第36話予感

 帝国の国境線海津砦を越えた、その先には魔物達が住む楽園が広がっていた。彼等は国境線から越えることなく穏やかに暮らしていたのだが、それが人間の浅はかな侵略により崩れてしまい今では、軍が管理するようになってしまっていた。


 そんな前線からもう少し先にある、人間達が見た事がない城が立っている。そこに彼等の王である魔王が住んでいるのだ。


 「フッ相変わらず変わらない城だな」


 そんな魔王の城にいち早くきたのはベルディアール元魔王であり、魔界三巨頭の筆頭である。


 そんな男が魔王城にいるのは現魔王から招集があったからだ。招集にベルディアールがくるのは実に三百年ぶりぐらいだ。もはや古参の自分は好きにやらせてもらおうと思っていたが今回少し気になることがあるために参加することを決めたのだ。


 「これは、若お久ぶりでございます」


 ベルディアールに話しかけてきたのは黒いリザードマンのようなのだがその体は筋骨隆々で人間に近く、顔はドラゴンのような顔つきをしているのだ。


 彼はベルディアールを見つけると深々とお辞儀をする。


 「やめろ、ガンフォール。お前も私と同じ三巨頭の一人なのだ。そこまでされるとかえって気まずくなるだけだ」


 「はっ、これは失敬。いや久しぶりに若が来られていましたのでびっくりいたしまして失礼のないようにと思いまして」


 「相変わらず、真面目だな。あともう一人あの女はまだなのか?」


 ベルディアールに聞かれたガンフォールは後ろに指を指す。そのさした方向に振り向くとそこには一人の女性がいたのだ。


 悪魔の翼を持ち細剣を腰に携えている女悪魔が一人不機嫌そうにこちらを見ていたのだ。


 「なんだいたのか?ディーネ。いたなら返事をすればよかっただろう」


 「最初からここにいたのに気づかなかったの?なんであなたはいつもそうなのよ。」


 ベルディアールは何に怒っているかわからないこの彼女を放置することにした。


 「これはこれは、三巨頭の皆さんが揃っておいでなのは一体これから何が離されるのですかな?」


 扉を思い切り開け放ち出てきたのは二人の男だった。一人は魔族なのだがもう一人は人間である。


 「毎回お前が七大天王に入っているのかが不思議だと思っていたのだがな、ファリドよ。その耳障りな話し方やめてくれないかしら、殺すよ」


 「お〜、コワ!?、ベルディアールあいつ何に対して怒っているのかわかる?俺は少し心あたりが!?」


 脅されてもめげずに口を動かす、ファリドにとてつもない殺気を込めた魔力を飛ばしてくるディーネに対して彼はベルディアールの後ろに隠れる。


 「お前、毎回懲りないな」


 「いや、俺吸血鬼だから殺されても大丈夫だけどあいつ加減がないからな、やっと元の力にまで戻ったのにまた殺されるのは流石に嫌だぜ」


ファリドとディーネの睨み合いが続く中、今度は厳かな格好をした魔族が共周りを連れて入ってくる。


 それに呼応して周りの三巨頭以外の全魔族が臣下の礼をとる。


 黒い鎧とマントをきた男はゆっくり玉座に座りしばらく何も言わずに当たりを見渡し、ベルディアールに視線を集中させる。


 「これはこれは、ベルディアール殿下がここに来られたのはいつぶりですかな」


 「お前もだいぶ歳をとったな、ザリアよ。今回は何用で俺達を呼んだんだ?まぁ全くこなかった私も悪いが多分義信と飯富虎昌に関してだろう?」


 「うむ、流石に話が早くて助かる、その通り。あの二人が今回戦死してしまったのだ。まさか負けるとは思ってはいなくてな、惜しい二人を無くしてしまった。あれらは人間で異世界から来たものには珍しく我々の話を聞いて協力してくれた。理解者だったのにな」


 「誠に残念でありませんでした、虎昌殿とは同じ武人とよく話をしておりましたので…」


「まぁ、仕方ありませんってそれに彼等が望んだ事が戦での武功だったからこんなことになるのはわかっていたんですからね。それでもここで馬鹿騒ぎするって選択肢をあっただろう…」


 各々にも彼等二人に対して情があったらしく皆悲しみにくれていた、それほどに彼等の存在は大きかったようだ。


 「過ぎた事は仕方ないであろう。それより一つ確かめたい事がある我が戦友よ」


 「うむ、申してくれ」


 「あぁどうやら、その義信がやったらしい。最後にやり合ったのがあいつの弟らしいがどうやら帝国に対して不信感を抱くように仕向けたようだ。もしかしたら一人で動くかもしれない。これで人間側との誤解が解けてしまえるのならいいのだが」


 「あぁ、確かにいつもそれは思う、かつての勇者達とはうまくやれていただが帝国に戻ったあいつらは当時の皇帝によって追われる立場になっていてかなり苦労をしたらしいな」


 「さよう、そこで我々も動いたのだが勇者は暗殺されてしまう。まさか仲間が裏切るとは思いもしなかった、そこに気づかなんだことに対してワシは後悔でしかない」


 高い図体で絶望に打ちつけられる、ガンフォールに対して誰も何も責めなかった。もうあれから何百年前の話なのだ、当時のことを知っている原生魔族達もかなり少なくなってきている。


 この魔王会議にいる奴らでさえ当時を知るものはごくわずかだけである。


 「もし、彼に身の危険が感じる事があるのであれば我々は全力で保護すべきだと思う。もし彼が死ぬ事があれば我々が目指している平和から離れることになる」


 ベルディアールの声が次第に大きくなる。その理由は紛れもなく彼が動くことを意味していた。


 「古き友よ、私は久しぶりにあの肩書きを名乗ることにする」


 「うむ、そうか。ついに動くのだなわかった貴君にこの大任を課す日がまた来ようとは」


 ベルディアールは、魔王から何かを受け取る。それはかつて彼が初代勇者と戦った時につけていたガントレットであった。彼は本気を出してはいなかったのだ。あの老人の槍使いが命をかけていたのに対し彼は全く本気を出してはいなかった。無論彼は嘘はついていない。現状の装備で本気を出したまでの事だ。


 「では、改めて貴君は魔元帥として我が軍の指揮官を全て任せる。これからはあなた様の判断で軍を動かしてくれ」


 「あぁ、そうさせてもらう。ガンフォール、ディーネゆくぞ。久方ぶりの戦になるついて参れ」


 ベルディアールが戦と言った事に二人は顔を見合わせて驚く、かの元帥がその言葉を口にするのは千年前の大戦のみになるからだ。


  「まさか、そこまでやる気だったとはね!私も少しテンション上げていこうかしら!!」


 「まさか、若の口から戦と出るとは!?このガンフォール身命を賭して若をお守りいたします!!」


 彼に付き従う二人は抑えられない程に昂揚している。それほど今までの戦が退屈だったのだろうと分かるほどに、もしこの光景を人類側が見る事ができるのなら彼等は思うだろう。


 自分達の先祖はなぜ彼等と真っ向から戦えたのだろうと。


 魔界三巨頭が勢いよく出ていった後残された七大天王の一人はため息を吐く。


 「ハァー、全く俺にはデスクワークを任せて自分は戦争に行くとはなズルいに程があるよ」


 「なら、お前もついていきぁよかったじゃねーかそんなところで愚痴言うぐらいだったよ」


 今まで喋っていなかったフードの男は急に喋り始めた、口調はかなり粗暴で喧嘩腰であるがこの男から放たれるオーラから相当の手練れである事がわかってしまうほどに滲みでているのであった。


 「いや、これでも奴から頼まれている事があるからな。それをやってからかな。あとお前さんは私の護衛をしてもらうよ。こう見えてほんとに弱いんだよ私」


笑顔で告げる、ファリドに対してフードの男は舌打ちで返す。


 「まぁ、それでもいいがその仕事ってのは一体なんだってんだ?」


「まぁ、それは今度教えるよ。時が来たら私の重要性がわかる日がからと思いますよ。


 何を言っているのか分からずフードの男は

イラッとくるが何も言わずに唯ファリドをよく見つめている。


「何だ?改まってこちらを見つめるとは?」


 「いや、なんでもねぇ。それよりも俺が出る事は大丈夫だよな。そういう話で決まっていたからよ」


 ファリドを脅しながらフードの男はさらに圧を加える。それに対して耐えられなかったファリドは慌ててしまう。


 「やめてくれよ、そんなに殺気を向けないでくれよ、私が一緒に行動する事が条件だからね、大丈夫たがらね一応閣下にも伝えてあるから大丈夫だよ」


 「どうだが、総合的なら俺が負けているんだけどな全くほんとの実力は隠したままかよ」


フードの、男は不貞腐れた物言いになる。無理もないこの男が魔王軍にとって重要な人物であると同時に帝国の中にいるある人物にとってはかなりの因縁があるのだ。


 「それでは、動きますか!頼まれた仕事をする前に我々も独断で動きますよ」


 その言葉を待っていたとばかりにフードの男はやっとの戦に目をぎらつかせていたのだ」


 「では鬼武蔵」殿、参りますか!」


  「あぁやってやろうじゃあねぇか!」


 「「鬼武蔵」、かつて織田信長にそう言われた男はフードを取り、愛用の槍を回していた。


 「仁科信盛。もう一度殺してやるよ」


 不敵な笑みを浮かべながら彼はそう告げる。


 今から始まる、魔王軍による大戦争にはとてつもなく嫌や予感がうかんでしまう。


だがこれは遅かれ早かれ起こる出来事でありさらにこの戦が泥沼化してしまうような予感がするがファリドはあまり深く考えないことにするのであった。



 そして、帝国内でも魔王軍を攻める準備が進められていた。もはや誰も止めることさえできない、これから血で血を争う戦が起こりやがて勝頼の運命が大きく変わってしまうだろう。


 だが、この戦争を回避するためには帝国に眠っている遺跡を探して「失われた」歴史が見つかる事ができたなら、勝頼の運命も変わるだろう。だがもし帝国に見つかる事が有れば彼もかつての勇者のように殺されるかもしれないだろうがそれがわかるのは少し先のことになるだろうし、まだ誰もわからないのである。


 

 帝国には密室の部屋がある、その部屋ではどんな魔力も通さない為に密談をするのには好都合な場所として使われている。


 その部屋に信龍と信盛が二人で何かの話をしている。


  「どうやら、魔王軍も本気を出してくるようだな?」



 「えぇそうですね。ですが急がなければなりません。彼等がこの世界の人類を滅ぼす前に早く誤解を解かなければならないとですね」


 「あぁ、我々をこの世界に飛ばしてくれたことに感謝するが、奴らの目的をこの本で知ってしまったからには無視するわけにはいかない」


 信龍が手にしている本には「勇者回顧録」と書かれている古びた本を手にしていた、その本には黒くこびりついた血がついていた。


 「その本には、生前の勇者が書いたとされているものが書かれている。そしてその血は勇者の血とされている。とほんとかどうか分からなかったがこの本を触った瞬間彼の記憶が蘇って彼の半生を知るまでわな」


 「あぁだが、事態はあやつらの思惑通りになっている。だから魔族達も動き始めたのだろう?それに義信と虎昌が死んだのは痛いな。あやつらの誤解が解けて仲間にできていればよかったものを」


 信龍は頭を抱えてため息をつく。


 「確かにな、だが元魔元帥がラザルを殺してくれたのはありがたかった。あいつは奴ら「神」側の派閥の奴らだ。それを倒してくれたおかげでだいぶ楽になったからな。問題は兄上のパーティーだ」



 同じように信盛も額に手を置いて考え込んでしまった。


 「確かにな…勝頼公の存在は論外であったなまさかこの世界にいるとは思ってはいなかったそれにあのメンバーの名前も一瞬何かの…間違いではないかと思ったのだがな」


 「あー、確かにそうですな。まさかあそこまで名前が揃うとは流石に思いもしませんでしたがしかも全員その名前に恥じない強さを持っているとは、流石に幸運に恵まれているのかもしれないですね」


 「だが、このイレギュラーを利用しない手はないぞ。我々でこの世界を救わなければならない。それも時間はあまり残されていない。我々も魔王と決戦を決めるしかないぞ」


 

  「あぁ、だがひとつだけ気になる事があるのですが、さっきあの兄上が聞いてきた事、あれは義信の兄上に何かを聞かされたようですね。もしかしたら彼も気づいてしまったのかもしれないですね」


 信盛は視線を向けずに作業しながら勝頼が何かを知ってしまったのではないかと危惧する。


 「まぁ、その場合は勝頼公を保護しよう。なによりも多分魔王軍もこの情報を知っている筈だ。そうなれば勝頼公が狙われるだろう。そしてもしかしたら我々が入れなかった、勇者の遺跡に入って我々の知り得なかった事を知るかもしれないそうなる前に保護をしよう」


 「そうしましょうではいつから動きますか!?」


  その時、思いっきり誰かが扉を開ける音がしたそこにいたのは昌信が一人立っていた。


 「その話この私も噛ませてくれないかな?一門衆の方々」


 驚きつつ二人は臨戦態勢に入ろうとするがそれよりも先に昌信が動き彼等の武器を取り上げる。


 「お前達の敗因はワシのことを過小評価していたことだ。仮にも武田四天王であるワシの動きを警戒しなかったとはな。信龍様、何故ワシに相談しなかったのですか?」


 問い詰める、昌信に対して二人は口を揃えてこう言った。


 「「だってそんな若い奴が高坂弾正って誰が理解すると思っているんだ!!」」


 二人の怒声が帝国の地下に響き渡った。


 これである程度の組織図が決まった、これから大きな戦いが始まるかもしれない予感がするのだが狙われている勝頼はまだ病院で眠っている。

 

 


 

 


 

 

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