第22話 思わせ振りな聖女

 なんとかエジャートン伯爵様をソファーに座らせて、私は落ち着くつかせるように口を開いた。


「エジャートン伯爵様、私は今はもうなんの権力もない、ただの1人の人間です。ですので聖女様、と呼ぶのは......」


「しかし今、宮廷にローズ・エバンズが聖女になることを賛成している人間はほぼいません。力は確かにある。だけれど彼女は自由すぎる。聖女直属の使用人もみんな手を焼いている。ルソー伯爵とローズ・エバンズの策略に、国王と国民はまんまと騙された。そうとしか思えないのが正直なところです」


 エジャートン伯爵様の言葉に私は俯くことしかできなかった。例えそうだとしても騙される母数が多ければ、それは真実となってしまう。今さら私が本物の聖女だとしてまた聖女に戻るつもりもない。


「......今のローズ様が宮廷で聖女として認められていないとしても、私はもう聖女を剥奪された身です。なのにどうしてここに、私を訪ねられたのですか?」


「......」


「何か、訪ねてこられた理由があるのでしょう?」


「エドワードは昔から隠し事をするときに、動きが忙しくなる。最近その動向が見られていました。そこに貴方様の行方不明事件も重なった。そこで確信しました。エドワードは聖女様、フィリア様について何かを隠していると」


「......エジャートン伯爵様はエドワード様のことを何でも知っておられるのですね」


「......いえ、そういうわけではないのです」


「......と、言いますと?」


「騎士団の仕事の中には、どんな状況でも聖女様をお守りすることもあります。しかし、私達はローズ・エバンズにまんまと騙され、フィリア様を守りきれなかった。エドワードが保護という名目で結婚までした理由は、前代未聞の騎士団最大の不祥事を庇う為でしょう」


 私はそこではっとしてしまった。それはずっと気になっていた、エドワード様が私を保護した理由に繋がることだったからだ。エドワード様は騎士団の不祥事を隠す為に結婚をしたとしたら。......でも、本当に?エドワード様は本当に騎士団の不祥事を隠す為だけに、私を匿ったのか?一緒に出掛けて、変装もさせてくれて、夜は少し語り合って、笑顔を交わした。あれは全部演技?じゃあ何故エドワード様は、私をわざわざご自分の両親に挨拶までさせた?


「エドワード様はもしかしたら、私達のわからないもっと深いところで、なにかお考えなのかもしれません......!でなければこんな私に親切なことは......」


「フィリア様、どうかエドワードの不敬をお許しください。あいつはその、少し思わせ振りなところがありますから、女性が勘違いしても仕方がない」


「お、思わせ振り......?」


「エドワードはいかんせんあの年齢ですから女性との関わりがなくて......。無意識に思わせ振りなことをして、社交界の女性が勘違いすることが多いんです......」


 そう言ってエジャートン伯爵様は、はぁ、とため息をついた。


「......本当に。エドワードにはあとでしっかりと頭を下げさせますから」


「いえ、そんな......!この結婚は私も加担していることですし、エドワード様が謝ることでは......」


「いや、社交界の女性はまだいいですが、よりにもよって聖女のフィリア様をたぶらかすなんてやっていいことと悪いことが......」


 そうエジャートン伯爵様が頭を抱えた時だった。向こうから誰かが足音を立てて、この部屋に歩いてくる音がした。私がエジャートン様から目を離すと、一気に立てつけられていたドアが大胆に開いた。


「オリヴァー!珍しく休みを取ったと思ったら、人の屋敷にづけづけと乗り込むとはいい度胸だな!私の妻を取るつもりか!?」


 そこにいたのは、怒りをあらわにしたエドワード様だった。

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