第26話これって陽動なの?


 俺達は、ことの事態を帝都に送った。なるべくはやく来てもらうことを書き添えて、多分次ここを襲われたら持たないと思う。


 一応、昌景がいるためある程度は耐えれる筈だが一番心配なのは七大天王の実力が気になるぐらいなのだが…


昌景曰く、レベルは自分の方が上だが経験はラムザの方が上で勝負は互角になるかもしれないと言っていた。


 彼女に「勝てるのか?」と聞いたところ、「勝てると思うよ」と笑顔でそう答えていたが手が震えている事に気づき俺は何も言えなくなってしまう。


 

 俺も出来る限りの事はするが、果たして小手先の技が相手に通じるかが不安になる。


 (「だが、もし攻めてこられたらやるしか無くなるそのときは昌景だけでも逃げてもらうしか無いな」)


 

  流石に彼女に俺たちと共には死んでほしくはなかった。まだ若いのだからな、もし駄々をこねるようなら力づくでもと、言いたいとこだが仮にも英雄クラスの化け物を止める事ができるのか、まったく分からないけどな。


 結局、彼女にどうやって不意打ちを食らわせるのかと、七大天王をどう攻略するかを考えている内に俺達はラザルに呼ばれる事になった。


 「二人とも、こんな早くから呼びつけて悪かったな」

 

 笑顔で老人はこちらに話かけてきたが、顔には大量の汗をかいていて肌は少し青白かった。どうやら昨日は相当無理をしていたのだろう。あの怪我で意識を保っていられるのは尋常では無いし、ちゃんとした治療も受けていないようにも見えた。


 そんな状態でも彼は笑って俺達を迎え入れてくれるのだから、彼の意地なのかもしれないが指揮官としての立ち振る舞いとしては見習いたいかぎりでもある。


 「さて、二人を呼んだのは他でも無い、少し偵察に出てきてほしいのだ」


 大量の汗を拭いながら、ラザルは俺達二人を見据えている、その目は品定めをされているような感じがする。緊張感を感じさせるものだった。


 「と、仰いますと私達だけで相手の陣地にまで偵察に行ってもらいたいと言うことですかな?」


 「あぁ、そうなんだ我々としてもこれ以上の損耗は抑えたいそれに君達二人以上に強い奴はこの砦にはいないこの私を含めてな」


 軽く自分自身を自虐気味に述べながらラザルはまた左足をさすっている、もしかしたら既に彼は身体だけでは無く、心にも傷を負っているかもしれないと推察してしまう。悪魔で俺の主観だが彼には一刻も早く適切な治療を受けてもらいたい。


 「そこで今回の任は、魔王軍の戦力と可能ならそのまま陽動もしてほしい。現状の動ける戦力で奇襲を仕掛けて適度に痛めつけてから撤退したい。少しでも奴らの砦侵攻までの時間稼ぎが狙いなのだがやはり厳しいと思う?」


 「はい、かなり厳しいですな、相手方の戦力もわからない。それに七大天王がいる陣地を偵察するのはなかなか」

 

 俺は少し歯切れが悪くなってしまう。そもそも今回の奇襲は流石に厳しい、兵力未知数な相手に奇襲を仕掛ける事になるまず奇襲するにしても兵力が少な過ぎる。仮に成功してもすぐに敵の大量の兵士に飲まれてしまうだろう。


 「まぁ、そうなるだろうが、このまま砦にいてもあまり状況は変わらない思っているのだ、頼むワシに挽回のチャンスをくれないか?」


 (「本音が出たな、爺さんその足でリベンジするつもりか」)


この負傷兵はまだ戦う気であるのだろう。やはり彼は相手に対してリベンジしようと考えているようなのだが、流石にこんな状態の人に戦をさせるのは死にに行くようなもんなのだが…。


 チラッと、傍にいる昌景に視線を向ける、彼女の意見も聞こうと思った。だけど彼女はコクンとうなづくだけだった。それは老人の好きなようにさせるべきだと言っているのと同じ事であった。


 「わかった、では大佐の意見を採用しますが、決して無茶だけはしないで下さいね」


 ガシッと、大佐に手を掴まれ何度もお礼を言われた。とりあえず俺と昌景二人だけの陽動を仕掛ける事になったのだが、俺はある事に気づいてしまう。


 それは昌景が一個師団クラスの強さである事に慣れていた自分を悔やんでしまうほどに。


 「あれ、これって陽動っていうより捨て石とかのレベルでは無いのかな?」


 「かっちゃん、今更気づいたの。まぁあのご老体はそこまで考えていないと思うけど、それでももっと早く気づくべきだったよ。まぁ」


 重大なミスを犯して頭を抱えている俺の近くまできて俺の肩を軽く叩きながら彼女はこう告げる。


 「私が守ってやるから安心してくれよ。おやかたさま、なんてね」


舌を出しからかうように彼女は言葉を残して武具の手入れに向かう。


 「フッ、久しぶりに聞いたな」


 彼女の言葉に胸が締め付けられる。お館様、かつて俺の父がそう呼ばれた名であり、俺には過ぎた呼び名だったからだ。


 少し時間が過ぎ、昼どきに俺と昌景二人だけの陽動作戦兼奇襲作戦を決行する。


任務内容は俺達二人が敵陣地まで行き、しばらく暴れてから、敵を引きつけ少しの間時間を稼いでから大佐率いる、精鋭二百程で敵陣地を奇襲し、これを占拠そしてそのまま可能なら敵の挟撃又は陣地の破壊と兵糧などの略奪をし、可能な限り的な戦力を削り、援軍が来るまでの時間を稼ぐ。


 俺達二人は、この作戦の要であり片道切符を持たされた。哀れな生贄に等しいのだが、無論俺達は死ぬ気は無い。なぜならこっちには冒険者最強の女性であり、かつての赤備えを率いた武田四天王と同じ名前を持つ、頼れる相棒がいるからだ

 






 

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