第26話 誘われる聖女

 エドワード様は私を連れて屋敷に入ると、そのまま私を食事をする部屋へ招いた。そうして使用人の方に「彼女に何か軽いフルーツを」と頼み、誰もいなくなった所で私に近づいた。


「......フィリア様、今日はお出迎えしていただいて誠に嬉しかったです。私は夕食を取るのですが、よかったらフルーツでも召し上がりながら一緒にお話でもいたしませんか?」


 にこにこと笑ってそう告げるエドワード様に、私はこくり、と返事を返した。


「......エドワード様がお疲れではないのなら、是非」


 私がそう言うと、エドワード様はまたにこり、と笑って


「では私は一旦着替えてきますので、フィリア様はここでゆっくりお待ちください」


 と言って、部屋から出ていった。私はそれをぼーっとして眺めていると、使用人の方に


「奥様、今夜は冷えますからお待ちの間に紅茶でもいかがですか?」


 と、声をかけられて我に返った。私は「是非頂きます」と返事をして、準備をしに行った使用人の方の背中を見送った。



 10分もしない内に紅茶が運ばれてきて、20分もしない内にエドワード様がお戻りになられた。騎士団の制服とは待った違う、軽い装いでエドワード様は戻ってきた。その時間を見計らったように、エドワード様の食事と私のフルーツが運ばれ、また私達は2人きりになった。


 お皿に手を付け始めたエドワード様が、先に沈黙を破る。


「今日はオリヴァーがお騒がせしました。普段はこんな失礼なことはしない奴なのですが、どうも私が結婚したとなって気が可笑しくなったみたいで。どうか私の友人だと言うことに免じて、お許しください」


「......いえ。以前からエジャートン伯爵様とはずっとお話ししたいと思っていましたから、今日はいい機会でした。親しい方が結婚となると動揺する気持ちもわかります。私の方こそ、エドワード様のご友人様に簡単なおもてなしもできなかった非礼をお許しください」


 私がそう言うと、エドワード様は


「貴方が心の広い方でよかった」


 と、また食事を口にした。私は目の前のフルーツにどう手を付けようか迷いながら、フォークを手に持った。


「それで、今日はオリヴァーのこと以外に何かあったのですか?」


「......え?」


「貴方が急に私を迎えたいだなんて、珍しいと思いまして」


 その言葉に、私は俯いてしまった。エドワード様をお迎えしたことには、特に深い理由がなかったからだ。ただ単純に、お仕事から帰られたエドワード様を1番にお出迎えしたいと、そう思っただけなのだから。


「......深い理由はないんです。ただ、先程も言った通り今日はエドワード様を1番にお出迎えしたかっただけで......」


 私がそう言うと、今度はエドワード様が困ったように眉を下げた。


「......それは、と捉えてよろしいのですか?」


 そんなことを言われるとは思わず、私はフォークを持った手を止めてしまった。


「......えっと」


「私と貴方は確かに夫婦です。でもそれは貴方を保護するため、と言う建前があってのこと。貴方が私に干渉もぜず興味も持たなければ、私はそれでもいいと思っている。でも、貴方が少しでも私に興味を持ち、関わろうと、接しようとしてくれるのであれば、私は貴方に話さねばいけないことがあります」


 私はその言葉に、ごくり、と息を飲んでしまった。


「教えてください。貴方は私と以上の関係を、求めますか?」


 真っ直ぐなエドワード様の視線に、私はまた息を飲んだ。でも、ここで何も答えないのは卑怯だと思った。それはエドワード様に対しての、不敬だ。


「私はエドワード様をもっと知りたいです。以上に」


 私がそう言うと、エドワード様は真面目な顔で私を見て口を開いた。


「ではシャーロット、今夜は私と初夜をしよう」

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