第21話 暴かれる聖女

 エジャートン侯爵様は、気まずそうに口を開いた。


「クロイツェル侯爵夫人は、聖女様が行方不明になったお話をご存じですか?」


 その言葉を聞いた瞬間に、私は自分の背筋が凍ったのを感じた。しかし動揺を悟られないよう、自然な演技をした。


「ええ、最近エドワード様は忙しくされていましたから、お話を聞いたらそんなことがあっったと聞きました。騎士団は今、大変なようですね」


「ええ、ルソー伯爵が今までにないほど荒れていますから被害が来ていて。彼は聖女様などに関心などなかったのに、今はあのローズ嬢より熱心になられている」


 私はそのときエドワード様から聞いた話を思い出した。ルソー伯爵様は確かに私を嫌っていたように思うが、そんな彼が何故そこまで私を......?


 そう考え込む私をよそに、エジャートン伯爵様は話を続ける。


「しかし、これはルソー伯爵が熱心になるのも頷ける話なのです。聖女様、フィリア・カーターはベルローク街に追放されてから5日目に突然、姿を消しているのです」


「......そんな、どこか近くに逃げたのではないですか?」


「いえ、ルソー侯爵が騎士団に正式にフィリア・カーターの捜索を依頼し、街の囚人の聞き込みした結果、フィリア・カーターが騎士団に保護された、ということがわかりました」


 私はこのままではいけない、と思った。このまま話が進めば、フィリア・カーターの話になってしまう。私は話をそらそうと、すぐさま口を開いた。


「し、しかし、ルソー伯爵様がそこまで熱心になるのも不思議ですわね。ルソー伯爵様は他にご熱心な方がいらっしゃったのではなくて?」


「ええ、しかしそれ以上に重大なのは、騎士団の中に秘密裏にフィリア・カーターを匿っている人間が存在していることです。......心当たりはありませんか?」


「......心当たり?わたくしにですか?」


「この時期に、こんなタイミングで、エドワードが結婚するなどあまりに不自然過だ。あのエドワードが急に何故?しかも親にも相談せずに。失礼を承知で言いますが、エドワードはまだ12歳。まだ子供だ。私たちが見守らなければばならない存在だ。シャーロット嬢、本当のことをお話ししていただければ私はなにもしない。しかし、嘘をつくようならば......」


「っ......」


「粛清が必要になる」


 私はエジャートン侯爵様の鋭い目線に貫かれ、息を飲んだ。ダメだ、この人には嘘がつけない。いや、ついてはいけない。粛清が怖いのではなく、この人は、私よりもずっとエドワード様のことを考えていて、大切にしているからだ。もしここで嘘をつき、エドワード様に何かあってはいけない。私はひっそりと心の中でエドワード様に謝った。


(エドワード様。仮の妻、そうだとしてもここで裏切ることをお許しください)


 私は髪の飾り物に手をかけた。その瞬間に、髪の飾り物を一気に自分の頭から引きちぎった。中からフィリア・カーターしかもちえない銀髪の髪が現れる。エジャートン伯爵様は私を見て、目を見開いていた。


「......エジャートン伯爵様、嘘をついたことを謝ります。粛清も快く受けます。ですからどうか、エドワード様だけには何もしないでください。落ちぶれた聖女の、最後の願いだと思って、どうか」


 しかしエジャートン伯爵様はその言葉の瞬間に、私の前にひざまついた。


「申し訳ございません、聖女様!いくらエドワードを守るためとはいえ、貴方様を問い詰め疑ってしまった。どうかこの無礼をお許しください」


 私はエジャートン伯爵様と同じようにひざまつき、その肩に手を添えた。


「どうか顔をあげてください、エジャートン伯爵様。騙していたのは私の方なのですから」


 それでも、エジャートン伯爵様はしばらく顔をあげなかった。

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