第27話接触七大天王

 

 俺と昌景は砦からすぐに出た。ラザルに言われた地図の場所に向かう。


 どうやら敵軍はここから十キロ範囲内のどこかで陣を敷いているらしいと彼は言ってはいたが何分ここは森に囲まれている場所の為に奴らにとっては格好の隠れ場所になってしまっているようだ。


 元々この海津砦はラザルの武名で数年攻められる事がなかった為に少し警備が緩くなっていたらしく今回の奇襲でそこを突かれてしまったのだろう。


 以来彼等は城と負傷兵の手当てなどに忙殺され相手方がどこにいるのかまるで分かっていないらしいという事らしい。もっとも相手も慎重な奴らしく攻めてくる事はまだないらしく睨み合いになっているようだ。


 「まったく、ここから十キロ範囲内で探せとか、うっかり接敵したら敵わないだろうよ。こっちは二人しかいないのだからな」


 思わず愚痴が漏れてしまう。はっきり言ってこんな無謀な事はしないのだが昌景も賛成しているので今回の作戦には賛成したのだがそれにしてもあまりにもこの奇襲作戦はやけくそに近いような気がしてならないのだ。


 「まぁ、そう言わずに今回はあの槍の達人のラザル様直々の頼みなんだからここはしっかり任務を全うして恩を売ろうじゃん!!」


 昨日の自信なさげな顔とは打って変わって昌景は声を高らかに上げて言い放つ。どうやら昨日みたいな事になってはいなくてよかったと思うが何か不自然な感じがするのだが気のせいだろうか?若干無理をしているような……そんな感じがする。



 俺達は、敵がいそうな場所にいくらか目星をつける事になった。だがほとんどが可能性が無いところばかりで手詰まり感を感じていた時にある場所が気になってしまう。その事に最初に気づいたのは昌景だった。


 「なぁ、この辺にある廃墟の中でひとつだけ塔があるところがあるでしょ」


 彼女が地図に指を指した場所をよく見ると、そこは、砦から三キロ程離れた場所にある、朽ちた廃墟があり、その近くにある小高い山に塔が建設されていたのだ。


 昔、魔王軍を監視する為に造られた建物らしく塔の一番上はこの一帯を見渡す事ができてしまうらしい。


 もしそれが魔王軍が既に占拠していたのなら話が変わってくる。そう今まで奴らはこちらの動きなど手に取るようにわかっていたのだろう。だから簡単に砦が奇襲されてしまった。それにここからだとこちらの動きは丸見えになってしまうのは危うい。


 「で、どうしょっか?このまま攻めに行きます?かなりリスクはたかいとおもいますけど?」


 確かに昌景の言う通りここを素早く奪取すれば俺達はかなり有利な展開にできるだろうが…それをこなすにはいろんな壁を乗り越えなければならない。


 ひとつは、敵に奇襲部隊の存在をバレてはいけない。多分敵も我々が攻めてこれないことを知っている為、しばらくの間警戒を解いている筈だ。例え監視があったとしてもあまり注意深くはこちらのことは見ていない筈なのだから、もしわかっていたら俺達は既に敵とぶつかっていたと思う。この点は大丈夫だ。


 もうひとつはどうやってラザル達に伝えるかが肝心だ。下手に狼煙を上げてしまうとすぐに気づかれる可能性がある。その為に慎重にやらなければならない。


 最後は一番これが重要だ。七大天王とは戦わない。逃げの一択だ、相手するとしてもそれは奇襲が成功して撤退する兵を守るための殿軍を務めなければならない。

確実に成功させるにはまず戦わない事も必要な事である。


  この三つを守りながら奴らと戦っていくのだがシンプルに見えるが達成するのは難しいだがやるしか無いのだ。たった二人でな。


 まず最初に取り掛かったのは、奴らがいるかどうかの偵察をしに行く。かなり距離をとりながら廃墟の塔周り見て回ったりしたのだが一向に兵達の姿にあったのに消えてしまっているらしい。


 「かっちゃん、先に行くよ」


 あまり、待つことができなかった、昌景は軽率にも奴らの灯台に近いた瞬間、一気に寒気が全身を駆け巡ってしまう。


 (「マズイ!?、このままでは俺達は殺されてしまうだろう引き返すなら今のうちだ!!」)


嫌な予感がする為に俺は引き返せように昌景をとめようとした瞬間俺は見てしまった。


 そのすがたはツノが生えており、青白い男腰の辺りに漆黒の翼そしてゴツゴツとした尻尾がうねらせている。まさに見た目からでもわかる異形な姿をしていると。


 ゾッと背中に氷でも入れられたような寒気がし、昌景の方を見ると既に昌景は俺のところまで下がり臨戦態勢に入っているがいつも余裕がないのがわかるほどに彼女の表情からうかがえる。


 「なるほど、随分と手練れのようだななかなかのレベルだが、経験はまだ未熟といったところかその歳でここまでの領域に達するとは人間の成長は神秘的ではあるな」


 尊大な物言いではあるのだが、こちらに敬意をしめしているようなのだが依然と威圧感は出したままの魔族に俺達は少し後退りをしてしまう。


 (「思っていた以上に俺達では相手になるかどうかの強さをしている。よくあの大佐は足一本で済んだな」)


 動こうにも動けないまるで蛇に睨まれてしまったカエルのように俺達は眼前の脅威に狩られてしまうのを待っているだけの哀れな獲物に成り下がってしまった。


 「フッ、ただ闇雲に立ち向かってこないところを見ると蛮勇ではないらしいな、生憎と私は君達とはやり合うつもりは無いよ。ただここの七大天王に頼まれて少し手伝っただけでな。あとあそこにいた爺さんにはお礼を頼みたいのだが、久しぶりに熱くなれたものでな」


 「そうですか、それはよかったですね俺達もあなたみたいな化け物と戦わなくてよかったと思っています」


 物言いからして高貴な方だと感じて思わず敬語になってしまうがどうやら見逃してはくれるらしい。


 だが、依然として彼の殺気は消えていない、その原因がわかる前に動きがあった。


 シュッと何者かが後ろから現れ、あの魔族に切り掛かったのだ。


 ガキン!っと魔族は涼しげな顔でその一撃を防ぐ。


 「貴君は、私と決着をつけたいようだなご老体だがその体でどこまでやれるかな?」


 切り掛かったのはなんと片足です立っているラザル大佐であった。大方転移魔法でここまできたのだろうだが不思議と兵を連れずに一人でここまできたのだ。


 「あのような形では、ワシも気がすまんのでなさぁ存分にやり合おうぞ!!」


 ラムザは槍と刀を構え一騎打ちの名乗りを挙げた


 「ワシは帝国軍大佐であり「槍聖」のラザルここにおぬしに一騎打ちを申し込む!!」


 老人の高らかな宣言を聞いた、魔族は笑った。


 「久方ぶりの一騎打ち!!それに貴君程の手練れにこうも言われては無礼であろうな!ならば私も名乗らねば!!」


 戦闘態勢になる魔族も同じように口上をあげる。


 「私は、魔界三巨頭の一人であり、七大天王の筆頭ベルディアール!!推して参る!」


 ベルディアール、伝説によると彼も同じように異世界から来た魔族らしく一時期は魔王として君臨したことがある。その強さは初代皇帝と勇者2人がかりでやっと互角に持ち込んだ程の圧倒的な強さを誇っていたらしい。


 かくして、魔王軍最強の魔族と帝国最強の槍使いの二回目の激戦が切って落とされた。


 俺達は、すぐに動き近くの物陰に隠れて彼等二人の戦いを見守る事にした。あまりにも話が進みすぎて俺達を置いて行きながら決戦が始まる。


 「一体、全体なんでこんな事に…」


 「さぁ、私にもわからないけど」


 予定とはまったく違う事になってしまったが俺達は次どうするか考えなければいけないのだが、そんな余裕は無かった。


 何故なら二人の決戦がこれほど激しいものになるとはわからなかったからだ。


 


 

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