第34話 寝顔を見る聖女

 アイラさんを見送り、私は恐る恐るエドワード様の部屋のドアを開けた。中は静まり返っていて、どうやら誰もいない。部屋の中に入り、中の方に進むと、とベットの上にはエドワード様が静かに眠られていた。私は近くに椅子がないかと探したが、ないとわかったので失礼を承知でベットの端に腰かけた。


 熱がある、とか、体調を崩された、なんて聞いたものだから容体はどうなっていることかと心配していたが、見た感じでは熱もなく具合も悪くなさそうだった。私は外に出されていたエドワード様の手に触れてみた。いつもの温かさを持った手だった。どうやら熱などはないようだ。聖女時代に病気のある人に沢山触れてきたから、病人かどうかを見分けるのは得意な方なのだ。心の中で触ってしまってすみません、と謝って私がその手を元に位置に戻した、その時だった。


「……フィリ、ア」


 小さく、でも確かに、そう私を呼ぶ声が聞こえた。


「……エドワード様?」


 と、私がエドワード様の顔に耳を寄せると、閉じらていたエドワード様の瞼がゆっくりと開いた。


「エドワード様」


 私がそう声をかけると、エドワード様は少し視線を迷わせた後に私をその眼に映した。そうして私をはっきりと見て、口を開いた。


「……やっぱり、フィリアか」


「はい、そうです。エドワード様。お気分はいかがですか?何かお飲み物でも持ってきましょうか?」


 私がそう言うと、エドワード様は「……いや、大丈夫だ」と言って、ベットからその小さな体を起こした。そうしてぐっ、と背伸びした。


「……私はいつから眠っていた?」


「帰ってきてからすぐに、倒れるようにお眠りに……」


「思えば貴方の胸の中で記憶が途切れている。……すまない、迷惑をかけた」


「いえ、いいんです。お疲れだったのでしょう?今夜はゆっくり休まれてください」


「いや、いいんだ。明日は休みを貰っているから。しなければいけないことを済ませよう」


 そう言ってエドワード様がベットから立ち上がろうとしたので、私は思わずそのお体を止めてしまった。


「お、お待ちください、エドワード様。そんなお体に鞭を打つような真似はおやめください。せめてあと1時間、1時間ほど休みましょう?」


「眠ってしまった分取り返さなければならない、止めないでくれ」


「あ、エドワード様っ……!!」


 そのまま行こうとするエドワード様を私はどう止めていいかわからず、反射的にエドワード様の体に後ろから抱き着いて、ベットに引き戻してしまった。


「ちょ、なにをするっ……!」


「私と寝てください、エドワード様!」

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