第23話 共に乗り越えたい聖女

「エドワード様......!」


「エドワード......」


 エドワード様はエジャートン伯爵様のもとに駆け寄ると、胸元を掴んで持ち上げた。


「オリヴァー、どういうことだ説明しろ!シャーロットに何を言った?!」


「シャーロット?自分の妻の名前を間違えるなんて酷いな、エドワード。彼女の名は聖女フィリア・カーターだ。本当に彼女が好きでもないくせに、騎士団の不祥事の隠蔽の為に彼女を結婚させるとは、エドワード、策士にも程があるぞ」


「騎士団の不祥事......?なんのことだ、それが彼女になんの関係がある?」


「ここまできてとぼけるとはエドワードも人が悪くなったな!我らが主に失礼だ。せめて本当に結婚した理由ぐらいしっかり話せ!」


 私はお2人の喧嘩を言い争いをやめさせる為に立ち上がったが、その瞬間を制すようにエドワード様がすかさず私の隣に座った。エドワード様がどすん、と私の隣に腰かけたので、私は少しあげた腰を、またソファーに戻した。エドワード様はそのままエジャートン伯爵様に言い放った。


「オリヴァー、何の用だ?彼女に何をしに来た。......って、フィリア様だということもばれてるのか。......もしかして、自分から話したのですか?フィリア様」


「あ、えっと......!」


「違う。俺が察していたんだ、不敬を承知で聖女様の正体を暴かせた。聖女様は何も悪くない」


 エジャートン伯爵様がそう言うと、エドワード様は安心したように息を吐いた。


「......オリヴァー、いつから彼女がフィリアだと気がついていた?紹介した時か?」


 エドワード様がそう言うと、エジャートン伯爵様は少し考えたような仕草を見せられたあとに、首をぶんぶん、と振った。


「エドワードとは長い付き合いだからな、なにかを隠していることぐらいすぐにわかる。フィリア・カーター失踪事件に重なる急なエドワードの結婚。おかしいことが起きていることに、いや、これを受けて周囲がおかしいと思うことに気かつかなかったのか?」


「......」


「しかもあの日、ベルローク街でフィリア・カーターを保護したことは、俺含めた数人の団員は見ている。表向きには失踪事件だと言われているが、騎士団の中ではもうフィリア・カーターは団長様が保護したと噂になっている。いずれ社交界にも情報が出回ったら、ごまかすことはできないぞ」


「......ふっ、言う通りだ。全く、オリヴァーには何も隠せないな」


「何年の付き合いだと思ってるんだ」


 エドワード様ははぁ、とため息をつくと、エジャートン伯爵様から私の方に体を向けた。


「フィリア様、私には弱点がある。彼だけには隠し事ができないことだ。彼だけには真実を、話してもいいだろうか?」


 私はもちろん、という意味で大きく頷いた。


「ええ、エドワード様がエジャートン様にとって、とても信頼をおける人であることはわかっていますから。どうか全てお話しください、私もエジャートン伯爵様になら、お話しすることは賛成です」


 私がそう言うと、エドワード様は私を下から見上げて


「結婚することで貴方には苦労をかけないと約束したのに、こんな形で迷惑をかけてしまって申し訳ない」


 何て言ったので、私は否定の意味を込めて首を振った。


「エドワード様、私は1度全てを無くした人間です。エドワード様が現れて、私を助かった。例え偽りだとしても1度は添い遂げるとお約束した。それ以上はどんな苦労や困難が襲いかかろうとも、私たちは一緒です。これからは共に悩み、共に乗り越えましょう」


 そう言って私はエドワード様の小さな手を、自分の手に重ねた。


「だって、夫婦なのですから」


 私がそう言うと、そんな目の端でエジャートン様がふっ、と笑っていた。


「全く、どんな結婚になるかと思えば、我らが主は何も変わらないな」

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