第32話 変化する聖女

 私はこの前の晩と同じように玄関の扉をひっそりと開けて、外に出た。今度はナイトドレスではなくてしっかりとした服装で。まだ馬車は来ていないようで、外はしん、としていた。私が外に出ると、この前の門番の方がまた私を見て驚いていた。


「シャ、シャーロット様!?こんな夜分にどうされたのですか?!もう休みになる時間では?!」


 この前と同じようなやり取りに私はふふ、と笑いを零しつつ門番の方に言った。


「いいえ、旦那様がおかえりになるのにおちおち寝てなどいられませんわ」


「わざわざお出迎えされなくても、ご主人様が帰られたら奥様にお伝えするようにいたしますよ!?」


「それじゃあ意味がありません、直接お出迎えしたいんですもの!」


 いつもよりはきはきとした私の姿に門番の方が困っていると、そのうちに遠くから馬車の音が聞こえてきた。あっとしている内に馬車はすぐに正門の目の前につく。馬車の扉が使用人の方の手によって開かれ、中から凛とした小さい体が出てくる。私はそれを真っ直ぐとした目で見つめていた。


「…………」


 エドワード様はまだ顔を上げておらず、私が目に入っていないようだった。そうしてエドワード様が玄関に上る階段の一段目に足をかけた時、私は大きく息を吸った。


「エドワード様、おかえりなさいませ」


 私のその声にエドワード様ははっ、として顔を上げた。そうして信じられない、なんて言いそうな表情で私を見ていた。私はそんなエドワード様の表情に微笑みつつ、言葉を紡いだ。


「お仕事からおかえりになった夫様を、1番にお出迎えするような妻はお嫌いですか?」


 エドワード様は唖然とした表情をしながら、どんどん階段を上がってくる。そうして私と同じところまで上がった時、そのまままるで眠るような穏やかさで私に倒れ込んできた。私は反射的にその体を抱きとめた。


「エ、エドワード様っ!?」


「……貴方が、」


「………え?」


「仕事から帰ってきて、貴方の顔を一番に見れる贅沢を、私は味わって、いいのだろうか……」


 びっくりしてその顔を見たら、いつもキリッとされているその目をうるわせて、ぼんやりとした顔でそんなことを言うものだから、私の手は思わずエドワード様の頭に向かっていた。そうしてその小さな頭を優しく撫でていた。


「……エドワード様、こんなの贅沢の内にも入りませんよ」


 そのまますぅ、と眠ってしまったエドワード様を私は受け止めて、ちょうどエドワード様をお迎えに上がっていたミアさんに声をかけた。ミアさんは信じられない、なんて顔をしながら、エドワード様を私から引き受け、男の使用人の方にお部屋に運ばせていった。

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