第15話 変装する聖女
作戦会議を終えた次の日、つまりエドワード様の休暇2日目。私は午前中から髪の被り物のセッティングをしていた。金髪の被り物は、とても質がよく艶やかだった。腰まであるロングへアに、緩く描かれたウェーブがお嬢様らしさを強調している。使用人の方に手伝ってもらい、私はその被り物をつけた。意外にもその被り物は私にフィットした。それに昨日買った中でも一番派手目なドレスを選んで、エドワード様の元へ向かった。
私が2階の階段を下りると、その階段の下に騎士団の制服を着たエドワード様が待っていた。私は緊張する気持ちを押さえて、階段をゆっくりと降りた。
「エドワード様、お待たせしました」
私がそう声をかけると、エドワード様がこちらを振り向いた。私はドレスの裾をあげて、挨拶をした。
「......いかがでしょうか?」
そう言うと、エドワード様は私の全身をしっかりと見てから
「とてもよく似合っています。今は完璧にシャーロットですね」
と、言ってくださった。私は返事をして、差し出されたエドワード様の手を取った。
今日はこの変装がばれないか、宮廷周囲の都心を回ることにしていた。都心に着き、エドワード様に案内され私は馬車を降りた。都心はとてもにぎわっていて、人が多い。エドワード様が腕を差し出されたので、私はその腕に手を添えた。そうしてしばらくエドワード様と都心を歩くが、聖女だとばれない。それどころか人に見向きもされない。今まで通りかかる人には皆「聖女様だ」と言われてきたので少し違和感があった。そうしてしばらく歩いていると、ふとエドワード様を呼ぶ声がした。
「エドワード、こんなところで何しているんだ?今日は休みじゃないのか」
「……オリヴァー。そうか、今日は確か視察の日だったな」
綺麗な長髪を横に1本にまとめ、眼鏡をかけた男性がそう話しかける。彼は騎士団の団長補佐官・オリヴァー・エジャートン侯爵様だ。確か昔からのエドワード様のご知り合いで、騎士団の中で仲が良いお二人なのだ。私もお二人が一緒にお仕事をされているところを何度か見たことがある。
エジャートン侯爵様は私に目をやると、固まったようにして私を見つめた。
「おい、エドワード。君には休日に一緒に外出するような、お嬢様のお知り合いがいたのか?」
エドワード様は朗らかな笑みを浮かべながら、その言葉に答えた。
「すまない、近いうちに紹介しようと思っていたんだ。紹介する、今度結婚するシャーロットだ」
すると、後ろから「エジャートン補佐官」と呼ぶ声がした。エジャートン侯爵様はしばし焦った後、
「すまない、シャーロット嬢。今は仕事中ですので、いづれまた挨拶します。エドワード、休暇が明けたら必ず説明しろ!」
そう言ってエジャートン侯爵様はお仕事に戻っていった。その姿を二人で眺めながら、エドワード様がぽつり、と呟いた。
「オリヴァーは貴方と面識があるのに気が付かなかった、ということは、ばれなかった、ということだな」
エドワード様のその言葉に、私は「はい」と答えた。
屋敷に戻ると、明日に備えて今日はゆっくり休んでください、と告げられたので、そうさせてもらった。私は買ってもらったばかりの休み用の服を着て、自室のバルコニーから夜空を眺める。
(明日は遂にエドワード様のご両親に挨拶に行くのね......)
まだエドワード様に保護されているという実感もないのに、話はトントン拍子に進み、結婚挨拶まですることになっている。現実味のない展開に、私がベルローク街に追放されてから、もう1週間程。もしかしたらルソー伯爵様が私を探しているかもしれない。もしエドワード様があそこで来てくれなかったら、私は今ごろルソー伯爵様に虐げられていたかもしれない。
「エドワード様は、私の命の恩人ね」
私はそう呟き、ベットに戻った。
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