう、エドワード様!」


「わかった、わかったから離してくれ!」


 エドワード様にそう言われ、私は渋々腕を離した。するとエドワード様は目を細めながら、私をじぃっ、と見た。


「……どういうことだ?一緒に寝てくれなんて」


「心は元気でも、体は悲鳴を上げていることもあります。なのでもう少しだけ眠りましょう。私もお傍にいますから……」


「ああ、寝るってそっちの……」


 エドワード様は何かに落胆したようにはぁ、とため息をついて頭を抱えた。頭痛でもしたのかと思い手を差し伸べたが、その前にエドワード様が顔を上げた。


「そう言うからには、何かはしてくれるんだろうな」


「……えっ?」


「まさか訳がないよな?夫の疲れを癒すのも妻としての役目の1つだ」


「エ、エドワード様っ!」


 そう言ったエドワード様はさっきまであんなに動こうとしていたのに、今やすっかりベットに寝ころんでくつろいでいる。困惑している私を、エドワード様は綺麗な青藍の目で見ていた。


「……なんて、冗談だ」


「……え?」


「前にも言わなかったか?私は貴方がここにいてくれれば他には何も望まないと」


 エドワード様はそう言うと、自分の隣をぽんぽん、と叩いた。


「ほら、一緒に寝てくれるのだろう?今夜は冷える」


 その瞬間、私はそのお姿を見て、無意識にエドワード様を自分の胸に抱き寄せていた。


「……っ君は、大胆だな」


 エドワード様が私の腕の中で苦しそうにそう言う。


「……何もできませんけれど、貴方様の冷えたお体を私の熱で温めることぐらいは」


「……やっぱり誘っていたんじゃないか」


「エドワード様。私、今日書庫に行きました」


「書庫?どうして君が」


「沢山本を読んで、エドワード様の言ったをしようと、本の中に答えを探しました。でも私は本の中からそう教えられるよりも、貴方様に教えていただきたいと思ったのです。だから私にご教授くださいませ、エドワード様」


 私は抱きしめていた腕の力を弱めて、エドワード様に向き合った。


「自分の心の中に貴方との初夜に恐怖を抱いていない私を見つけました。私に、エドワード様の知っていることを教えてください。私、もう怖がりませんから」


 私がそう言うと、エドワード様はしばらく唖然とした顔をした後、いとも簡単に私の体をひっくり返して、私の上に跨った。そうして真剣な顔で私に問うた。


「つまり覚悟は決まった、と言うことか?」


「……はい、いつでも」


 その言葉を合図にエドワード様の端正な顔が私にどんどん近づいてきて、お互いの唇が触れそうになった、その時だった。


コンコン、と扉の鳴る音がした。


「エドワード様、起きていらっしゃいますか!?開けてもよろしいですか?」

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