落ちぶれ聖女、騎士侯爵様に嫁ぐ

第11話 結婚準備をする聖女

「初めまして、わたくしはここの屋敷の使用人長・ミアと申します。エドワード様からご結婚のお話は聞いております。擬似的な結婚だとしてもこの家に嫁ぐのですから、最低限のことをわたくしがお教えします」


 私は屋敷のとある一室で、使用人長のミアさんの話を聞いていた。ミアさんがクロイツェル家に嫁ぐための知識を教えてくれるという。まぁ、確かになにも知らないまま嫁ぐ訳にもいかないので、私はおとなしくしっかりと学ぶことにした。


 クロイツェル公爵家。この国でも上の地位にいる公爵家のひとつ。生まれてきた子供は必ず国家騎士団に入り、大きな功績を残している。エドワード様のお父様である、ローマン・クロイツェル様はかつて国家騎士団で30年間団長を勤め、国を守り騎士団を導いてきた偉大な方である。エドワード様のお母様、スカーレット様は社交界で美しいことで有名だった伯爵家の娘で、惹かれるようにして二人は結婚し、3人の子宝に恵まれた。しかも生まれた子供は男3兄弟。エドワード様はその末っ子だという。


 生まれつき剣の扱いに優れていた3兄弟のなかでも、もっとも剣の扱いが上手かったのがエドワード様。その才能をお父様に買われ、僅か8歳で騎士団に入団入りしそのまま昇進、そうして昨年、12歳にして若き国家騎士団団長に就任した。


「ここまでご理解いただけましたか、フィリア様」


「……はい」


 正直、私が結婚するにはあまりにも高貴すぎる家柄だ。以前からエドワード様とは何回か面識があったけれど、こんな状況になって、今はこんなにもお近くにいることがとても不思議だ。ミアさんは私の不安げな顔を見て察したのか、場を切るようにこほん、と一つ咳をした。


「……どんな事情があれ、エドワード様が貴方を結婚相手に選ばれたのは事実です。今はそれを誇りにして、妻として胸を張りなさい」


 私はその言葉に小さく「はい」と返事をした。ミアさんはため息をついて、そんな私を不満げに見ていた。






 その夜、私はエドワード様に呼び出された。


 使用人の方に案内され、エドワード様の部屋まで行く。扉をノックするとすぐに返事が返ってきた。部屋に入ると、小さな明かりがついただけの部屋で、エドワード様がソファーに座り、私を待っていた。


「フィリア様、今日はごゆっくり過ごせましたか?」


 エドワード様に勧められ、ソファーに腰かけながら私は答える。


「はい、とても。使用人の方にもよくしていただきました」


「そうですか、それは良かった」


 そう言ってエドワード様は、私に向き直った。私も姿勢を正し、エドワード様の方を見る。エドワード様は少し深呼吸をした後に口を開いた。


「明日から私は3日程休暇を取ります。その間に貴方に必要なものを買いに行くのと、3日目に私の両親に結婚挨拶をしに行きましょう」


 突然告げられたことに、私は目を丸くしてしまった。買い物まではまだ理解できるが、結婚挨拶……?


「あの、結婚挨拶ってあの結婚挨拶ですよね……?」


 困惑している私の言葉に今度はエドワード様が目を丸くされた。


「私はそのつもりだったのですが……。ご気分が乗りませんか?」


 エドワード様にそう気遣われ、私はすぐに首を振った。


「いえいえ、そう言う訳ではないのですが!もうご連絡はされたのですか?」


「今日実家宛てに手紙を出しました。今夜には届いていると思います」


 私はその言葉に、今度はすぐにこくりと頷いて、


「わかりました。準備をしておきます」


 と、返事をした。するとエドワード様は


「結婚挨拶と言っては緊張されるかもしれませんが、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。万が一でも貴方を責め立てることなとはないと思いますから」


 エドワード様のその言葉に頷きながら、私はぼんやりとエドワード様のご両親のことについて考えを巡らせていた。

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