第37話墓参り


 やっと怪我が完治した俺は治ったらいこうとしていた場所に向かう。一緒に連れて行くのは昌信だけにする。その理由はこの中で一番彼等と関わりがあるからだ。何故かあちこち生傷があるのだが、その理由を聞いたところ。


 「フッフフフ、知りたいですか?これは私の事が分からなかったとか、唯話を合わせてワシのことを馬鹿にしていた奴らと少しケンカというものをしただけですよ」

 

にこやかに笑っていたのだが、だいぶ怒っているようであったのでこれ以上は聞かないことにした。そういえば信龍も信盛も生傷があったような気がしたが多分別の事だろうと思うから深くは聞かないことにした。


 帝国にある小高い丘にその墓はある、叔父上に頼み込んで特別に作ってもらった。

本来なら魔王軍の人間の墓を作るのは帝国ではもってのほかであるらしく叔父上と信盛の二人が強引に通した結果が丘の上に作ることで決まったとのことらしい。


 「全く、あの後まさか義信様を倒してあるとは知りませんでしたよ。私も不覚を取らなければもう少しやりあえていたのかもしれませんのに」


 俯きながら昌信は力無く呟く、かなり彼なりに落ち込んでいるのだが。


 「まぁ、既にあの時兄上は人では無くなってしまっていたからな、あれに負けても仕方ないたら思うのだがな」


 「そうですか、そう思ってもらえるならいいのですが。レベルもかなり上がりましたしこれであの昌景の嬢さんと肩を並べられますな!」


 口調は年寄りみたいなのに若い見た目で笑顔を向けられるとなんだがおかしく思えてしまって笑いそうになる。


 「なんですか?、ワシの顔に何かついているのですか?」


 俺が笑いを堪えているのをみて少し不機嫌そうな顔になる昌信


 「いや、なんでも別に何も付いてないさ。唯その若い頃の姿のお前が年寄りの言葉遣いだとなどうしてもおかしく思えてしまうんだよ」


 「そうですか、まぁワシも喜んではいましたとも最初の方はそれに直そうともしましたがやはり長年の癖というものは抜ける事がありませんでしたよ今では直すことさえ諦めてしまいましたよ」


  恥ずかしそうにそうに頬を掻きながらこの精神年齢おっさんの男は言う。最初の頃は直そうと努力はしていたようだったのだが最近自然とワシなどの言葉を多用するようになってしまったていたようだ。


 それに誰も指摘できるような奴はおらず今までこんな感じできてしまったのだ。


 「別にすぐ直して欲しいとは思わないがもしどこかに潜入する時にお前のその姿はかなり役に立つ筈だからその時がくるまでに口調を直す訓練はしておいてくれ」


 「はっ!わかりました。この昌信身命を賭してやっていく覚悟でございます!」


 (「なんでこんなに真面目な奴なんだろ、昔はもう少し慎重だったのにな。やはりこの世界に来てから何かのタガご外れてしまったのかもしれないな」


 昌信の生真面目なところに若干引きながらも俺達は話をしているうちに目的の場所に辿り着いたのであった。


 「ここが御二方が眠られている場所ということになるのですね?お館様」


 昌信の言葉に俺は無言でうなづく。その様子を見てから彼は屈んで両手を合わせていたのだ。


 「また会うことができましたな。義信様、虎昌殿できればあなた方とは戦わず、また酒を飲み交わすことができればと思ったのですが……残念でなりません」


 手を合わせ、二人の墓に語りかける昌信を見て、少しだけ罪悪感に、苛まれてしまう。昌信にとってはかけがえのない仲間達であったのと今この世界に来てしまっている中で一番武田家を知っている人物であるのだから、後悔も少なからずあったのであろう。


 「虎昌殿にはよく助けられましたぞ。ワシがまだ若い時に敵に囲まれているところを赤備えで助けてもらった事を今でも覚えております。ですので今回の件では、恩を仇で返す事になってしまい。申し訳なかった。それに義信様もでしたな、ワシはあまり事の次第を知りませんでした。何せ上杉の睨みとして川中島にずっといましたのでまさか中央ではそのような事態になっているとは知りませんでした」


 話はいつのまにか、元いた世界についてのことになっていた。どうやらそれほどあの事件は武田家にとっては衝撃的な事であったのだろうと次第に実感するようになる。


 「信玄公にその事を聞かされたのは何もかもが終わった後でのことでした。ワシも初めはびっくりしましたがそこまで虎昌殿が悩んでいた事ご分からなかった事を今でも悔いております。さらにあの時義信様の謀反の事を告げたのは昌景殿だったと聞きます。あの後久しぶり彼に会った時はどこか元気が無かった事を覚えております」


 その事は俺も知ってはいたがあいつは俺の前だとだいぶ気丈に振る舞っていたのだろうかそんな素振りはみせなかった。


 「ですがもはやこれは過ぎてしまった事、今回短い間でしたがまたお二人にで会えた事この昌信嬉しく思いました。どうか後は任せてくだい、必ず勝頼様はお守りいたしますので安らかにお眠り下さい」


 言い終わると昌信はもう一度手を合わせお辞儀をしてから墓の前から立ち上がる。


 「では次は勝頼の番ですぞ」

 

   昌信に促されるまま、俺は墓の前に立ち手を合わせそのまま座る。


 墓を前にして言うべきではないのだが俺はあまり二人についてはあまり良くわかっていない、事実兄上である義信とはあまり会うことが無かった。加えて虎昌とは今回戦で見たのが初めてかもしれないほど面識がないのだ。俺が彼のことを知っているのは昌景達にたまに聞かされる事のあった。戦での武功での話で聞く程度のものがほとんどであった。


なので俺は手早く済ませることしかできないのである。


 「御二方には、今回の戦で胸を貸して頂きありがとうございました。私はあなた方とはあまりあったことがありません、なのであまり思い出話はできませんがあなた方のように信頼してもらえるように私もやって行くつもりですのでどうか見ていてください」


 話し合えると、もう一度拝んでから俺は墓から離れて行く。


 「これからは大変なことになるのであろうからな特に君達には信盛と共に国境線を守ってもらおうと思っている」


 「一体どこへ向かわれるおつもりですか?この状況下で何をなさるおつもりですか?」


 少し怒気のこもった問い詰め方をする、昌信だが口ではそう言いながら顔はすごく心配そうに俺の事を見ていた。


 昔はそこまで俺の事なんか心配はしていなかった。あくまで俺は当主代行であり、俺が死んでも特に何も感じない。そんな冷たい奴だと思っていたのだが最近彼の中で変わったのだろうか?俺のことを心配する言動が増えてきたように思える。この世界に来てまだ半年ほどしか経ってないが人が変わるには充分なのだもしれない。


 「いや、少し調べて物がしたくてな。一人でもできることだから別に心配しなくてもいい。ただかなりの時間帰ってこないと思うから他の奴らの事は頼むよ昌信。今一番信用できるのはお前だけなのだからな」


 「ムゥ、そう言われてしまうとワシも何も言えなくなってしまいますな。わかりましたよこの昌信が殿が帰ってくる場所を守って見せますのでどうぞ何も心配なさらず」


 深々と頭を下げる昌信、その行動は昔も今も変わらなかったがやはり雰囲気が変わっているものがあることが俺にはわかってしまう。それは少しの変化ではあるがこうやって見つけていくのもなんだか楽しくなってきた。



 「最後にひとつだから、殿は一体どこに向かわれるおつもりですか?そこだけ知りたいのですが聞いてもよろしいですかな?もしものことがあったら大変ですのでワシだけに教えて下さりませんかな」


 (「まぁ、そうだろうな流石にどこにいくのかは知りたいよな。だが昌信になら言っても大丈夫だ、ここまで一緒いてここまで変わった彼に話すのもいいだろうしな、いやそもそもかわったのは……いやまだその事はいいだろう、また考えることにするか」)


 少し違う事を考えていた思考を振り切り俺は昌信にどこに向かうのかを伝える事にした。


 「帝国の中にある、勇者の遺跡に向かおうと思っているんだ。すでに調べはついているんだがこの遺跡の話をすると帝国の人々はあまり知らないと言う人が多い、まだ何も見つかってはいないらしく何度か調査に派遣されたらしいが成果がなかったらしいとかな、だが何も見つからないのは流石におかしいと思って俺は冒険者の身分を使って行ってみようと思う。まぁあとは冒険をしたいからかな」


 「サラッと本音を言うのはやめてください。まぁわかりましたよ出来るだけバレないように出て行って下さいね、誰にも告げずに行かれるのですから今からどうやったらあの三人に納得してもらえるか考えるワシの身にもなって下さいよ」


 「あぁ、出来るだけ迷惑はかけないようにしてから出ていこうと思うしな?それに俺どこか遠くに行くわけではないからな。帝国内にある遺跡の調査に向かうだけだから誰もそこまで心配する事でもない気がするから大丈夫だよな?」


  「まぁ、大丈夫だと思いますが、もし実力行使で来られた場合はいくらワシでも止める事はできませんので、その時は諦めて下さい」


 「わかった。その時は全員で調査すればいいと思うよ。さてそろそろ帰らないと皆んながうるさいから帰るとするか」


 俺はそこで話に区切りをつけ、我が家に向かうことにした。


 本当はひとつだけ昌信には伝えていないことがあるのだがそれは遺跡の調査が終わってから告げることに決めた。


 (「そう、もしこの帝国が義信の言う通りな腐っているのならば俺は新しく国を建てることにする、幸いここからかなり離れているがまだ誰の支配にもなっていない土地があるそこで新しく始めるのもありだと思う」)


もしも誰もついてこずとも勝頼はやると決めていた本当の自由を手に入れる為に自ら動く事を決めたのだ。


 そこには敗軍の将だったころの傷心な心は癒えた本当の勝頼の姿でありこの戦で成長したのだ。まさに武田にふさわしい当主に近づきつつあるのだから。


 


 

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