第29話 責められる聖女

 朝、冷たい空気に触れて起きた。目を開けて数秒で、ここが自分の部屋ではないことがわかった。でも、ちゃんとベットの上では眠っている。その時、香り慣れた匂いがして、私は被せられていた毛布を掴んでガバッ、と起き上がった。


「わ、私、昨日......!」


 空気の冷たさに意識と記憶がはっきりしていく。昨日の夜のこと。確かエドワード様に女性であることを打ち明けられ、確かエドワード様を怒って、それから色々あって押し倒されて私とエドワード様は......。


「そんな......」


 そうだ、押し倒されて、どうしたんだっけ。エドワード様が迫ってきたことは覚えているのに、その後が綺麗にさっぱりと思い出せない。そこだけ記憶を切り抜かれたように、記憶がない。記憶を取り戻そうと頭を抱えていると、隣でなにかが動いた。


「......んん、まだ夜明け前だぞ......」


 恐る恐る隣を見ると、そこにはエドワード様が横たわっていた。


「エ、エドワード様......」


「......なんだ、豆鉄砲を食らったような顔をして」


 エドワード様は体をこちらに向けて、気だるそうに私の方を見た。


「あの、エドワード様、私達昨日......」


「......昨日は貴方の言うに付き合ってもらおうと思ったのですが、貴方は唇を重ねただけで顔を赤くして気を失ってしまったですよ」


「気を、失って......?」


「お互い慣れないことはするもんじゃないな、全く。そういえば貴方を抱き抱えた時に思ったが、少し軽すぎませんか。ここに来て2週間、ご飯は食べさせているつもりだったが貴方にはもっと食べてもらわないといけないらしいですね、全く不健康だ」


「ふ、不健康......」


 私はエドワード様の言葉を受け入れるのに精一杯で聞き返すことしかしできなかった。だが、エドワード様の口調が変わっていることにはすぐに気がついた。確か昨日は私に敬語で話さなかったのに、今はどうして敬語混じりなんだろうか。しかし、そんな疑問を消し去るかのようにエドワード様は軽やかに起きあがって、ぐっ、と背伸びをした。


「ああ、もうは致しませんから、安心してください」


 そう言ってベットから降りようとしたエドワード様を、私は思わず引き留めた。


「......エドワード様!」


「......なにか?」


 その青蘭の目に貫かれて私は思わず怯みそうになったがそれではだ駄目だと思い、エドワード様の手を自分から掴んだ。


「昨日は、せっかく慣れないことを体験させていただいたのに大変失礼しました。申し訳ありません」


「いや、遊びすぎた私に非がありますから。貴方様はお気になさらず」


「いえ、そうではなくて......」


 私は大きく息を吸って、まとまらない思いをそのまま口に出した。


「私、嬉しかったです。その、嫌だったからとかではないんです。なので、あの、もう1度、私にチャンスをいただけないでしょうか?」


 その言葉にエドワード様の顔があからさまに歪んだのが、わかった。


「......チャンス?」


 私はエドワード様の手をぎゅっと握って、こくり、と頷いた。


「私、しっかりお勉強します!エドワード様に触れていただいてももう気絶しないように、しっかり学んで準備して、必ずエドワード様を満足させるとお約束しますから。だから、もう一度、チャンスを......」


 その瞬間だった。視界がぐるり、と回った。気がつけば、エドワード様が私に覆い被さっていて、私はまたベットに後戻りしていた。


「君は、」


「へ......?」


「君は、私が好きで、触れてほしくてそう言っているのか?」


「え、あ、......」


 下から見上げたエドワード様の顔は、酷く歪んでいた。

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