第27話 怒る聖女

 時間も11時を回った頃、私はエドワード様の部屋のベットの上に座っていた。エドワード様は使用人の方と数言の会話をしてから、ゆっくり扉を閉めた。読書灯が私を照らしていた。


「失礼を承知でお聞きしますが、このようなご経験は初めてですか?」


「.....規則で禁止されていましたから、その、こういった経験や、男性にむやみやたらに触れることは禁止されていまして......」


「緊張されていますか?」


「......はい。聖女ではなく普通の女性としては、経験がないのは恥ずかしいですよね」


「いえ?私はそうは思いませんけれども」


 そう言って、エドワード様はその美しい金髪の髪の毛を解いた。


「今夜は、貴方のことはなんとお呼びすればいいですか?」


「え、あ、では、シャーロットで......」


「いいんですか?初めてなら本名の方がいいのでは?」


「......そんな」


「......わかりました、では今夜はシャーロットで勘弁しましょう」


 そう言って、エドワード様はおもむろに服を脱ぎ始めた。私は思わず手で顔を覆い隠した。


「あ、あの、エドワード様!まだ心の準備が......!」


「今から私の姿を見ることに、恥ずかしがることはなにもない。シャーロット、これは命令だ。私の姿をよく見ておきなさい」


 エドワード様は私をと呼ぶとき、敬語を使わなくなる。多分本来のエドワード様はそちらで、私をと呼ぶときは聖女フィリア・カーターという存在にに敬意を払っていただいているのだろうと思う。今は私は名もない家のシャーロット。旦那様にそう命令されたのでは、私に否定する権利などはない。私はエドワード様が服を脱いでいく姿を、しっかりと見た。


 エドワード様はまず、着ていた白のシャツを脱いだ。ボタンを開けると、小さな体が現れたがなぜか胸元には包帯が巻いてあった。最近怪我をされたのだろうか?と思った。エドワード様は続けてズボンを脱いだ。私ははじめて見る男性のソレに目を伏せたい気持ちで待ち構えたが、エドワード様が下着をすべて取り払っても、男性のソレは現れなかった。最後にエドワード様は胸元の包帯をとった。そこには、女性を象徴する胸の膨らみがあった。


「......エド、ワード様?」


「シャーロット、君には結婚するときに必要なことは何でも話したつもりだ。でも、ひとつだけ隠していることがある」


 私は息を飲む。


「私は女だ」


 今私の目の前にいるのは、公爵家の3男にして騎士団団長の高貴名公爵騎士エドワード・クロイツェルではなく、金髪の髪をしたまだ未発達の綺麗な体を持つ、美しい12歳の幼女だった。





「......クロイツェル公爵家は、代々男兄弟で権威を争わせる文化がある。私はクロイツェル公爵家でも初めてと言える珍しさで女として生まれたが、母がそれを許さなかった。幼いときから私はとして育てられてきた。上の兄達と同じく、男として育ち、周囲からも男として扱われた。騎士団に入団した8歳の頃、自分が女であることを隠すことを初めて学んだ。それから私は今日まで、自らを男だと思って生きてきた」


 エドワード様は真面目な顔で、続ける。


「私が女だと知っているのは、両親と私の専属の使用人・ミアだけだ。あとは誰も知らない。上の兄弟も私を女と知らず男兄弟として接していたし、オリヴァーにも騎士団にも、みんな隠してきたことだ。......でも、シャーロットには話さないといけないと思った。夫婦の間に隠し事なんてなし、だろう?」


 その瞬間に、私はベットのシーツを剥ぎ取って、エドワード様の体に被せた。そうして初めて、エドワード様をこの胸に抱き締めた。


「シャ、シャーロット......?」


「エドワード様の馬鹿.......!」


 その時私は初めてエドワード様に、大声をあげていた。

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