第24話 理解される聖女

「......なるほど、状況はよくわかった。エドワードにしては踏み切った決断だったな」


 エドワード様はこれまでの経緯(保護してから結婚するまでの流れ)を説明し、エジャートン伯爵様はなるほど、と納得してくれた。聡明で冷静な性格のエジャートン伯爵様のことだから否定するかと思ったけれど、それは私の杞憂だったようだ。


「オリヴァー、私は騎士団の不祥事を隠す為にフィリア様と結婚した訳ではない。それは理解してくれ。彼女との結婚は私が望んでしたことだ」


 エドワード様がそう言うと、エジャートン伯爵様は頷いて


「エドワードが決めたことなら、俺も肯定するさ」


 と、言った。しかしエジャートン伯爵様は私をじっ、と見つめていた。


「......しかし、あのエドワードがというだけでも驚きなのに、その相手がとは、本当に何があるかわからないと思いましてね」


 エジャートン様のその言葉に、私は思わず驚いてしまった。


「その、あの、やっぱり身分不相応ですよね。実は私も少し気にしていて......」


「確かに。12歳のまだ成長しきっていないエドワードに、聖女様は早いな」


「え?あ、いえいえ、そうではなくて......!」


「ははっ、わかっていますとも」


 そう言ってエジャートン伯爵様は、軽い微笑みを顔に浮かべた。


「すまない、からかってしまったようになった。ですが、こちらもまた意外ですね」


「......意外、ですが?」


はこんなにも豊かに笑う人だったとは」


 私はその言葉にはっ、としてしまった。エジャートン伯爵様がそういうのも、聖女時代はあまり表情を出すな、というルールがあったのだ。


「ごめんなさい、失礼しまし......」


「いえいえ、そうではなくて......」


「え?」


「聖女だった頃の貴方様はいつも悲しそうなお顔をされていましたから。エドワードの隣なんかで大丈夫かと思っていたら、こんなにも表情豊かになっていて。いや、安心しました。いや、私も年かな、こんなことで涙が......」


 すると、すかさずエドワード様が渋い顔をして見せた。


「年って言ったって、まだ25じゃないか」


「......に、25?!」


 エドワード様の言葉に、私は思わず驚いてしまった。エジャートン伯爵様は私から見たらどう見ても10代に見えたからだ。


「......フィリア様には言ってなかったのか」


 飄々ひょうひょうとした態度で、エドワード様がそういう。エジャートン伯爵様は心なしか少し気恥ずかしそうにしながら、視線をそらしていた。


「......別に隠していた訳ではないんだがな......。申し訳ない聖女様、隠すつもりはなかったのです」


「すみません。同じ年ぐらいだと思っていたので、大袈裟に驚いてしまって......」


 しかし、その話を聞いて私は感心してしまった。エドワード様は今12歳、25歳のエジャートン伯爵様とは13歳もの差がある。一回り差だ。でも年の離れたお二人でも、ここまで仲が良いのは、エドワード様は歳の離れた人の方が関わりやすいのがあるのかも知れない。年以上にしっかりされているエドワード様だからこそ、尚更。


「でも、よくお似合いのお二人だと思いますよ。エドワード様もエジャートン伯爵様がお隣にいたら安心するのではないでしょうか?」


 私がそう言うと、エドワード様は気恥ずかしそうに顔を背けた。


「フィリア様の言うことに間違いはないが、そうはっきりと言われるとな......」


 そんなエドワード様を見て笑ったエジャートン伯爵様は、ソファーから立ち上がった。


「では、私はここでおいとましよう。フィリア様、いや、今はシャーロット嬢か。急に訪ねて色々質問してしまった不敬をお許しください」


「あ、いえ......」


 エジャートン伯爵様はそう言い残して一礼すると、さっさと帰ってしまった。

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