第4話 動き始める聖女
しばらく歩いていると、倒れている人の中に初めて意識がありそうな人を見つけた。私はまずここがどういう場所なのかを尋ねようかと思い、声をかけた。
「具合が悪そうなところすみません、今、よろしいですか……?」
屈んでその人を見てみると、その人はまだ若そうな青年だった。青年は私に声をかけられて意識が戻ったのか、朦朧とした顔を上げて顔を上げた。
「大丈夫ですか……?」
私がそう声をかけると、青年の目はぱっ、と見開かれた。
「せ、聖女、様……?どうして聖女様がここに……」
「……こんにちは、すみません。ここについて尋ねたいのですが……」
私がそう言うと、青年は体を起こして私に向き合ってくれた。
「……ここはベルローク街という場所です。罪人、その中でもさらに悪いことをした人が連れてこられる街です」
「……では貴方も?」
「僕は兄弟の食べ物がなく盗みをしてしまったんです。しかし刑務所で冤罪を被せられ、ここに連れてこられました。もう1年も前の話です」
「そんな理不尽な……」
「……連れてこられたら全ての終わりです。ここにあるのは少しの湧き水と週に1度食べられるかどうかわからない残飯だけです」
「そんな、酷い……」
青年の話を聞いて思わず俯くと、私はとあることに気が付いてしまった。
「……あ、足、怪我をされているのですか?」
すると青年は「ああ……」と声を漏らした。
「ろくな食べ物もないので体も弱ってしまって。ここの人はみんなそうです。食べ物も食べれず、病気にかかり怪我をして死んでいくのです」
私は暗い青年の顔に何とかしてあげたくて、青年の怪我をしている足に手をかざした。そうしてその部分をさすった。
「聖女様……?」
その瞬間に、私の手の下に魔法陣が浮かび青年の怪我をじわじわと治していく。青年はそれをありえない、と言った顔で見ていた。しばらくして青年の足は綺麗に治っていた。
「……良かった。なんとか治せました!」
私がそう言うと青年は急に起き上がった。
「貴方は本当に聖女様なのですか……!?」
私は笑って青年に告げた。
「これは私に親切に教えてくれたお礼です、どうか受け取ってくださいませ」
そうして私は青年の前から立ちあがった。
「聖女様、一体どこに行かれるのですか……!?」
「ここではあなたのように怪我や病気に侵され死を待つ方が多いことがよくわかりました。しかしこの状況を私は許すことが出来ません。この街の人を治します。……貴方も、手伝っていただけますか?」
そう言って差し伸べた手を、青年はすぐに掴んでくれた。
そうして私は街の中を歩き出した。病人や怪我人を探して。
つい昨日宮廷を追放されて来た、罪人が流されるベルローク街という終焉の街。でも、今こうして怪我や病気をして苦しんでいる人がいるなら、私は見過ごせない。ここで私が出来る務めを果たそうと思ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます