第16話 結婚挨拶する聖女

 エドワード様が休暇を取って3日目。結婚挨拶の日。私は緊張した面持ちで準備をしていた。使用人の方に髪の被り物をセッティングしてもらい、ドレスは落ち着きつつ華やかさもあるものを選んだ。そうして準備を終え、私はエドワード様の元へ向かった。


「おはようございます、エドワード様!」


 私がそう声をかけると、馬車の前で待っていたエドワード様がこちらを振り向いた。エドワード様は私を見ると、優しく微笑んだ。


「無事に準備が済んだようでよかった。では、早速向かいましょう」


 エドワード様の言葉に頷いて、私達は馬車に乗り込んだ。長い道中を馬車はしばらく走り続け、ようやく都心に入ると数十分もしないうちに、馬ある大きな屋敷の前に着いた。馬車から降り、その屋敷を見上げる。屋敷はエドワード様が住んでいらっしゃる屋敷よりも大きく、立派なものだった。私が圧倒されている間にも、エドワード様は先へ進むので急いで後を追った。



 大きな客間に、私とエドワード様は隣同士で座っていた。正面には、エドワード様のご両親が座られている。私は息を飲んで緊張を押さえた。正面で優雅に座るスカーレット様は、息を飲むほど美しいお方だった。端正な顔立ちのエドワード様のお母様だと納得できる美しさ。そんなことを考えていた静かな沈黙の中、エドワード様のお母様・スカーレット様が口を開いた。


「エドが結婚相手を紹介したい、なんて言うものだから、驚いて数日は眠れなかったわ」


 穏やかな口調でそう語り、紅茶に口をつける。少しの間の後、エドワード様が口を開いた。


「突然驚かせてすみません、お母様。お父様とお母様には一番に知らせなければと思ったものですから」


 穏やかな口調でエドワード様がそう言うと、スカーレット様は「あら、嬉しいわ」と言ってまた紅茶をすすった。エドワード様は続けて話す。


「お父様、お母様、改めてご紹介します。私の結婚相手、シャーロットです。ほら、挨拶を」


 エドワード様にそう言われて、私は緊張を隠しながらゆっくりと口を開いた。


「お初にお目にかかります、シャーロット・バートンと申します。今日は結婚を認めていただきたく参りました」


 私がそう言うと、エドワード様のお父様・ローマン様が私に目線を送った。その視線に、思わず震えてしまいそうになった。その間を埋めるようにスカーレット様が口を開く。


「でも、急に結婚だなんて。そもそも交際して何年になるの?」


「1年ほどです」


 エドワード様のその言葉に、スカーレット様は驚いたようにして顔を上げた。


「……まぁ、エド。全く貴方ったら仕事以外に興味がないからそんなことも知らないのね。普通、3年以上付き合って初めて婚約をするものなのよ。それを1年で結婚だなんて……」


 スカーレット様は論外だ、と言いたげにエドワード様に目線を送った。しかし、エドワード様も負けじと言葉を返す。


「それは古い習慣ですよ、お母様。今は1年でも結婚する人は大勢います。私の部下も、それぐらいの期間で結婚し今は幸せに暮らしています」


 エドワード様は淡々とそう話す。その話が本当なのかどうかは、私にはわからないが、今はエドワード様に合わせることが先決だと思い、同意の意味で頷いた。しかし、スカーレット様はため息をついてエドワード様に向き合った。


「……エド、そもそもだけれど貴方はまだ12歳なのよ。この国の法でも今はまだ結婚できないのはおわかりでしょう?」


 スカーレット様は困ったような顔でエドワード様にそう告げる。スカーレット様の言うことは真っ当だ。この国の法では、男女ともに16歳からが成人で結婚が認められている。そのため現在12歳のエドワード様では結婚が出来ないのは、わかりきっていることだった。私はエドワード様がなんと答えるのか、固唾を飲んで見守った。

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