第30話激突二人の赤備え
俺が混乱しているうちに始まった開戦は帝国軍の優勢で進んでいた。
敵は山中に潜んでいる、加えて相手は上り坂でこちらを攻める時は坂を登らなければならない、地の利的にもこちらが優位である。
信盛は、今回の戦であまり被害出さないようにする為にまず魔法部隊に石を大量に作らせて投石で攻めることにした。火が一番効率がいいのだがあまりにも森が深い為下手をするとこちらにも被害が出そうだからだ。
投石に耐えかねた敵兵を魔法での遠距離攻撃で倒していく堅実な攻め方をしていたのだが、少し様子がおかしかったのだ。
「やはり、こちらのやり口は想定済みか、魔法耐性を上げて被害を最小限に抑えているそれに身体強化もして坂を登るのが早いですね」
魔王軍にいても相手の経験の方が上手であった、魔法耐性と身体強化をした敵兵は次々と坂を登り魔法部隊に被害を出していく。
「流石と言いたいところですが、私の信玄公の息子です。これくらいの窮地乗り越えられます」
味方が劣勢になる前に信盛は指示を飛ばす。すぐに魔法部隊は引き代わりに弓部隊が現れ的に矢の雨を降らせる。
やっと坂を登ったゴブリン達は待ち構えて弓部隊の餌食になり、そのまま坂から転げ落ちていくどうやら魔法ばかり気にしていたようで物理耐性は上げてはいなかったようで面白いくら弓矢がささりまくる。
再び帝国軍側が優勢になり少しずつ包囲を狭め始めていく、敵の勢いがなくなったのを確認しさらには深い森での奇襲にも警戒しながら帝国軍は進んでいく。
味方の優勢の報告を聞きながら信盛はある違和感を覚える。
(「ここまで脆いものなのか?あの猛将で有名だった虎昌殿がこんなあっさりと抵抗もなく」)
猛将と聞いていた為にどこかで現れて頑強に抵抗すると思っていた。さらにいうと前線に出てきて大立ち回りでもするとそう考えてのじっくりと攻めてきたのだがあまりにも拍子抜け過ぎる。
「だが、それもこのまま攻めたらわかることだ全軍このまま……」
信盛が総掛かりの号令を下そうとしたとき、早馬が慌てて信盛の前に現れそのまま転げ落ちるかのように下馬し報告をする。その報告は信盛が愕然させることであった。
「報告します!!敵軍の本隊が急に側面から現れ我等に向けて進軍を開始いたしました」
「なんだと、本隊といってもどのくらいの数だ」
なんとか冷静さを保ちつつ、信盛は詰め寄る、兵士は緊張した面持ちで報告を続ける。
「その数は千程ですが皆赤い鎧を見に纏いかなりの速さで向かっております!!」
「ならば、近くの部隊に足止めはできませんか?ある程度は残している筈です」
万が一に備えてある程度の兵力は後詰めとして残していたのだが。
話を聞いた兵士の顔がみるみる青ざめていく。どうやら事態はより深刻な状況らしい。
「どうした?、別に君に対して怒っているわけでは無いのだ。言って下さい」
物腰柔らかく告げると、少し楽になったのか兵士はありのまま起きた事を口にする。
「それが、後詰めにいた三千程の兵力が既に接敵し交戦、多数の負傷者を出してしまて潰走したらしくこちらの援護には来れないと言うことです」
「そうか、ご苦労であったな」
労いの言葉を述べ信盛はすぐに立ち上がり刀を引き抜く。既に敵の赤備えは見えており、ぶつかるには時間の問題であった。
(「やはり、経験の差がここで出てしまうとは、やはり元武田四天王は伊達ではなかったですね」)
己の不甲斐なさを悔やみながら信盛は覚悟を決め眼前の敵に突撃する構えをする。
相手方、信盛の本陣を見据えているのは元武田四天王の一人飯富虎昌その人である。
「話に聞いていたがあれが信盛様か、四郎様や義信様とはまた違ったタイプのようだな。だが」
虎昌はある程度信盛の策は看破していた。それだけではなく敵本陣を探しあて透明化ができる部下だけを連れてここまできた。後は奇襲するだけなのだがそれだけでは勘付かれると思いあえて大軍を残し魔法耐性のバフまでかけて相手に勘付かれないようにした。ゴブリン達は皆人語を喋れない奴で集め後はどこまで踏ん張れるか賭けであったがお陰で相手の喉元に喰らいつくことに成功した。
「やはり、あまり戦には不慣れな様子ですな、ワシが昔のままでいたら恐らくはあの策で敗れていたかもしれませんが」
馬上から、槍の穂先を敵本陣に向ける。ピタピタと返り血が、地面を濡らす音だけが静かに聞こえてくるような錯覚が虎昌を支配する。
「ですが、ワシもこの世界にきてかなりの経験を積んでおります。それに義信様もこの世界におられる。ならばワシのやるべきことは決まっておる。ここで貴方様の首を取り、義信様に捧げまする!!」
瞬間、虎昌は一気に駆け出し、ほかの者達も続き赤き炎は信盛の本陣を燃やさんが為に一気に近づいてくる。
待ち構えている信盛はこの攻勢を止めれるか心配であったが覚悟を決めた以上やるしかないのだ。
お互いが、激突去る瞬間数メートルのところで何かが姿を現した。その瞬間、虎昌の軍は足を止め現れた一団に警戒の目を向け視線を離そうとしない。
「やはり、現れましたか貴方達がいつ現れるか待っていたのだがこんなタイミングで現れますかな?もうかけわりたくないとは言っていた貴方がこんな一番深いところにいるとはな」
現れた男に対して虎昌はさっきまでの昂揚感を台無しにされたことに対して気を悪くはしていなかった。それどころか、彼が現れたことにより、一層昂っているようだった。
話しかけられた俺は彼の並々ならぬ殺気には目をくれずに仕込みクナイ放つがすぐに弾かれ、距離を取られる。
だがそれが彼の狙いであった。お陰で信盛達は本陣を別の場所に移していた。足のつかない転移魔法をつかったのだろう。既に信盛の陣は消えてしまっていた。
そして残ったのは……
しばらくの沈黙の後、気だるそうに虎昌はこの場のリーダーである男に話しかける。
「やはり、私の邪魔をするのですね。勝頼様。ずっと気を窺っていたのでしょう。本当にタイミングまで天才的とは戦術面はお館様と同じぐらいな感じがします」
「いや、そうでもない。まだ私はあの父上には遠く及ばない。むしろ信盛の策を破った。虎昌殿が我が父上に近いのかもしれませんぞ」
俺は、挑発してきた虎昌を挑発で返す。虎昌は知らないだろうがあの父上に比べられることぐらい毎日あった程だ。むしろ今になって蒸し返されると少しばかり腹が立つから少しだけ皮肉込めて煽る。
「むっ、勝頼様は私と同じ直情タイプと思ったのだがどうやらそうではないようですな」
「当たり前だ。そんなことで引っかかっていたらあの父上に笑われてしまう」
確かにと虎昌はにたりと笑う。笑った後彼はすぐに飛んだ。
あまりの速さに部下のゴブリン達も気付いてはおらず、しばらくオロオロと自分達の指揮官を探していた。
対する虎昌が目指したのはただ一つ俺の首、彼は一瞬で勝負をつけにきた来た。かつて自分が仕えた主君の息子であり、現在仕えている義信の弟だろうが関係無かった。目にも止まらない速さで勝頼の首を捉え、槍の穂先が首に突き刺さる感触が伝わってくる。
そうはならなかった。
ガギィン!!と槍の穂先同士がぶつかる音が響き渡りそのまま激しい鍔迫り合いあいになる。
音速の一撃を防いだ人物を見るとその者は少し前に見た義信とやり合っていた。赤い鎧を着けた少女であったのだ。
「まさか、この少女がワシの刃を防ぐとは」
必殺とまでとはいかないが、様子見で放ったわけでも無い一撃を防がれ、虎昌は彼女に少し興味を抱く。
「お嬢さん、名前は」
ただの興味本位で聞いただけ、首をとった後に誰の首かを知る為それだけの事だと。それ以外で興味が無い、感じたのは久方ぶりの強敵だということにだが虎昌にとってはそれだけでは終わらない因縁ができてしまうことになる。
「私の名前は山県昌景、このギルド風林火山の戦闘全般の担当で最強です」
自身に満ち溢れた答えだった、だがその名前はいけなかった。虎昌にとってはその名前だけは」
「そうか、お嬢さんその名前を名乗るからには覚悟を決めた方がよいぞ」
空気が一瞬で凍りつく、赤備えとして名を馳せた猛将から出てはいけない。冷たいだけどどこか悲しげな殺気がはなたれる。
「なんですか!、この殺気は」
体を両手で抱き抱えるように冷たい殺気に耐える昌豊と信春ではあったが俺達は違っていた。
彼の悲しみや怒りからくる殺気の正体を俺達は知っている。
かつて「義信事件」と言われた。謀反未遂があった。それを事前に止めた男がいたのだ。
男の名は飯富昌景、虎昌の弟でありのちに山県昌景と名乗る名将がいた。彼は、実の兄が謀反を起こそうとしていることを密告したのだ。用は今目の前にいるのは性別、歳も違うが自分達の仇がいるのであるのだ。
「まさか、こんなことが起こるとは」
口が裂けそうな程の笑みを浮かべ虎昌は槍を構え直す。彼の笑みの意図がわからない彼女も覚悟を決めて槍を構え直す。
「我こそは七大天王の一人であり、魔王軍第七旅団旅団長、飯富虎昌推して参る!!」
口上を述べた瞬間一気に距離を詰められ槍の月の嵐が襲い掛かる。昌景はそれを全て防ぎきり、カウンターを放つが交わされる。
二人は睨め合いながらまたぶつかり合うの繰り返しどちらも勝利を譲らない。
ここに過去の復讐に駆られた、赤備えと次代を受け継ぐ若い赤備えの一大決戦が始まった。
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