第12話 ショッピングする聖女
次の日の朝、私は緊張しながら食事の席に着いていた。目の前にはエドワード様が優雅に座っている。食事が運ばれ、エドワード様が食事を口にしたところで私も手を付けた。今日のエドワード様はシンプルなお洋服を着ているのだが、その恰好がいつもよりエドワード様を幼く見せているのだ。身長はまあまああるけれど、騎士団の制服のように飾り物がない分、その幼さがはっきりと見えてしまって、私は少し困惑していた。
「……フィリア様」
「は、はい……!」
「今日はフィリア様の洋服や持ち物を買いに行きます。金銭面は心配しないでください。何でもお好きなものを自由にお買いください」
「…………え?」
「ですが今のままでは貴方が聖女だとばれてしまうので、少し変装をしていただきます」
「あ、いえ、そうでじゃなくて……!」
私は手を止めて、エドワード様の顔をまじまじと見てしまった。
「……ん?」
「あ、あの、なんでも好きなものを買ってもいいだなんて、どうしてそんなことを……?」
「フィリア様が着られる服なのだから、貴方が好きなものを選べば…………」
そこでエドワード様は、はっとした顔をして手を止め、私に向き直った。
「……フィリア様、貴方はもう聖女という立場ではない。もう、どんな好きなものを着ていいんです。もう、聖女という枷に縛られないでください」
その言葉に私は気が付いたらほろほろと涙を流していた。自分の涙にさえ困惑している私に、エドワード様は困ったように笑って、幼くも綺麗な指で私の涙を拭った。
「聖女は、涙さえも美しいのですね」
そう言ったエドワード様の顔は、私が今まで見てきた表情とは違う、すごく優しい顔をしていた。
私は白銀の髪をミアさんにまとめて貰って、フードが付いた服を着て、聖女だとわかる髪や目を見えないようにした。そうして色が付いているドレスを着て、私とエドワード様は宮廷がある街へと向かった。
街の中のドレスの老舗店を選んで入り、店員さんに私に似合うドレスを見繕ってもらった。今までは<聖女の服は白いものだけ>という決まりがあったので、色のついたドレスは初めて着る経験だった。でも自分に似合っているのか分からず不安だった。決めかねてエドワード様に聞いてみると即決して「似合っている」と言ってくださったので、それにした。でもエドワード様は「もっと必要だ」と言って、結局数十着買ってしまった。その後も靴や持ち物など、エドワード様と一緒に選んで買った。
そうして最後に変装御用達だというお店に寄った。髪色を変えるための髪の被り物を選ぶ為だ。店員のおじいさまにすぐに聖女だとばれたけれど、ここは変装御用達のお店。どんな人が来ても決して話さない口外しない口の堅さは確かだという。おじいさまが私に尋ねる。
「お嬢様、一体どんな被り物がいいですか?」
「私は……エ、エドワード様はどう思われますか?」
困ってしまってエドワード様に尋ねると、
「金髪にしていただけると、色々助かります」
と、おっしゃったので私は迷わず金髪の髪のものを選んだ。
そうして買い物を終わらせ先に馬車に戻っていると、街が騒がしいことに気が付いた。窓から外を覗いてみると、街の真ん中に人だかりが出来ていた。私はそれを見て目を見張った。そこにはローズ様がいたからだ。どうやらローズ様が街の人に何かをしているところらしかった。そこへ帰って来たエドワード様が、馬車の中に乗り込んできた。
「フィリア様、何か見つけましたか?」
「……エドワード様。あそこにローズ様が……」
「ローズ様?」
エドワード様も窓を覗き込み、ローズ様の姿を見た。すると、その瞬間だった。
「……っ!?」
ローズ様と確かに、ばっちりと目が合ってしまった。
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