第34話「武田勝頼」として
違和感があった。魔人になったせいなのか、周囲の魔力に敏感になってしまっているのかわからないが魔力の流れみたいなのを感じたからだ。
それは案外自分の近くで起きていることに気づき原因の場所に振り向く。
そこには先程殺した筈の弟が立っていたのだ。確かに致命傷であった筈の傷は何故か綺麗に無くなっていて、よろよろとこちらに歩き始めていたのだ。
「馬鹿な!、あれだかの血の量が流れていて生きているはずがないであろうに!」
驚きと戸惑いの他に恐怖を感じた私は、狼狽しながらもやつが立ち上がった理由を考えてみる。もしかしたらこいつの奥の手はこの超回復能力だったのかもしれないと。
だが、それでも説明できないのはあの急激に上がった魔力量はなんだったのだろうか?わからない事はあるがとりあえず魔人としての本能なのかここで奴をやらないとマズイことになると警告していた。
「なら、もう一度殺してやるまでだ覚悟!!」
瞬間、私は最短距離で奴の喉元まで近づき切り裂こうとしたのだが。
ガキィン!!っと何か硬い金属のような物に阻まれてしまった。
(「今の私の反応についていけるとは一体、それにこれは!?」)
奴が持っている、義信の一撃を防いだ時に持っていた物に対して彼は驚き数メートル距離をとる。
「何故、お前がそれを持っているのだ!勝頼!答えろ!!」
ここまで冷静でいた、義信が興奮気味に質問をぶつける。武田家にとっては重要な物であり、義信が知っている勝頼が持ってはいけない程の神聖なものであったのだ。
「その「軍配」は父上が持っていたものだ?長年誰にも触らせなかったほどにな。それをお前が持ってしまっている意味はわかるよな?」
次第に殺意が湧く義信とは対照的に勝頼はニヤリと笑う。
「ッ!?、何がおかしいのだ、お前は一番後継者から遠かったのに!?何故軍配を託されている!なんで貴様なんかに!」
ますますあがる殺意に対して俺は軍配と刀を
抜き構えるもう話し合う余地はないと勝頼は判断したのだ。
それに気付いた義信が構えたのも束の間、勝頼は奴の後ろに現れ軍配で俺を叩こうとした。
すんでのところで義信はかわし、もう一撃を振るうがやはり交わされてしまう。その動きもどくどくでまるで鳥のやつな軽い身のこなしであったのだ、
「何だ?、この違和感は何だこの悪寒は一体なぜ何だ?」
確かめる為に、義信は雷を身に纏い超人的な速さで月の一撃を食らわそうとした。
当たれば即死今度こそ仕留めたと思ったが。
ガシッと手をつかまれた。
「バカな!?」
思わずそんな言葉が出てしまった。奴は魔人になった私の手を難なく掴んで見せたのさ、触れたら腕が消し飛ぶ程の勢いがあったのにあっさりと掴まれてしまう。そんな受け入れ難い現実を否定するかのようにもう一本の腕で奴の腹を引き裂こうとした。
バキっと腕から鈍い音がした、それが自分の腕から発した音だと気付いたのは激痛が走ってからだった。
顔を歪めながらも必死に痛みに耐え私は後ろに下がる、魔人になった事で私の治癒能力は格段に向上していて折れた腕はすぐに治るのだが、奴の底知れない代わりように恐怖を感じていた。
(「何だ!あの速さは魔人である筈の私の速さを超えてくるとは!まさかあの「軍配」に謎があるのかも知れない。ならば奴の腕から切り離してやる」)
「なんて事は無い。用は奴の腕からアレを離せば勝機はある!」
「能力超強化、それにストック三」
何を呟いているのか、聞こえなかったが兄上はスピードを上げたけど何故か俺の目は兄上を追えてしまえる。一度死んでしまったからなのか?よくわからないがあの魔人と化した化け物とやり合えていることに少しだけ嬉しく感じる。
飛び回りながら俺が隙を作るのを食べ待っているようだったが、こっちも早く決めないと昌信が危ないかも知れないから少し本気で行く。
「風林火山の名の下に我「武田家」の当主として命じる。眼前にいる敵を倒す為先代信玄公の力を与え給え!!」
奴が何か叫んだ瞬間、奴の周りで渦が作られるあまりの強さに近づく事ができず呆然とその様子を見ていると。
渦は消え去り、そこに現れた勝頼の姿を見てしまった私は……。
「貴様!!、その鎧は何だ!!私への嫌がらせなのか!!」
激昂していた。考えていた作戦もどうでも良くなった。今私を支配しているのはこいつを殺す事のみなのだから!!
(「やはり、兄上は気にしておいでだったのか」)
鎧を見た瞬間鬼気迫る顔で殺意をぶつけてくる。義信を真正面に捉えて俺はは刀を抜く、ここで前の世界の因縁を決着をつける為に。
「貴様は!!ここで死ね!!」
真正面から爪から放たれる斬撃を刀でいなしそのまま兄上を斬りつける。
(「かかったな!!」)
真っ二つに斬った、手応えがあっだがそれはドロドロと崩れ落ちていく。
いつの間にか義信は勝頼の後ろを取っていた。
(「これでお前は終わりだ!!」)
魔人になって不要だと思っていた刀を使いそのまま腹から斬り裂く為に上段の構えで一気に振り下ろした。
「ガハッ!!」
(「何だ?、いきなりの吐血だと……」)
絶好の機会を失ってしまったと思い態勢を整えようとするが思ったより体が動かない。それに腹部に激痛がある。
「いったい……これは……!?」
事態の異常さに気づいた時には遅かった、既に腹部には深く刀が刺さっていたからだ。おそらく気づかないほどの速さで勝頼が刺したのだろう。
「やはり、兄上の事だ。必ず裏をかいてくると思いましてあらかじめ後ろは警戒しておりましたから後は兄上が油断したところをこれで」
「フン、この刀は父上のか?ただその姿は私に対しての嫌がらせなのか?」
「それはお互い様ですね、あなたが謀反なんて起こさなければ本来これをつけるのはあなただったんですからね」
「ハハハハッ、これは一本取られたよ。だがなあの時は私の大義があったからそうしたまでの事だから虎昌には悪かったと思っている。お前もあの時の父上の判断か正しいとは思ってはいなかっただろうと思うが、俺ももう少し考えればあんなことにはならなかったかもしれんな」
かつての過ちを思い出しながら自分の心情を吐露する義信に対して勝頼は何も言えなかった。
あの場に自分はいなかったが父の苦悩も兄の義に対してわからなくは無いのだが、唯どちらが正しいとは言い切れなかったからだ。結果得られたのは広大な土地と失ったの息子と苦楽を共にした家臣だったからだ。
多分父が止まらなくなった原因はそこにもあるかも知れないと勝頼は思った。失った仲間の為に武田を強くする、上洛する。まるで何かに取り憑かれてしまったかのように甲斐の虎は突き進まなければならなかった。彼等に報いる為にと病を押してまで戦い続けたのだ。
「まぁ、この世界にきてからは全てが吹っ切れいたんだがな。一度だけ死んだ時に武田はどうなったんだ?聞いたらさ、お前が代わりに継いでいるって聞いたからびっくりしたもんだよ。だがその話が忘れられなくってな、お前がこの世界に来たと聞いた時はチャンスだと思ったよ。それと試してみたくてなどちらが「武田」にふさわしいかどうかをな」
「それで魔王軍に入ったんですか?」
「まぁな、でもそのおかげで一条の伯父さんや信盛までこの世界に来ているとか知ってよ。本当に驚いたと案外身内ばかりがこの世界に来てしまっていることにな。ここにくる奴らは大概生前未練がある奴らしかこの世界にはこないらしい」
「ではここにいる異世界から来た人達はみんな死んでから来た人が多いとそれでは信盛と一条の叔父上はまだ死んでいなかった。何故この世界にいるのですか?」
(「多分自分も特殊なケースだと思う、俺は死ぬ前にこの世界に連れてこられたからだ」)
ここに連れて来られる条件はまったく知らなかった。それではあの信盛は一体「いつ」の信盛なんだろうかという疑問がでてきてしまう。
叔父上だってそうだ俺が長篠での敗戦の時はまだ生きていた事は知っていた。まさかあの後に落武者狩りにでもあってしまったのか?
この世界についてのまた謎が増えてきてしまう。一体この世界の神とやらは一体何をみたいのか?もしかしたら俺達はただ彼等の人形として動き回っているのかも知れない。
そう考えるだけでおぞましい程の寒気が全身に駆け巡る。
「まぁ、それに反抗する為に俺達はお前たち帝国に戦っているのかも知れん」
義信はそのまま倒れ込みながらも意味深なことを言う。
「どういう事だ!、まさかあいつらがこの世界を牛耳っているっていうのか?」
「いや、そうでは無いが、言い切れはしない。だが一方の視点だけ見ていても何も解決はしないって事だ。あとはお前がどうするかだ。勝頼よ」
見ると義信の体は消え始めているいた。無理もない、魔人化という禁忌を生身この人間がしてしまったのだ。今まで体が持っていたのが不思議なのだ。
「まぁ、私はやれる事はしたよ。あとは若いもんに任せるとするよ、結局は勝てなかったが最後にお前とやれた事は誇りに思う。ではな弟よ、せいぜいあの世から異世界でのおまえの働きを見ているからな」
そう言い残し満面の笑顔を残しながら義信は変えてしまう。武田家としての義信としてやっと死ぬことができたのだろうと勝頼は思った。
その生き様は異世界に行っても当主になれなかった後悔と武田信玄に対しての恨み勝頼に対する嫉妬もあったが、最後に弟と喧嘩ができて幸せだったのだろうと勝頼はそう願うばかりであった。
魔王軍幹部武田義信、同じく幹部であり七大天王として今まで苦しめてきた飯富虎昌二人を討伐することに成功した。だが勝頼はこれから聞かなければならない事がある。
その中で一番重要なのは仁科信盛と一条信龍の二人に対してだ。
あの二人は勝頼が知っている「二人」なのかそれとも別の何かなのかと。
確かめなければならない。勝頼の手は震えているようだったあまりにも受け入れ難い事実かも知れない為に心がくだけそうになるがなんとか耐えることのできた勝頼は決心をつける。
勝頼は義信の忘れ形見になった刀を拾い、もう一本の予備の刀にする。刀の銘を見て勝頼は表情を曇らせた。「風林火山」と彼は魔人になってもその魂だけは忘れてはいなかったのだ。
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