落ちぶれ聖女、騎士公爵様の素顔を知る

第20話 尋ねられる聖女

 朝起きる時、まだ眠い目をこすると何か指に違和感を感じる。なんだろう、と思い自分の左指を見ると、そこには小さなダイヤモンドの指輪が輝いている。そんな時、私は自分が結婚し、今はクロイツェル家に保護されていることを思い出す。毎朝、そんな気持ちを繰り返している。


 朝、エドワード様はもう出勤されて屋敷にいない。どうして私に何も教えてくれないのですか、なんてミアさんに尋ねると「朝はゆっくりしていただきたいから」というエドワード様なりの配慮だと言われてしまう。その度に私はエドワード様の優しさに、間接的に触れる。


 特に何もすることがなく1日が過ぎていく。穏やかで平穏で何もない1日。聖女であることも忘れそうなほどに。唯一の楽しみはたまに夜、エドワードの部屋に呼ばれることだ。エドワード様と言葉を交わすのは楽しい。そう思うのはおそらく、最近の私はエドワード様に興味を持っているからだと思う。例えばその端正な顔が歪んだ時、何をお考えなのだろうと思う。例えば少し目配せしながら私の話を尋ねてくれる時。私の言葉を聞いて、何を思ってくれているのだろうと思う。ふと空を見上げた時に、エドワード様のことを思い返すようにこの方も、私を思い出してくれる時があるだろうか、なんて考えてしまう。



「奥様、今日はエドワード様がいつもより早くおかえりになるそうです」


 午後3時のお茶の時間にお茶を楽しんでいると、そんなことを言われた。私は少し驚いて、ティーカップから手を離した。


「……お仕事が落ち着いてきているのでしょうか?」


 私がそう言うと、若い使用人の方は途端に満面の笑みを浮かべた。


「きっと奥様との時間を大切にされたいのですよ!」


 その言葉に私は軽い笑みを浮かべた。そんな穏やかな時間が流れていた時、珍しくミアさんが焦った顔をしてこちらにやって来た。


「奥様、少しよろしいでしょうか?」


「……はい、なんでしょう?」


「国家騎士団団長補佐官のエジャートン侯爵様がお見えになっておりまして、奥様に会わせてほしいと。……どういたしますか?」 


 エジャートン侯爵様はこの前街に出た時、会ったばかりだ。そのエジャートン侯爵様がこの屋敷に尋ねてくるなんて、もしかしてエドワード様関係のことだろうか。


「わかりました、エジャートン侯爵様を屋敷の中に通して下さい。ミアさん、変装のお手伝いをお願いします」



 


 簡易的ではあるがミアさんに手伝ってもらって変装をし、エジャートン侯爵様の待つ部屋へと向かった。部屋に入ると、そこには硬い表情をしたエジャートン侯爵様が私を待ち構えていた。私を見てエジャートン侯爵様がはっとして立ち上がる。


「急に押し掛けてしまって申し訳ない。シャーロット嬢、いや、もうクロイツェル公爵夫人ですか」


 その挨拶に、私も丁寧な挨拶で答える。


「いえ、こちらこそまだご挨拶も出来ていなくて申し訳ないです。エジャートン侯爵様」


 お互いにお辞儀をして、ソファーに腰かける。エジャートン侯爵様は以前お会いした時よりも、ずっと緊張されているような気がした。お互い何も話さない時間が続いたので、私から先に声をかけた。


「あの、エジャートン侯爵様。今日はどういったご用件で……?」


 私がそう声をかけると、エジャートン侯爵様は咳払いをしてから口を開いた。


「いや、実は最近気になることがありまして。シャーロ、っではなく、クロイツェル公爵夫人なら何か存じ上げているかと思いまして、無礼を承知で尋ねてきました」


「……そうなのですか、すみません。わたくし、あまり社交会には参加しないものですからお力になれるかはわかりません。それでその、気になることとは……?」


 私がそう促すと、エジャートン侯爵様はその重い口を開いた。

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