第33話 部屋に向かう聖女
ミアさんはエドワード様に熱があるのかもしれない、と言い出してバタバタと動き始めた。お話ししようと思っていた張本人が眠られてはどうしようもない。エドワード様の部屋に多くの使用人の方が出入りしている間、私はご飯を食べる気にならず、お風呂を頂いた。そうしてことが落ち着くまでバルコニーで夜風に当たった。
「奥様、旦那様が大分落ち着かれましたので、様子を見に伺ってはいかがでしょうか?」
私がバルコニーで涼んでいると、若い使用人の方がそう声をかけてくださったので、私はエドワード様の部屋に向かうことにした。私をエドワード様の部屋まで案内する道中、若い使用人の方は私に
「奥様、奥様が来ることは使用人長には内緒です。ご主人様が倒れるのなんて初めてですから、使用人長、気が立っているんです。もし見つかったらアイラがそう言った、と言ってくださいな」
と、言った。その言葉に私は思わず立ち止ってしまった。
「……貴方様の名前を出したら、貴方様がミアさんに怒られてしまいます」
「いいのですよ、奥様。ご主人様が倒れてるのに、奥様が様子も見たらいけないなんて変なお話ですもの。使用人長はきっと奥様でも容赦なくお怒りになるでしょうから、その時は私の名前を出してくださいな」
私はそう言われて、少し迷った。もしここで断ればきっとこの方は私がミアさんに怒られてしまう、と気が気で無くなってしまうだろう。私は少し考えて、この方にこういった。
「……わかりました。もしそのような時があればそうしましょう。でも貴方様がこの屋敷からクビになることはない、と言うのはわかってください」
私がそう言うと、その若い使用人の方は頷いた。そうしてエドワード様の部屋の前まで案内してもらい、部屋に入る前にその使用人の方に声をかけた。
「……貴方様のお名前は、アイラさん、と言うのですね」
私がそう言った瞬間に、彼女は腰を低くして私の前に膝まついた。私は彼女の元に駆け寄りたい気持ちを抑えた。私はこの感覚を知っているからだ。
「……お、奥様に私の名などを呼んでいただけるなど、この身に余る光栄でございます……!」
彼女の姿は、まさに私を聖女として敬っていた人々の姿のソレだった。私は優しく彼女の前に座った。
「……さぁ、こんなことをしていてはミアさんにばれてしまいます。顔をお上げください。貴方様にはここに来た時からとてもお世話になっていましたから、お名前を知れて嬉しいです。行ってください」
私がそう言うと、アイラさんはその目に涙を浮かべながら立ち去って行った。
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