第35話「甲州征伐」
あのあとは、大変だった。とりあえず昌信を信盛のいる本陣にまで届けた瞬間に俺も倒れてしまったようで慌ててみんなが抱き抱えてそのまま転移魔法で帝都の病院二、三日寝たきりの状態だったらしい。
昌信の怪我は生きているのが不思議なぐらいだったらしい。今ではリハビリも兼ねて病院の庭を散策しているようで次のクエストは活躍すると息巻いている。
俺は昌信程では無かったが、だいぶ疲れていだぐらいだと思っていたが、医者が言うにはかなりの血を失っていたらしくこのまま失血死するかも知れないぐらいにダメだったらしい。
俺が起きた事を知ると昌景達は泣いて喜んでくれた。特に昌景に至ってはもうダメだと思っていたらしくここ数日元気が無かったと信春さんに聞かされた。
結局最後はどういう結末になったかと言うと今回の防衛戦は我々の勝ちで決まったらしい。この決戦で魔王軍は大きく後退するすることになるだろうという話で終わっているらしい。
だが、これは前哨戦に過ぎない。七大天王の中で飯富虎昌は新参者であり、まだ強さ的も他の七大天王に比べるとそこまで強くなかった。
だがあれでも現状帝国で最強の冒険者である。昌景が使えるものは全部使ってやっと倒せた化け物クラスである事をわすれてはいけない。
それに幹部の一人がやられたことにより魔王軍も本気で攻めにくるであろう。そうなれば帝国にとって厳しい戦いなる。そうそうに俺達もこの街から逃げないとまた今回みたいに戦争に巻き込まれてしまう。
(「俺は唯、せっかく異世界に来たのだから冒険者としていろんな世界を見て周りたかっただけなのにな」)
いつの間にやら戦争に参加することになってしまった。これでは元の世界と同じ事を繰り返しているだけ。
(「だが、信盛と叔父上はまだ来ていない。あの二人のことだからくるとは思っているのだが」)
不意に、義信が死に際最後に言った事が気になってしまう。魔王軍が戦争をした理由、異世界に来るものは死んで未練が残った者など彼等に聞きたい事がたくさんある。
「だが、聞いてどうなるもんかな?」
彼等が間違っていれば敵対するのか?だがそれはまた肉親同士で争うことになる。それは勝頼は望んでいなかった。
親子同士での争い事は元の世界で終わっていたと思っている。だからこれ以上はもうたくさんだ。何事も無く笑い話で終わってほしい。
そんな風に思っていたらいきなり扉が勢いよく開けられる。
バタン!!と激しい音共に壁に打ち付けられた扉に一瞬目を奪われ、病室に入ってきた人物に視線を向ける。
「おや、兄上元気そうで、本当に三日間寝たきり状態だったんですか?」
少し馬鹿にしたような笑みを浮かべながらこの弟は冗談混じりに笑う。
後から遅れてやってきたのは一応皇帝だからか帽子を深く被った叔父上があたりをキョロキョロしながら周囲を警戒している。
変わらない彼等を見て少しため息を吐きながらも少し嬉しく思ってしまう。
「相変わらずだなお前は、もう少しどうにかならんのか?そういえばどっかのうわさによるとお前虎昌の奇襲を喰らった時かなり狼狽したらしいなそれであの赤備え相手に正面からぶつかるって言ったらしいな!!」
「うぐっ、流石兄上、病院にいるのに情報が早いですな。確かにあの時は焦りましたがそこに颯爽と現れた兄上のパーティーメンバー達まるでこの世界で言うところの勇者みたいでしたぞ」
興奮しながら話す信盛を死んだ目で見つめる叔父上を見て俺は察してしまう。
(「あー、どうやらあいつに何十回も話を聞かされたようだな。」)
叔父上が倒れない事を願いつつ俺達は今後についての話をする方向に進めた。もちろん、義信の言った事が気になってしまうがそれを話すのはタイミングがあったからにしようと思う。
「で、これからどうするつもりなんだ?」
「いや、それがどうもこうにも今の帝国は攻勢に出るべきだと言う話で持ちきりです。武断派の貴族が多すぎてこの数ヶ月には遠征軍でも作って魔王領にでも攻め込む腹づもりらしい。あと、僕今回の功績で中将に昇格したんですよ」
「そうか、ほとんど大変な奴の相手は俺達がしたんだけどな」
「そんな嫌味を言わなくてもー、一応兄上の兵卒だった身分もなくなってはれて侍大将になれたのだから感謝してほしいかな」
あのあと、帝国での功績による、報酬が言い渡されたらしく信盛は昇給で昌景は大佐待遇の処置。他の俺達は少佐待遇兼侍大将の地位という事で落ち着いたのだ。これで昌景の兵卒から卒業できたのはよかったがますますこの帝国に縛られているような気がしてならないのが癪に触る。
「しかし、この処遇のおかげでますます貴族達からの圧が強くなってしまいまして、僕もこれ以上の地位に上がると前線には出られなくなるのが困りどころだよ」
帝国では大将になると前線には出れなくなり殆どが後方からの指揮だけになるらしい。
だがそんな話よりも俺には重要な話がある。このままではいつもの話し合いで終わってしまうタイミングとか空気とかは関係なく俺は勇気を出して聞くことにした。
「なぁ、信盛」
必死に声を出すのだが、緊張のあまり声がうわずってしまう。
「お前は、どこまで知っているんだ?いや一体お前はいつの「信盛」なんだ?」
いきなりの問いにキョトンとする信盛と横で少しだけ強張った表情をする。叔父上の手にはそっと刀が置いてあった。
「一体どうゆう事ですか?兄上僕には何を言っているのかわからないですよ」
声色はいつもの調子であったが目は笑ってはいなかった。
(「どうやら本当に開けてはいけない扉を開いてしまったようだな」)
信盛の雰囲気の変わりように俺は元々ベットに潜ませていた小刀に力がこもる。
「いや、この世界にこれる条件みたいなのを聞いてなどうやら元いた世界で死んで心残りがある奴がどうやらこの世界に来るらしい、だが俺が知っている話ではまだお前は生きていた。叔父上も同様に一体お前達はどこで死んだんだ?俺が知らないところでか?それとも俺よりも先の未来の世界で死んでここにきたのか?」
「それを知って兄上はどうされるつもりですか?そんなものなんの役にも立たないでしょう?」
「確かにそうだ、だが俺は知りたい。もしそのあとの武田を知っているなら俺は知らなければならないその後の俺が何をやっていたのか?」
(「今更、元の世界について知りたいとは思っていないだがもし彼等が俺よりも先の未来から来たので有れば話は別だ。俺は知りたかった、武田がどうなってしまったか、可能なら結末まで知りたい」)
鋭い目つきで見てくる信盛に対して同じような目で見返す。これだけは折れる気にはならなかった。
「ハァー、仕方ないですね。やはり兄上は兄上ですかー。まぁあの後の武田が滅んだかどうかは僕は知らないんですけどね。その前に僕は死んでますしね」
観念しながらサラッととんでもない事を言う弟に少し衝撃を受けてしまう。
「一体それはどう言う事だ?」
俺の疑問なら対して信盛は短く簡潔に告げる。武田が滅んだかは知らないがこの言葉だけで助かってはいないだろうと何故かそう思ってしまうぐらいの名称なのだと。
「甲州征伐、あの信長がつけたかどうか知りませんがもはやかつての勢いがなくなった。武田の息の根を止める為の討伐軍みたいなものかな?参加したのは北条、徳川も参加した武田包囲網ですかね、はっきり言ってこれに勝てたら兄上はあの父上を超える事ができた程の状況最悪、勝つ可能性がない。ただ滅びを待つだけ、どうしようもないイベントが始まったんです」
「甲州征伐だって?」
「そう、長篠敗戦後確かに主要メンバーが戦死してしまったとはいえまだ武田には状況を盛り返すだけの余力はあったんです。事実あの北条を追い詰めるだけのだけの事はしましたし、武田家始まって以来の領土拡大も出来ました」
淡々と他人事のように話しを進める、自分の体験したことに興味が無いと言うような心がこもっていない。
「だけど、結局は時間稼ぎにしかならなかった。織田と徳川、北条が手を結び連携して追い詰めてきたんですよ。ちょうりゃくもびどくて……あの木曾や穴山まで裏切ってしまってね。次には私が治めていた高遠城に織田の軍勢が来てそこで激しい攻防の末私は討ち取られたわけですよ」
他愛のない話しでもするかのように信盛は自分の最後を語る。すでに終わったことであることに間違いはないのだが、物言いはあまりにも冷た過ぎる。
「死んだ瞬間、どこからか声がしましてね、確か第二の人生を歩まないか?みたいな事を言われた気がしましたね。そこで思い切ってありますと言ったらこの世界に来てた訳なんですけどね」
無表情で話す信盛に耐えられなくなった俺は一瞬かおを晒してしまうが重要な事が聞けた。
「その声の主はどんな奴だったのかわかったりするのか?」
「いや、そう聞こえただけでしたのでね。とりあえず僕はやり残した事があると思ったのとあとは純粋にこの世界を知りたいと思ったからかな。それにこうして兄上に会えたのは奇跡的だけどね」
「そうか、すまないあまり言いたくはない事を話してくれて」
軽く俺は礼を言う、普通はない事だが死んだ時の事を話してくれと言うのは中々人としてあんまりだと思い気が引けてしまう。
「いえ、全然大丈夫ですよ、もう終わった話でしたし。それに最後に兄上に頼ってもらったて嬉しかったので頑張ってみようと思ったんですけど役ニ、三日で落とされてしまったのであまりお役には立てませんでしたけどね」
照れながら、信盛は頭を掻く。まだ若い彼が壮絶な戦死を遂げなければならない程状況が逼迫していた事を知り顔を曇らせてしまう。
「高遠城が落城したなら流石に武田は残ってないかもしれないな。それでも残った者は武田の為に頑張ってくれたと俺は思いたい」
「そうですね、そうであってほしい限りです」
少しの間、しんみりとしてから俺はもう一つの本題に入る。
「それで、お前に語りかけてきた人物はどんな奴なんだ?」
「さぁ、僕も全くわからないですよ。とりあえず真っ暗の中で声だけ聞いたような感じでしたね。それも男なのか?、女なのか、全くわからない人でしたよ。そこから話が終わるとなんか急に光出して気づいたらこの世界にいたんですよ」
全く不思議な事が起きたとばかりに信盛は肩をすくめる。
(「だが、差し当たってわかった事はこの異世界にくる人は殆どが死んだ者であり、何者かの問いかけで未練があった場合のみこの世界につれて来られるのと言う事だな?、一体何故彼等はこの世界に俺達を連れてこようと思ったのか?」
彼等の目的が全くわからない、何故こんな事をするのかをそれも別の世界それも時間軸が違う人たちを連れてくる意図さえ全くわからない。
(「連れてこられた俺達も知っている奴だけど違う時間軸から来た奴らだ。信盛がいい例だしな。本当に死んだ奴が条件なら、俺はイレギュラーな存在なのかもしれないな」)
むしろ被害者の可能性だってある、そもそも勝手にの世界に飛ばされてしまったのだからだ。多分相手も予想して無いと思うが昌信までついてきてしまっているからだ。
(「異世界に飛ばす元凶達にとって俺達の存在はこの上なく邪魔な存在であるとしたら、この魔王軍との戦いが俺達の近くで起こっているのは偶然では無いのかもしれない。逆に考えると奴らを出し抜けるかもしれないだがこの事を誰と話すべきかが重要になるな)」
彼等二人に話す事ができないのは義信の最後の言葉が引っかかっているからだ。魔王軍が戦争を始めた理由それがなんなのか何故彼等は帝国とやり合う事を決めたのか?答えは帝国の歴史の中にあるかもしれない。
(「だが、とりあえず確信を持てるまでは自分で調べていくしか無いな。それにここで喋って殺されることもあり得ない事は無い」)
未だに傷が癒えてない為、ここで万全の二人とやり合うべきでは無い。
仮に勝ったとしても仮にも信龍は皇帝だ。そうなれば二度と帝国には入らなくなる、流石にそれはかなり厳しい展開になる。
「どうした?、兄上黙りこくってしまってなんか考え事か?」
「いや、とりあえずおれの聞きたい事は聞けたからもう大丈夫だ」
かなり長い事考えていたのだろう、少し心配そうに見てくる信盛に対して少し胸がいたむ。
それからしばらく三人で談笑してから二人は帰っていった。
「ふぅーー、疲れた。流石に慣れない事をする者では無いな」
やつと緊張感に解放されて思い切り背伸びができることに少しだけ頬が緩みそうになる。
「「甲州征伐」かぁ」
信盛の言う信長が武田を滅ぼす為に慎重に重ねた、討伐部隊話によると信長本人はきていなかったらしい。
「その時の俺はどう思っていたのだろうな」
自分ではわからない、未来の自分がどう立ち向かったのか考えつつ自分なりの武田の為に何ができるかその答えを見つける為に俺は帝国内にあるというあるばしょの事を考えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます