第31話壁を越える

 二人の赤備えによる激闘は一進一退のままであったが状況は少しずつ変わり始めてきている。流石の経験の差で追い詰めていた。虎昌だが老いによる体力低下が出始めており、呼吸が荒くなってきていたが、それを無理矢理身体強化と体力回復、疲労軽減のバフをかけて無理矢理動かして戦っている。骨は軋み、筋肉は何度も切れたりしているのを無理矢理治しながら槍を振るっている。

 

 対する、昌景は身体強化と元々保有していたスキル「超感覚」そして信盛からもらった。帝国国宝級三相当「赤備えの槍」を使っている。体力的にはかなりの余裕がありまだまだ戦える、だが経験が少ない為か、虎昌の一撃、一撃を済んでのところでかわし続けている為生傷が絶えない。状況から察するにまだ決定打は無いまま互角の勝負が続いているがどちらとも致命傷を負えば決着がついてしまう。



 (「あの小娘、どこであの槍をいや、それよりワシの魔力の限界も近いそれまでにどうにかするしか」)


ここまでくるのに相当の魔力を使っていた虎昌は限界に近づいていた。そもそもこんな強敵と戦うことは想定していない。


 それにあの槍は開けたらまずいと彼の経験からの警告が出ていた。「赤備えの槍」彼女では無い。虎昌の実の弟が所持していた、ただの槍のはずだったがが長年使い込まれた為に業物として変異してしまっていた。能力は「武田の敵に永続的な魔力不全を発動するという」厄介極まりない能力と「赤備え」を継ぐ者が使うと身体能力が強化されるというかなり強力なものである。


 (「既に彼女の本名かわからないがあの弟の名前を継承している為その条件はクリアしている」)


事実彼女の振るう槍の一撃が重くなっていることが伝わってくる。こちらの疲労を隠すためにも倍の力を使ったカウンターを決めるが、それも限界に近いようだ。加えて彼女はまだ体力は有り余っているまだまだ余裕そうだ。


 加えてこちらは全力でやれる時間は限られていておまけに一撃でも喰らえば魔力不全で即敗北。


 例え勝てたとしても後四人控えている、今回は奴を倒して「槍」を手に入れ逃げるしか無い。


 (「だったら勝負をかけるしか無い!!」)



 優勢に勝負を進めていた、昌景は相手の雰囲気が変わるのを即座に感知し距離を取る。


 「来たね、奥の手」


 「「飯富の赤備え老」発動加えて「魔力強制解放七大天王」を限定発動」


 身体が悲鳴を上げるのが聞こえてきそうだが目の前にいる敵にここまでする価値があると判断した。それは亡き弟の名を語っている彼女に対しての怒りからなのか、それとも純粋に強敵との戦いに心が昂ってしまったのか、わからないが虎昌は一気に短期決戦に切り替えた。


 一方、敵の動きに気づいた、昌景も同じようにスキルを発動する。


「「武田の赤備え」発動、御旗楯無」


 彼女のスキル発動中で気になることが出てきてしまい攻撃する動きを止め、距離を取る。


 対する彼女は一気に攻めかかってきた、まずこちらの機動力を奪うために足を狙う。


 「ふん!」


 超感覚で動いている昌景の槍の薙ぎ払いを左足の鎧がある部分で受け止める。賭けに出た動きではあったがすぐにやられる心配がなくなったが。


 「くぅ、足が……」


 受け止めた代償は足の骨を軽くヒビを入れる威力であった。もし体を強化していなかったら今頃左足はなかっただろう。


 (「なんとか、なったが後二分弱で片付けないといけない」)


虎昌は焦るには理由がある、それはスキルの効果時間だ「飯富の赤備え」ユニークスキルで時間制限があるが全ての能力を英雄の域にまで一気に押し上げる能力だが発動時間は三分足らずで次使うまで一時間使えない。全盛期なら十分は使えたがやはり歳には勝てないらしい。


 加えて「魔力強制解放」はその名の通り一分間魔力が無限になるという世界にいるかいないかのレアスキル、これの七大天王版でベルディアールからもらったスキルである本来は半日持つのだが、虎昌が高齢なのと魔族では無い為に三分間は無限の状態が続く。


 これにより無尽蔵に魔法が使える後は遠距離でチクチク疲弊するまで痛ぶるつもりだったのが。


 「まさか楯無を使えるとは」


 昌景の奥の手を知った瞬間虎昌は愕然とする。


 「楯無」このスキルは三分間遠距離の攻撃は効かないスキルである。このスキルは使えるやつがいないと言われていたがまさか目の前にいたとは驚きだった。


 相手の愕然とする姿に昌景は安心する。


 (「よかったー、相手が信じてくれて」)


チラッと彼女は俺の方に目配せをするが俺は勘付かれるのを恐れて冷たくあしらう。


 そう鼻から楯無のスキルは持っていない。だが相手に遠距離攻撃が効かないというと思ってもらうのが大事である、その為に万が一遠距離魔法などを食らってもいいように薄い魔法耐性の呪文をありったけ装備しているため、うまく騙せる筈だ。


 この作戦を考えたのは俺だが七大天王であり、赤備えで猛将の虎昌を倒すにはここまでする必要があるのだ。


 さらに「武田の赤備え」を発動している。これは全体バフみたいなもので武田ゆかりの人達にワンランク上の強さになってもらう。あまりにも限定的なためなのとほぼ自己バフに近い、使い所が難しいスキルだ。


 だがこれで二人とも使えるスキルは全部切ったここからさらに二人はぶつかり合う。


 またも二人の槍同士のぶつかり合いが再開される。先程まで優勢だった昌景が押され始める、少しずつ生傷が絶えなくなってくる。


 だがそれでも、相手が大ぶりになった瞬間に絶妙なカウンターを決める。それを虎昌は何事もなくかわす。


 手先、足先首筋などを執拗に攻めているのだが、一瞬にして吹き飛ばされてしまった。


 体制を立て直し転がるが直ぐに新しい一撃が加えられる。

 

 ギィンとまた槍どおしのぶつかり合いで火花が飛び散る。


 「やるな!ただがまだまだだ!!」


さらに虎昌が速度を上げていきこちらはなすすべなく、耐えるだけであったのだ。


「流石の私も限界があるね」


こっちとしては一撃さえ入れば勝てるのだがやはりそこは七大天王全部塞がれてしまう、それどころかこちらの傷も深くなり始めてくる。


 次第に有利なのは変わってき、虎昌が逆転する。


 「よく頑張った若いのだが」


 いきなり視界がぐらつき倒れてしまった。どうやら足払いされてしまい話しかけてきたのだ。


 「だがやはりここまでのようだこのまま殺しに」


 ぶすりと虎昌の腹に何かが刺さる。よく見てみると昌景の槍が深々と刺さっていた。


 「何がどうなっている?」


 槍の効果が発動してそのまま倒れてしまう虎昌にゆっくりと昌景は立ち上がる。


 「どうやら、やっと効いてきたみたいな」


 ゆっくりと虎昌に刺さっている槍を引き抜く。

そこから大量の血がこぼれ始め、力なく倒れる。


 「あなたにはまだ言ってなかったけど私の本当の奥の手は相手の感覚を麻痺させることができるの主に痛覚とかね」


 「なら、いつからこれは刺さっていたんだ?」


 「うーん、ほんの数秒前かなあなたが足払いした時には刺していたね、後は気配を消すスキルで私自身変えたのだけどそれにさえ気づかなかったみたいだからもう既に限界に近かったのねだから感覚が麻痺していると思ったからブスリとねもう少し自分の状況を把握するべきだったと思うよ、昔のあなたならこんなことにはならなかったと思うよ」


 「そうか、やれやれ歳はとりたく無いものだな」


 虎昌自身限界が近いことが分かってはいたがここまでだとはわからなかった、だから隙をつかれてしまった。


 「だが、最後に其方のようないや、真に赤備えを継ぐものに出会え手合わせ出来たことが幸せだったぞ。あとその槍を大事にしておくれ、あと 四郎様おられますか?」


 呼ばれた俺は後ろから出てくる、今にも息絶え絶えな虎昌を見て彼の手を握りしめる。


 「義信様の事は任せましたぞ、もし可能なら二人仲良く武田を再興できることを願っております」


 それだけ言い残すと虎昌は事切れてしまった。


 七大天王序列七位飯富虎昌撃破、昌景にとっては真の赤備えの称号を手に入れる為の壁だった存在を超え正真正銘の赤備えを継ぐことができたのだ。


 


 


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