第25話 お迎えする聖女

「......オリヴァーが失礼をしました、フィリア様」


 エドワード様は申し訳なそうに私に告げた。その言葉に私はすぐに首を振った。


「......いえ、急ではありましたがエジャートン伯爵様とお話しできてよかったですし、いい刺激も頂きましたから」


「ああ、それならよかったです」


 エドワード様はそう言って、胸のポケットを触って時計を出した。


「申し訳ない、今からまた仕事に戻らなければならない。今日は早く帰りますので」


「大丈夫ですのでお仕事に集中してください。私はお待ちしておりますから」


 そう言うと、エドワード様は「お心遣いに感謝します」と一礼してから、早足で応接室を出ていった。そこで私はようやくほっ、と息を吐いた。





 私が気遣ってくれたのか、ミアさんがいつもより早くお風呂を進めてくれたので、私は遠慮せず頂くことにした。慣れてしまった大きな浴槽に私はゆっくりと浸かった。温かいお湯が冷えた体を暖めてくれる。そういえばこのお湯には疲労回復効果がある、なんてことを聞いた気がする。見てみると色がついているし、ほんのりと薬草の香りもする。最近流行りの入浴剤、入れているのかもしれない。それとも調合でもしているのだろうか。


「まぁ、どっちでもいいか......」


 そんなことを言ってお湯に体を預けた。ふと脳裏に、応接間に慌てて入ってきた時のエドワード様の顔が浮かんだ。





 夜ご飯を食べ終わり部屋に帰ろうとした時、ふとエドワード様が帰ってくる予感がして、私は行き先を変え、下に降りる階段の前に行き着く。玄関前に人を待つ場所なんてないので、私は階段の端に腰かけた。こんなことをするのは初めてだった。でも、今日は1番にエドワード様をお出迎えしたい気分だった。しばらく待っていると、外から馬車が走ってくる音がした。ここは田舎だからこんな時間に馬車が来るとすれば、きっとエドワード様しかいない。私は立ち上がり、階段を下りて1階に足を下ろした。



 屋敷の内から扉を開けて外に出ると、外にいた門番の方にビックリされた顔をされた。


「シャーロット様!?こんな時間に一体どうされたのですか?!」


「すみません、エドワード様をお迎えしたくて......」


「ここまで来られなくとも、シャーロット様がお待ちしていたことをお伝えしておきますよ」


「いえ、直接お迎えしたいのですから......」


 そんな会話をしながら待っていると、クロイツェル家の大きな馬車が屋敷の前で止まった。中から従者の方が扉を開いて、エドワード様が降りてきた。その小さな体はいつもより疲れているようにも思えて、私は少し息を飲んでしまった。屋敷に帰ってこようとしたエドワード様が顔を上げて扉を見た時、そこにいた私とぱっちり目が合った。


「......フィ、いや、シャーロット。どうして、ここに?」


「お疲れさまです、エドワード様。今日は直接お迎えしたい気分だったので......」


 そう言った私にエドワード様が驚いた顔をしつつ、私の前に立った、その時だった。


「シャーロット様、こんな夜分に何をされているのですか?」


「あ、ミアさん......」


 後ろから現れたミアさんは私の姿を見ると、呆れたようにはぁ、とため息をついた。


「そんなはしたない格好で出歩かないでください。屋敷外の人に見られたらどうするおつもりなのですか?」


 思えば私は今就寝用の服を着ていて、とても人前に出ていい格好ではなかった。我ながらなにも考えていなかったと思い、思わず「失礼しました」と頭を下げようとしたその時だった。私の腰をエドワード様が自分の方に引き寄せた。


「ミア、今日は少し彼女に迷惑をかけてしまったから、許してやってくれ。さぁ、シャーロット。冷えるから中に入ろうか」


 そう促され私はエドワード様につれられるがまま、屋敷の中に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る