第17話 疑われる聖女

「お言葉ですがお母様、結婚に年齢が関係ありますか?年齢はただの数字でしかないと、そう教えてくださったのはお母様ではありませんか。私が今騎士団で団長として責任を持ち働いているように、彼女との結婚にも私は責任を持つつもりです」


 エドワード様は強い口調でスカーレット様にそう語った。スカーレット様はまたため息をついて、紅茶を口にする。そうしてティーカップから口を離し、言葉を発した。


「確かに年齢はただの数字だとは教えました。貴方はその若さで、国家騎士団団長としての責務もしっかりと担っている。ですが、それはあくまでの話。所帯を持つのはまた別の話。貴方が所帯を持つにはまだ早すぎます!」


 そう言ってスカーレット様は音をたてティーカップを置いた。スカーレット様は今度はローマン様に顔を向け、


「貴方もエドワードを説得してください!」


 と、告げた。ローマン様はその言葉に感化されたのか、ようやく固い口を開いた。


「……エド、彼女と結婚して仕事には影響はないのか?」


「もちろんです、お父様。仕事は変わらずにこなしますし、彼女のことも大切にします」


「彼女には騎士団についての説明してあるのか?」


「はい、最悪の場合も想定していて彼女も覚悟の上です」


「……そうか、ならばいい。好きにしろ」


 ローマン様はそう言って意外なほどあっさりと理解してくれた。スカーレット様が「貴方!」と声を荒げる、がローマン様は気にも留めない様子で私の方に向き直った。


「シャーロットさん、エドは賢いが私に似て不器用なところもある。だが、どこに出ても恥ずかしくないようにしっかり教育はした。どうか、エドをよろしく頼む」


 その言葉に、私は頷いて答えた。


「私もまだまだ未熟ですが、私なりにエドワード様を支えながら、このクロイツェル家をしっかりと継ぎたいと思っております。こちらこそ、どうかよろしくお願いいたします」


 私がそう言うと、ローマン様は初めてふっ、と笑ってスカーレット様の方を見た。


「だそうだ、スカーレット。彼女は立派な方だ。エドのこともしっかりと支えてくれるだろう。エドが悩んで考えて決め、そうして結婚したいと言うのだから、素直に祝福してやろう」


 スカーレット様はその言葉を聞いて、ため息をついたものの「……わかりました」と言って、私の方を向いた。


「シャーロットさん、どうかエドワードをよろしくお願いします。この子は昔から剣のことにしか興味のない子です。どうか、足りないところを支えてあげてください」


 私はこくりと頷いて、その言葉に答えた。



 

「では、お父様、お母様、また」


 無事に結婚挨拶を終え、エドワード様と部屋を後にしようとした、その時だった。


「シャーロットさん」


 私はローマン様に声をかけられた。なんだろうと思いながら返事をする。


「はい、何でしょうか?」


「貴方の目の色は生まれつきのものですか?」


 私は思わず冷や汗を流してしまった。この国で目が赤いのは私だけ。もしここでバレてしまっては、エドワード様の今までの努力が泡になってしまう。私はとっさにエドワード様の言葉を思い出し、嘘をついた。


「......私の母が隣国の血が入っているもので。本当は茶色なのですが、もしかしたら光で赤く見えるのかも知れません」


 なんとかそんなことを言って誤魔化すと、ローマン様は少しの間の後に


「そうか、それは失礼した。貴方の声がよく聖女様に似ていたものだから、まさかと思ったのだが、私の思い過ごしだったようだ」


 と言って笑った。私は


「聖女様に間違われるなんて光栄ですわ」


 と、言い残してその場を去った。




 屋敷から出て馬車に戻ると、エドワード様が安堵からか息を吐いて


「ばれてしまったのかと思いました」


 と、笑って言った。私もそれに、


「なんとか誤魔化せてよかったです」


 と返した。そんなことを言っている間にも馬車は発車し、遠くなるエドワード様のご実家を見送った。

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