第14話 作戦会議をする聖女

 馬車は日が暮れる前にはエドワード様の屋敷についた。出迎えてくれた使用人の方が買った荷物を運んでくれている間に、私はエドワード様に着替えしてから部屋に来てくれ、と頼まれたので、使用人さんに連れられて一旦自室に向かった。


 

 今日買ったばかりの服のなかでも、一番エドワード様がいいと言ってくれたドレスを使用人さんが着せてくれた。使用人さんはなにかを勘違いしたのか、髪の毛や装飾までもこだわって着飾ってくれて、私は今から出掛けられるぐらいの格好になってしまった。こんなに着飾るのは少し慣れないな、と思いながら、私はもう何回も通って覚えたエドワード様の部屋に向かった。



 エドワード様の部屋に向かい、いつもの通りノックをしてから部屋に入る。


「エドワード様、お待たせしました」


 私がそう声をかけると、書類から顔を上げて私を見たエドワード様の動きが固まった。


「エ、エドワード様......?すみません、一番気に入っていただけていたドレスを来てきたつもりだったのですが......」


 私がそう言うと、エドワード様は書類を机に置いてわざとらしく咳払いをした。


「あ、いや、すまない。そうじゃないんだ。あまりにも貴方によく似合っていたので。....失礼。さて、本題に入りましょう。どうぞ座ってください」


 私はエドワード様の言葉に少し驚きつつ、いつものソファーに腰を下ろした。エドワード様は机の上の書類を適当に片付けて、姿勢を直した。


「さて、結婚挨拶についていくつか確認しなければならないことがあるので、それを一緒に確認しましょう」


 私はその言葉にこくり、と頷いた。


 エドワード様は机の上の書類から適当な紙を取って、なにかを書き始めた。


「まず、貴方が聖女、フィリア・カーターであることは隠そうと思います。特に私の母が社交界でも権力を持つ人間なので、余計なことを知られると都合が悪い。どうかご了承ください」


「いえ、私もその方がよいと思いますから。ですが、そこら辺をどういう風にごまかされるのですか?」


「貴方の身はしがない伯爵家の一人娘、ということにします。髪の毛は隠すとして、目の色は本当は茶色なのだけれど見え方で赤色に見える、とでも言っておけばいいでしょう。それでもごまかせなかったら、私がフォローを入れます」


 私はその提案に、こくこく、と頭を動かした。


「次に偽名ですが、なにか希望はありますか?貴方のフィリア・カーターという名前はあまりにもこの国では知られすぎている。できれば別の名前がいいのですが......」


 エドワード様にそう言われ、私は少し考えた。そうしてとあることを思い付いた。


「あの、大変おこがましいお願いなのですが、もしよろしければエドワード様が決めていただけませんか?エドワード様の妻になるのですからエドワード様がお好きな名前でありたいのです」


 わたしがそう言うと、エドワード様はしばらくの間悩んでみせた。そうしてぽつり、と言葉を漏らした。


「では、その、私の個人的な趣向なのですが、シャーロット、というのはいかがでしょうか?」


 私は目を丸くしてしまった。まさかエドワード様から、そんな可愛らしい名前が提案されているとは思っていなかったからだ。エドワード様は心なしか恥ずかしそうな顔をしている。私はふふっ、と笑って答えた。


「ふふ、とてもいいと思います。シャーロット、とても素敵な名前だと思いますわ」


 私がそう言うと、エドワード様は少し恥ずかしそうな表情をしながらも「それはよかった。では、この名前で」と決定事項を紙に書いていた。


 私達はそのあとも結婚挨拶に必要な打ち合わせを幾つかして、話し合いを終えた。

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