第28話老兵の意地

 昌景のスキルで二人のレベルを見る事ができたのだがその差はかなりの開きがあるらしい。


 「槍聖」とうたわれたラザル大佐は八十五、対するベルディアールは九十九このレベルに達しているのは帝国にはいないまさに。


 「化け物というわけか」


 この言葉しか思い浮かばなかった、それだけ奴から放たれる異様な闘気を感じてしまう。


 「確かに化け物だと思うけど、あのレベル差で死んでいない、ラザル大佐も充分化け物だと思うけどな」


 ひょこひょこ顔を出しながら、昌景は二人の闘いを見ていた。


 確かにそれは俺も思っていたが、だが今は状況がまるで違う、既に彼には足を失ってしまっているのだ。まず勝ち目がないように見える。


 だが、それは勘違いだったのかもしれない。


 ガギィン!!と金属同士がぶつかる様な甲高い音が響き渡るそして続け様に三回、十回と槍とガントレットがぶつかり合う。


 「くっ」


 槍を回転させながらベルディアールの足や手先を狙う。だがそれを簡単にいなされていく、反撃とばかりにラザルの片足を狙う、しかも側面から狙うという徹底ぶりであった。


 ラザルはその攻撃を槍で受け止め、遠心力を利用して蹴りを入れる、ガードされた場合は左手に持っていた刀を抜いて一気に切り掛かり体制を整える。


 二人共一進一退の攻防をしているように見えるがラザルが少しずつ息が上がっているのが見てとれてしまう。やはり歳のせいによる体力の衰えによるものだと思った時、異変が起きた。


 シュッと先程までの風を切る音が変わり付きの精度と速さがかなり上がったのだ。すんでのところで交わすベルディアールその顔に一筋の擦り傷がついていたのだ。


 「なるほど、こんなものまで隠していたとはな唯の槍使いではないらしい。やはり人間はこうではなくてはな!」


 ベルディアールの拳のスピードがさらに上がるがそれを全部防ぎ切り、更には反撃の一撃を放つ。さらに両者の闘いは激化する。


 「昌景、大佐が使ったのは?」


 「そうだよ、唯の回復魔法それも徐々に回復していくやつだよ。多分数十分はやつの攻めに対抗できる筈よ」


 この世界に置いて、魔法を極めるかそれとも武を極めるかどちらかの種類しかいないらしいが例外にどちらも鍛える強者がいるという、まさかその現場を目撃するとは思ってもいなかった。


 「多分あの大佐、奴と最初にやり合った時本気では無かったのかもしれないね。もしかしたら人類初の魔族に打ち勝つことができるかもしれないよ」


 昌景の言う通りなのかもしれない、まだどちらとも唯の近距離戦をしているだけしかも力と力の激しいぶつかり合いだけでお互いスキルの使用やバフはかけてないところを見るとまだ様子見をしているようであった。


 ガキィーンっとひときわ甲高い音を上げた後二人は一旦距離をとる。まだ息が上がっていないところを見るとまだまだこれからなのだとそう感じてしまうのだ。


 「どうやら、純粋な殴り合いでは些か長引いてしまうようだな。私はそれでも良いのだがそれでは貴君の名誉を傷つけてしまう」


 ベルディアールは、涼しげに告げる。その余裕な態度にラザルは何も言わなかった、彼等にとってここまで長引くのは初めてのことであった。まだ探り合いながらの槍と拳のぶつけ合い、それでもまだこの二人は手札を切っていない。それだけで俺はあの二人の闘いから視線が離せなくなる、こんな一騎打ちは始めて見るからだ。


 「では、少しばかり本気を出すとする」


 ベルディアールはそう宣言すると同時に一瞬のうちに消える。


 俺達がまだ追うことができずに大佐のほうに目をやると、大佐の背後をとった。ベルディアールが頭めがけて手に紫の炎を纏いながら襲っていたのだ。


 「紫炎」


 短い必殺の言葉と共に顔を吹き飛ばそうとした時すんでのところで大佐はなんとか交わす。だがかわし方は完璧ではなくそのまま体勢を崩してしまうがその中でベルディアールの足に槍を深々と刺しにかかる。


 硬い翼で槍の一撃を防ぎそのまま二撃目を放とうとするが既にラザルの姿は無く、どこにも見当たらなかったが、異様な寒気がベルディアールを包みその場から離れる。


 離れた瞬間、大量の氷が現れてそのまま勝手に砕け散る。


 「やはり一筋縄ではいかんよな!!」


 どこからともなく大佐の声が聞こえた時、いつのまにか姿を現しやつの心臓めがけて槍を放つが槍をつかまれてしまう。


 だが掴んだ瞬間槍は氷となってまた砕けてしまいかんよなまた姿を消してしまう。


 「やはりか、貴君は透明化の魔法まで使えてしまうとは流石としか言いようが無いでは無いか。もしお主の万全な状態で闘えていたらと思うと残念でならないな」


 「それは、仕方のないことだ。ワシ等は軍人である、戦に置いて万全で戦える事の方が珍しいであろう。それにまだ隠しているだろう?」


 「やはり気づいてはいたのだな」


 「伊達に長くは生きてはいない。とおぬしに言ってもあまり意味はないだろうしな、それにワシが負けたとしてもこの闘いをみて学んでもらいたいものだがな」


 ベルディアールしかいない広場で、何かこちらを見ているみたいだったから慌てて視線を下げる。


 「だが、貴君はだいぶ無理をしているようだ。このままでは身が持たなくなるぞ。それに後何回私の一撃をかわせるかな?」


 返事は無く代わりに周りがさらに周囲の温度が急激に下がる。そして無数の氷の槍が上から左右から降り注いでくる、さらに地面からは氷の柱が生えてきてベルディアールの足を確実に固めてしまう。


 同時に何かが走り抜ける音共にラザルは姿を現し槍に全神経を集中させ一撃を放つ。


 「穿て抉れ聖灰」


 神々しく光る槍が相手を斜めに斬りつけ、同時に相手は小さな十字架になり封印される。


 ラザルが打てる最大の封印術であった。元より倒すことは無理ではあったから最初から封印すると決めていたのだが。


 「それが、貴君の全てなのか?余興しては随分楽しめたぞ」


 封印した十字架から声がして驚くラザルではあったが次の瞬間顔に重い衝撃が走り吹き飛ばされてしまう。

 

 「昌景、これはどういうことなんだ!?」


 ただ見守ることしかできなかった俺だがとうとう身を乗り出しそうになる、それを昌景に押さえられ俺は落ち着く間も無くこの状況の説明を求めた。


 「透明化の魔法に、氷魔法とたて続きに上級魔法を使った大佐は多分もう魔法は使えないほどに消耗していたようね、魔力だけは元々生まれ持った容量しか持てない。そんな状態で上級魔法の連続使用はかなりの負担がかかる。本来戦闘型の人が連続で使えるのは珍しいけど限界がきて勝負に出た」


 「それがあの封印術なのか?」


 「えぇ、それにあの封印術は昔、魔王に対して一時的に使われる超級魔法文字通り選ばれたものしか使えない程の術がこうも容易く」


 昌景が狼狽えている、彼女の様子を見て俺は理解する、既に人類側に勝ち目があるか


 既に勝敗は決してしまっていた。もはや闘う気力はこちらには無いのだ。


 ガラガラっと口元の血をぬぐいながら大佐は立ち上がると同時に槍を構えるが足取りはふらついてしまう。


 「能力向上、さらに向上」


 彼は同時に自分の体に最後のバフをかけて一気に斬りかかるが、既に槍の制度は落ちており簡単に掴まれてしまい。


 「さらば、老兵よ貴君との闘い実に楽しかったぞ」

 

 最強の魔族は最大の賛辞をラザルに送り一気に腹を貫く、赤い鮮血が飛び散り一気に引き抜くとがんあに引っかかったのか内臓の一部が一緒になってついてきておりそのまま振り払う。


 ベチャッと生々しい音と共にラザルも一緒に崩れ落ちる。既に目に光は無く彼は声を上げること無く息を引き取ったのだ。


 ベルディアールはどうやら俺達の存在に気づいていたようでこちらのほうに近づいてきた。


 俺は、昌景の前に立ち刀を引き抜き、決死の覚悟を持つ、だが彼には既に殺気は無かった。


 「そんなに殺気を出さなくてもよい。既に私のやるべきことは終わったのだ。今日は久方ぶりによい闘いができたから満足だそれにどうやらあの老人の狙いは別のところにあったようだ」


 ベルディアールの指を指す方向を見ると既に塔は海津砦の兵士に制圧されていたのだ。


 「どうやら、この老人自分が死ぬ事を知っていたようだ。道理でこんな無謀な事をするか知らなかったが今ようやくわかった。このご老体は最後私に勝てたようだな」


 それだけ言うと腰の翼を広げそのままどこかへ消えていった。


 俺達は戦略的に見てこちらが有利に立つことができた。だが失ってはいけない方の命をぎせいにしてしまった。


 結局彼は死んでしまったのだが帝国で現在七大天王に勝ったものとして帝国の歴史に名を刻まれる。


 ラザル中将、享年七十二海津砦に眠る。




 


 



 

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