第10話 朝を迎える聖女
「結婚の手続きはこちらで進めておくので、この屋敷からでなければ自由にされていてください」
昨日の夜そんなことを告げられてから、夜が明けて朝。私はせっかく暖かいベットで眠れているというのに全然眠ることが出来ず、ずっと夜が明けていくのを見ていた。ここは宮廷から離れた静かな土地に建っていて、かすかに小鳥の声が聞こえていた。しかし今日から私は何をすればいいんだろう、と思った時、後ろのドアがこんこん、とノックされた。
「失礼します!フィリア様、お目覚めでしょうか?」
「はい、どうぞ」
そう返事すると若い使用人の方が入って来た。
「おはようございます!昨夜はよく眠れましたでしょうか?」
「はい、お陰様でいい眠りにつけました」
「それは良かった!お顔を洗うお水や朝食をお持ちしました。どうぞお使いください!」
私はその言葉に頷いて身支度を整えた。その間に使用人の方が朝食の準備をしてくれていたので、私はすぐに朝食を頂くことが出来た。朝食は質素だが栄養価の高いものばかりで、私が聖女の仕事をしていた時の朝ごはんよりずっと美味しく感じた。
そうして朝ごはんを終わらせると、使用人の方が着替えを持ってやって来た。
「フィリア様、申し訳ありません~!この屋敷には女性もののドレスなどがほとんどありませんので、これで御容赦くださいませ!」
「いえいえ、お気になさらないでください」
私がそう言うと使用人の方は「よかったです!」と言いながら、私に丁寧にドレスを着せてくれた。ドレスは黄緑の柔らかな色をしたもので、素朴なデザインが落ち着いている良いものだった。私は今まで白のドレスしか着ることを許されてなかったので、なんだか気恥ずかしいような、新鮮なような気持ちになった。
「では準備も整いましたし、エドワード様をお見送りいたしましょう!」
使用人の方の言葉に、私の頭にはてなが浮かんだ。
使用人の方に案内され屋敷の正面玄関に向かうと、そこにはすでに騎士団の制服を着て立っているエドワード様がいた。私は少し足を速めて、エドワード様の前に向かった。
「エドワード様、おはようございます」
「おはようございます、フィリア様。昨日は少しでも眠れましたか?」
「はい、お陰様でとてもよく。昨夜はお風呂から食事から全てご用意していただいて、改めて感謝いたします。以前騎士団の朝はお早いとお聞きしましたが、もう行かれるのですね」
「ああ、まだちゃんとした話もできていないのに申し訳ない。立場上仕事に穴をあけるとややこしもので、どうか許していただきたい。この埋め合わせは必ずいたしますので、また今夜お会いいたしましょう」
「はい、私はいつでもお待ちしておりますのでどうかお気になさらず」
「エドワード様、そろそろお時間が……」
騎士団の秘書官のような方に声を掛けられ、エドワード様は簡単に「ああ」と返事をした。
「フィリア様」
その小さな背が見上げた帽子から見上げる目に、私はまた貫かれた。
「……はい、なんでしょうか?」
「まだ正式ではないとはいえ貴方はもう私の妻です。そう言う心構えはしておいてくれると私も貴方に接しやすい。まだ手探りの状態ではあるが、私達は結婚する身であり、貴方はもう私の妻であることはわかってください。それでは」
とても12歳の子供が言うとは思えないしっかりとした言葉をエドワード様は口にして、出発していった。私は使用人の方とその背中を見送りながら、頭の中で自分がエドワード様の妻になってしまった、そう言う約束をしてしまった重さに気が付いて少しはっ、としてしまった。
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