第6話 拾われる聖女

 その次の日も私は街の人を癒し続けた。街の人も手を貸してくれるようになり、街は私が来たよりずっと元気になった。そうして街を復興している内に私がこの街に来てから5日が経とうとしていた。寝床もご飯もないけれど、人を癒し続けることが心の頼りになっていた。


 そんなとある日、ベルローク街に何頭もの馬を連れて誰かがやって来た。服装を見ると騎士団の方たちだとわかった。私は街の1人の女性に尋ねた。


「あの、どうしてこの街に騎士団の方が?」


 すると、女性は少し顔を曇らせて言った。


「ああ、あれは毎度の視察よ。年に1回この街に視察に来るのよ。でもどうしてかしらね、こんな時期には視察になんて来ないのにね……」


 そうなのですか……と言葉を漏らし、騎士団の方を見ていると、騎士団の1人が馬から降りて、直線ちょくせんに私の方に歩いてきた。


「偽りの聖女フィリア、お前がこの街をこんな風にしたのか!」


「……イリック隊長様?!」


 馬から降りてきたのは騎士団の団員の第1部隊隊長、イリック隊長様だった。聖女の立場上、騎士団の方とも関わることがあったので面識があった。私が話す前に、イリック隊長様は私の胸ぐらを掴んだ。


「ここがどういう場所かわかっているのか、貴様は!ここは罪人が行きつく場所だぞ!くそっ、ろくでもない聖女の力など使いやがって!どうしてくれるつもりだ!」


 ものすごい剣幕で怒るイリック隊長様に、私は思わず言い返した。


「ここの人たちは罪を犯せど決して悪い人達ではありません!それに人間がこんな扱いをされていい訳がありません!私の力は弱いですが、困っている人の為に使って何が悪いのですか?!」


「貴様!落ちぶれた身で侯爵の俺に口答えするか!」


 イリック隊長様が手を大きく振り上げた。


ぶたれる、そう思い身構えた時だった。



「みっともないマネはよせ、イリック隊長」


 凛とした声が、その場に響いた。イリック隊長様の手が止まり、あたりが静まり返る。目を見開いてイリック隊長様の後ろを見ると、後ろから数人の人影が現れた。その真ん中にいる人物、1本にまとめ上げた金髪の髪が綺麗に揺らめいている。


「貴方の方こそ聖女様に手を上げるとは、何様だ?」


 その声と共に現れたのは、若干12歳にして異例の国家騎士団の団長まで登りあがったエドワード・クロイツェル公爵様だった。後ろには数人の部下を連れている。イリック隊長様はちっ、と舌打ちをして私から手を離した。私がその場に座り込むと、クロイツェル団長様が駆け寄ってきて私の様子を伺った。


「大丈夫ですか?」


 まだ幼く声変わりもしていないがはきはきとした声が私の耳を触った。


「どうしてあなた様がここへ……?」


 クロイツェル団長様に手を差し伸べられ、私は手を借りて立ち上がった。クロイツェル団長様は暖かな上着を私に丁寧にかけてくれた。


「最近このベルローク街が栄えだした、という噂を聞いたのです。ルソー伯爵が貴方をこの街に追放した、という話も。そこで貴方の所在を思いつきました。とりあえず私の屋敷で保護するのでご同行願っても?」


「……クロイツェル団長様がですか?」


「今、貴方を安全に匿える場所がありません。どうか私の屋敷で御容赦していただきたい」


 そうして背中を押されるまま、クロイツェル団長様は私を馬車に乗せようとしてくれた。しかし馬車に乗せられる前に、私はクロイツェル団長様の方を振り向いた。


「クロイツェル団長様、お願いします。ベルローク街の方々に温かいスープを配給してください」


「しかし、彼らは罪人です。そのようなことは……」


「罪人でも人です!食べ物を食べてはいけないことなどありません!」


 するとクロイツェル団長様は少し考えた後に言った。


「わかりました。とりあえず馬車に乗っていただけますか?」


 その言葉にこくり、と頷いて馬車に乗り込んだ。

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